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第33話 華やかな表舞台の陰で

 面接で噛みっかみだったのが嘘のように、ヴァイオレットはテキパキと仕事をしている。彼女はあの面接に人生をかけていたようだった。


 まあ顔を見て即採用だったんだけどね。


 お金の流れも分かり易くまとめて伝えてくれるし、聖女支援財団の金の事以外はスティーリアの補助として動いてくれた。俺が予定通り財団の金の報告を依頼したら、そんなのはすぐに終わるので手すきになると言われた。それなら後は適当に休んでいてくれて良いと言ったのだが、自分から仕事を見つけては分かりやすく分類してくれるのだった。


「スティーリア。彼女はどんな感じ?」


「優秀です。私が彼女の上司なんておこがましいほどです」


「そりゃ凄い。まあここに慣れるまでは面倒見てね」


「はい」


 俺がスティーリアにヴァイオレットを任せているのは、仕事の事以外にも理由があった。それは彼女が王宮でどんな仕打ちを受けたか聞いてもらう為だった。一番偉い聖女の俺には話し辛いと思い、優しいスティーリアならば話すと思ったからだ。


「それで、彼女からなにか話は聞いている?」


「それが。個人的な事は、あまり話したがりませんね」


「そうか…恐らくだけど王宮で嫌な思いをしてたと思うんだよね」


「なんとなく、そのような雰囲気ですね。やはり私が年下ですし言い辛いのかもしれません」


「そう言われると私もだけど。彼女の醸し出す雰囲気は年下っぽいのにね」


「そうですね」


 まあ話したくないのなら話さなくても良いとは思う。だけと心に傷を負ったままなのは可哀想だ。出来る事なら俺が癒してやりたいが、言って見れば聖女の俺はここの社長みたいなもんだ。社長の俺に悩み相談など気軽に出来たもんじゃない。


 てか…俺は誰の悩み相談も聞いた事無いな…。


「あの、スティーリア…」


「なんでしょう?」


「私に…」


「はい」


「話し辛いとかあるかな? なんというか言いたい事も言えないみたいな」


 するとスティーリアが少し考え込む。


 なになに? やっぱりあるの?


「あの言い辛いのですが、聖女様になるちょっと前にお会いした時はお声がけし辛い感じでした。でも今はあの頃の聖女様のイメージとは全く違います。むしろとても話しやすくなったような気がします」


 良かった…


「それなら良いんだけど」


「まあヴァイオレットさんも、時間をかければ大丈夫だと思いますよ」


 ヴァイオレットはまだ、聖女邸の環境に慣れていない。ああいうタイプの女に心を開かせるには、ストレートに褒めてやる事とフレンドリーに自然体で接するのが良さそうだ。やっぱり仕事という意識が強いと、心を開くのは難しいかもしれない。


「えっと、それならスティーリアにお願いしたいことが」


「はい」


「特別給金をあげるから彼女を街に連れて行って、高級スイーツを御馳走してあげて。そしてなんでもいいから彼女を褒めてあげる事。あと他愛もないアクセサリーで良いから、貴女と彼女の二人分をお揃いで買って」


 一瞬スティーリアが何を言われたのか分かっていないようだった。俺はヴァイオレットを連れて、街で遊んで来いと言っているのだ。


「えっとお休みの時にですか?」


「これは仕事としてかな。彼女の休みの時にでもいいし、わざわざスティーリアの休みを使う必要はないよ」


「いえ! それでは彼女と休みを合わせてそうしましょう」


「まあ…スティーリアの思った通りでいい。とにかく彼女と一緒に美味しいスイーツを食べて、プレゼントを買ってあげてね」


 そして俺は金庫を開けて、スティーリアに大金貨を二枚ほど渡す。日本円にすると二十万円分くらいになる金貨にスティーリアが驚いた。


「こんな大金を…」


「いいのいいの! スイーツも美味しいものを、プレゼントはずっと残りそうな高価なものをあげて」


 俺が力強く言うと、スティーリアは俺の意を介したように言う。


「わかりました。それでは彼女の為にプランを考えます」


「ありがとう。悪いね、難しい仕事を頼んでしまって」


「いえ。聖女様の組織の一員になっていただくためには、やはり気心知れた仲になっていただく必要がありますから。そしてこんなにも彼女の事を心配される聖女様のお気持ち、しかと承りました。誠心誠意、頑張りたいと思いますのでお任せください」


