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第332話 シーノーブル騎士団面接会

 面接なんてヴァイオレットの時以来だなあ。まあ、今回は朱の獅子とウェステートとソフィアがやって、ヴァイオレットが書記を務めるんだけど。俺とアンナはアドバイザーとして、はたで見ているだけ。


 最初の四人は駆け出しの冒険者の面々で、ヴィレスタン周辺の村の出身者らしい。


「では」


「「「「は、はい!」」」」


 なんだ? ガッチガチに緊張している。


 ロサが落ち着くように言っている。だが冒険者達の視線が、ちらちらとアンナに向かっているようだ。どうやらギルドで、特級冒険者がいる事を吹き込まれてきたのだろう。


「アンナ。ちょっと席を外そうか」


「わかった。隣の部屋にいる」


 アンナが出て行ったのを見て、冒険者達はホッとしているようだ。目の前にいる朱の獅子も、高ランクの冒険者なのだが、やはり特級冒険者がいるとなるとビビってしまうらしい。


「じゃあ、お名前と年齢と自己紹介を」


「はい。名前はリーズン、十六歳、Fランク冒険者です」


「次の人」


「パンタシア! 十五歳! Fランクです!」


「カシマール! 十四歳! Fランクです!」


「フェリチータ  十四歳! Fランクです!」


 若っか! 二人はこの世界で言うところの未成年だ。労働基準法に抵触しないだろうか?


 ロサが聞く。


「全員Fランクか…もしかすると同じパーティー?」


「「「「はい!」」」」


 本当の駆け出しの子らが来たらしい。


 そしてソフィアが聞いた。


「志望動機はありますか?」


「はい! 王都の朱の獅子と言えば、女だけで組まれたAランク冒険者として有名です! 私達は朱の獅子に憧れてパーティーを組んだのです!」


 すると魔法使いのシャフランが親しみをこめて言う。


「私達に憧れるなんて見どころがあるわね」


「ありがとうございます!」


「パーティー名はあるの?」


「山吹狐といいます! 朱の獅子に憧れてつけました!」


「可愛い」


 うん。かわいい、シャフランが言うまでもなく可愛いと思ってた。


 ロサが言う。


「冒険者の募集じゃなくて、騎士の募集だって知ってる?」


「はい。あ、あの。お給金が貰えるって書いてました」


 そこでソフィアが代わって答える。


「そうです。騎士の仕事と、冒険者の仕事を両立させてもらう必要があります。それなりに忙しくなりますので、お給金はその手当という事になります」


 すると四人が顔を合わせる。


「すごいね」

「本当なんだ」

「びっくりした」


 だが一番年長のリーズンが言った。


「で、でも。それでも結構、大金だと思うんです。危ない仕事とかあるのでしょうか?」


 すると今度はロサが答えた。


「冒険者の仕事はFランク相当かな。そして騎士の仕事は鍛錬と市中の見回り、有事の際は市民を守るために戦わねならない」


「戦う?」


「そう。だけど、今のその状態で戦えという訳じゃないの。私達があなた方を鍛錬するから、その後、合格したら騎士団に入団する事になるわ」


「えっ! 朱の獅子に鍛錬してもらえるんですか!」


「そうよ」


「本当ですか!」


「本当よ」


 すると少女たちの目がキラキラして来た。彼女らからすれば、自分が憧れるスターに稽古をつけてもらえるのだから嬉しい限りだろう。


「凄い…」


 だけどリーズンが質問して来る。


「ゆ、有事とはなんですか?」


 それにはソフィアが答えた。


「いくつかあります。もし戦になった場合は、国家騎士団の後方支援として物資を運んだり、伝令を頼まれる事もあると思います。ですが一番の敵がいます」


「一番の敵ですか?」


「邪神ネメシスです」


「はっ? あの御伽噺の?」


「御伽噺ではありません。ネメシスは実在します。ですから、あなた方には聖女様の加護を頂きます。そして毎日の稽古動揺に、女神フォルトゥーナへの祈りを欠かさずにしてもらいます」


「わかりました」


 そしてヴァイオレットが、紙を皆に見せながら言う。


「すぐに入団出来るわけではありません。これから数週間は朱の獅子と共に、ギルドの仕事を受けたり鍛錬をしてもらいます。朱の獅子が合格を出した人だけが、シーノーブル騎士団として採用されるわけです。その暁には、この認定書をお渡ししますので、それで正式入団となります」