 スティーリアの目力が強い。そこまで気合入れなくてもいいとは思うが、彼女には彼女のやり方があると思うので任せる事にした。


 そして俺はスティーリアと午後に予定されていた、孤児院への視察に行くことにする。最近は孤児院の視察も気晴らしになった。やはり仕事で根詰めて居ると、子供達の無邪気な笑顔に癒されるのだと知ったのだ。前世のヒモ時代の俺なら子供などに構う事は無かったが、条件が変われば人は変わるものだと改めて思う。


「最初に嫌な所を周りましょう」


 俺が言う。


 嫌な孤児院とは、デブでハゲのギラギラした司祭クビディタスがいるところだ。アイツは本当に馴れ馴れしく、脂ぎった顔で俺に接してくる。あまり距離が近くなるとスティーリアが間に入ってくれるものの、俺はスティーリアにも近づいて欲しくないのだ。


「スティーリア、あれは用意できてる?」


「はい。ヴァイオレットさんが手伝ってくれたので間に合いました。既に馬車に積んであります」


「よかった。それじゃあ行きましょう」


「はい」


 俺とスティーリアは修道服を来て、家の前に止めてある馬車へと向かうのだった。馬車の後には大型のトランクケースが結び付けてあった。これは俺がスティーリアに任せて準備させていた物だった。


「流石はスティーリア。抜かりはないね」


「ありがとうございます」


 そして俺達はクビディタスが運営している孤児院へと赴く。あの孤児院をみて気づいた事は、子供達が遠慮がちだと言う事だ。巡回中にクビディタスがいると、子供達が忖度して配るお菓子も遠慮がちにもらっていく。きっとアイツが目を光らせて子供達を牛耳っているのだろうが、人の運営に口出しできないので今は黙っている。


 馬車は何事も無く進み王都の孤児院へと到着した。孤児院とは捨てられた子供などを保護して育てている場所だ。運営している人のさじ加減で、子供達の将来も決まるし待遇が決まるのだ。出来ればクビディタスなどに運営して欲しくはないが、こいつは司祭のくせに金儲けがうまい。余った金で孤児院を運営しているのだから、誰も文句などは言えない。


 だけど、それは陰の仕事の隠れ蓑だとのうわさも聞く。子供達を労働力としてつかい、将来は自分の為に稼ぐ兵隊にしているというのだ。あくまでも噂の範囲なのと、聖職者なのでガサ入れされないという強みがある。何よりも金を持っているので、貴族達とのパイプも太いのだ。


「クビディタス様の孤児院に到着しました!」


 御者が声をかけて来た。俺とスティーリアは馬車の扉から降り立つ。すると早速、あのデブの司祭が俺に近づいて来て握手を求めるのだった。

 

 まあ…コイツと握手なんて一回もした事無いけどね。


「これはこれは! 聖女様! お待ちいたしておりました!」


「ええ。子供達は元気ですか?」


「それはもう!」


 そして俺とスティーリアを連れてクビディタスが孤児院に入って行くと、子供達がぞろぞろと建屋から出て来た。


「「「「聖女様! よくお越しいただきました!」」」」


 最初この挨拶に俺は違和感が無かった。だけど何回も通っているうちに、やらされている感が強くて違和感を感じるようになった。


「みんな元気かな?」


「「「「はい!」」」」


 まあ血色も悪くないし、ぼろを着ているわけでもない。きちんと食べさせて、服などにも寄付金を使っているようなので一安心する。まあ子供もしばらくすると打ち解けて、俺に魔法を見せるようにせがんで来たりする。だが既にマジックはネタ切れなので、今日はある物を用意しているのだった。


 とにかく俺はこの仕事に慣れていくにつれて、いろいろと影の部分が見えるようになってきたのである。ヴァイオレットの件もそうだが、お飾りの聖女ではなくなった今、俺に出来る事は何かを考えるようになっていたのだった。

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