 皆がコクコクと頷いていた。


 そして最後にウェステートがニッコリ笑って言った。


「とにかくチャレンジあるのみ! 皆さんの頑張りを信じてますよ! 張り切ってね!」


「「「「はい! お嬢様!」」」」


 どうやらヴィレスタンでは、ウェステートの方が認知度があるらしい。


 最後にヴァイオレットが言った。


「では。明日の朝、八時にこちらにいらしてください」


「「「「はい!」」」」


 そうして山吹狐の面々は、ぺこりと頭を下げて出て行った。完全に出て行ったのを見て、朱の獅子達が大きなため息をつく。


「はあっーーー!」

「ふぅ……」

「もう、肩凝る!」

「でも可愛かったわ」


 俺が言った。


「逆に緊張した?」


「だって聖女様。私達は面接なんてガラじゃないですよ。こんな畏まった面談なんてするとは思わなかったから」


「ごめんね。でも、これが意外に大事なんだよね。内容を聞いてこなくなる人もいるだろうし、まずはふるいにかけないといけないから」


 俺がそう言うと、朱の獅子らは首を振って言う。


「全員来ますよ」


「そう?」


「Fランクですよ? お金の為に薬草を摘む子らが、いきなり高い給金で雇われるかもしれない騎士団の募集を断るはずがありません」


「Fランクってそんな感じなの?」


「薬草積んだり、ペットを探したりして日銭を稼ぐ、その日暮らしみたいなもんです。安定した給金が貰えるとなればやりますって」


「そうか。ていうことは、給金を提示したのは正解だったという訳だ」


「このあたりで、聖女様が提示した給金をもらえる仕事なんて、あるわけ無いじゃないですか」


「まあ、それなりの額を提示したからね」


「下手したらDランク冒険者が来るかもしれない」


 そうなんだ。それはそれでスタートが違うから良いと思うけど。そこでソフィアが口を挟んだ。


「そこが結構な問題になるところですわ。私としては先ほどの山吹狐のような、まだ何者にも染まっていない子らが良いと思っています」


 俺が聞いた。


「どうして?」


「女神フォルトゥーナへの信心深さです。大人になれば、その辺り、いい加減になってしまうかもしれません」


 それを聞いてロサも頷く。


「言えてますね。私らみたいに聖女様や姉さんと接しているなら、邪神の脅威を知っていますが、普通の人は御伽噺だと思っていますから、そこから敬虔な信徒になるかどうかは分かりません。ですが、先ほどの子らのような純粋な子は、疑わずに祈りを捧げるでしょうから」


 確かにそうか。中途採用よりも、新卒の方が教育が楽って聞いた事もあるしな。


「いずれにせよ。あと六人いるから、面接を続けようか?」


「わかりました」


 そしてその後も続けたが、残りの六人は冒険者ですら無かった。ギルドに依頼を出すように言われてきた商人の使用人だったり、雑務を頼まれた市場の娘だったり、鍛冶屋で手伝いをしている娘だったり。


「どうやら取り越し苦労だったようだね。冒険者は最初の山吹狐だけで、あとは一般市民だったようだ。普通に就職口を探して来たみたい」


「そのようでした」


「あとは明日、何人来るかだよね。仕事とは言え、ギルドに登録してもらう事になるから、それに抵抗がある人はダメだろうけど」


 するとそれにもロサが言う。


「恐らく全員来ますよ。女がこんな給金で働ける事なんてないですから」


「そんなもんかねえ…」


 とにかく面接を終えようとした時だった。メイドがウェステートの所にやって来た。


「お嬢様。騎士団入隊のご希望者が、五人ほどいらっしゃっております」


 マジ?


「そうですか。それでは聖女様どういたしましょう?」


「じゃあ、五人全員面接しよう」


「わかりました。ではこちらに通してください」


「はい」


 なるほどねえ…。前世なら高い給料には何か訳がありそうと考えるだろうけど、この世界はそんな情報は無い。とにかくいい給料ならば、話を聞いてみようという人は多そうだ。


 俺は自分が考えた、給料提示案がこれほどうまくいくとは思っていなかった。


 俺はヴァイオレットに言う。


「ちょっとアデルナを呼んできて」


「はい」


 あまりにも入団希望者が増えれば、こちらの業務がパンクしてしまう。アデルナにギルドに行ってもらって、ちょっとポスターの提示を止めてもらうように依頼させようと思うのだった。

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