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第331話 令嬢集団ギルドへ行く

 昨日までの研修とは違い、どちらかというと若干物騒な町の方に向かう。物騒といっても裏社会と言うわけでは無く、荒くれ者が大勢いるという意味だ。冒険者が多い町なので、目つきの鋭い奴らがいっぱいいる。そんな中を、貴族令嬢の集団が歩いて行くのだから、ジロジロ見られるのは致し方ない。


「そんなにピリピリしなくても大丈夫」


 俺はソフィアの護衛としてついて来ているネル爺に言う。


「わ、分かっております。ですが、万が一という事もありますのじゃ」


 他の貴族令嬢お付きの騎士や使用人も、周りをみて戦々恐々としているようだ。地方の冒険者からしてみれば、煌びやかな貴族令嬢などは高根の花。そんな子らが、ぞろぞろと歩いているのだから、そりゃいやらしい目つきもするだろう。


 だが…なんかしたら、ぶっ殺すけど。マジで。


 恐らく俺が殺したとしても、正当防衛があっさり認められて処理されるだろう。そのくらいの地位を手にしているのだから、もちろん怖いものは無い。


 だが俺が安心しきっているのは、自分の力ではなくアンナだ。特級冒険者の護衛対象に手を出したなんて事になったら、ギルドで生きていく事は出来ない。


 まあ…もし変な事をする奴がいるとしたら、駆け出しか、もっと田舎から出て来た冒険者だ。


「みんなも怖がることないからね」


「「「「「「はい!」」」」」」


 そんな状況ではあるが、ソフィアは相変わらずキリリとしている。ウェステートは地元なので、自分に危害を加えて来るものがいないと分っているからニコニコしている。


「ついた」


 アンナが言って、俺は皆に言う。


「何事も勉強。ちょっと男くさいかもしれないけど、ここが皆を護衛したりする冒険者がいる場所だよ。ギルドに来た事ある人はいるかな?」


 すると男爵の娘二人くらいが手を上げる。


「もしかしたら護衛の依頼にでも来た?」


「「はい」」


 やはり伯爵や子爵の娘で、ギルドに来た事ある人はいないようだ。


「じゃ、入りましょう。従者の皆さんはここで待っててね」


 ネル爺が不安そうに言う。


「しかし…」


「勉強にならないので」


「分かったのじゃ」


 そうして令嬢たちがぞろぞろとギルドに入ると、冒険者達が静まり返り一斉にこっちを見た。こんな綺麗どころが来たら、見ない男の方がどうかしてる。普段はうるさいギルド内も、まるで王城のように静まり返っている。


 だが…。俺が思っていたような、冒険者が声をかけて来た。見た感じ大したランクではなく、恐らくは新人に毛が生えた田舎の人らだ。


「おいおい! 綺麗どころがいっぱいだぞ!」

「本当だ! いろっぺえなあ!」


 バカが…。


 だが…全く大事にならなかった。そこに居た先輩冒険者達が、集まってきていきなり袋にしてしまう。


「へへっ、どうもすみませんねえ…言い聞かせときますんで」


 そして慌てたギルド職員が、真っすぐにアンナの所に飛んで来た。


「こ、これは! あ、アンナさん! いらっしゃいませ!」


 以前のヴィレスタンの騒ぎの時に、特級冒険者だと知っていた子だ。


「予約などは無いが?」


「いえ。直ぐにギルドマスターをお呼びします!」


「頼む」


 顔パスだった。あっさり話が通り、慌てたギルドマスターが階段を駆け下りて来る。相変わらず厳つくて、冒険者達を束ねるのにふさわしい強面である。だがそのギルドマスターがかしずいて、俺達の前でぺこぺこしていた。


「こ、これは! 聖女様御一行ではありませんか!」


「いつぞやはお世話になりました」


「い、いえいえ! どうぞ! 奥へ!」


 そうして俺達は階段を上り会議室へと通される。ギルドマスターも仕事をしていたと思うのだが、突然最優先事項がやって来たのだ。ギルド内が滅茶苦茶慌ただしくなってくる。


 うーむ。これじゃあ勉強にはならない。まあいっか。


「えー。今日は一つお話がありまして」


「な、なんでしょう?」


「まずは座っても?」


「は、はい! 皆様お座りください!」 


 令嬢たちが座るのを見て、俺が話を切り出す。


「実は我々聖女財団で、シーノーブルという貴族子女研修会を組織したのです」


「はい」


「更には、シーノーブル騎士団と言う組織の結成が決まり、ルクスエリム陛下の許可のもと、構成員を集めようという事になっているのです」


 だがギルドマスターが慌てて言う。


「く、国の事であれば、ギルドでは何も…」


「いえいえ。これは公の仕事ではないのです。聖女の私営騎士団の話ですから」


「はあ…」


 ギルドマスターは何の話か見えてないようだった。


「あの。ちょっとしたお願い事があるのですよ」


「なんでしょう?」


 するとソフィアが手を上げて話し出す。それはシーノーブル騎士団の設立意義や、これからの未来に関するものだった。ギルドマスターは半信半疑で聞いている。全ての説明が終わると、ギルドマスターが言って来た。


「いやあ…冒険者にその騎士団に入りたいという者がいるかどうか。もともと自由を求めて冒険者になる事が大きいですからな」


 そこで俺が取って代わる。


「まあまあ自由なんですけどね。ギルドに登録していてもシーノーブル騎士団になって良いのです。国家騎士団や聖騎士団のような、厳密な戒律は無いのですから。そして毎月の決まったお給金があるのも魅力かなと。領主と教会とギルドが連携して、その組織を作っていただきたく思っております」


「まあ…前例がないと思いますので、やって見ないと分からないと言いますか…」


「ああ。ギルドがやる事はほとんどないですよ。通年でシーノーブル騎士団の勧誘ポスターを、ずっと掲示板の一角に張り続けてください。そしてその説明を求める者がいたら、ギルド職員の方に言ってもらいたいことがあるのです。それに興味があったら辺境伯邸行って話を聞いてくれと、それでギルドの仕事は終わりです。あとは何もしていただかなくて結構です。ただその子らがギルドの仕事をしたいと言ったら、させてあげてください。もちろんギルドのルールにのっとってやってくれて良いです」


「それだけで?」


「はい。ただ一つ、ポスターにも書きましたが、男は入団できません」


「わかりました。そう言う事でしたらやって見ましょう。ほかならぬ聖女様と特級冒険者の依頼であれば、それを断る事は田舎のギルドには出来ません」


「よかった。それでは、ソフィア」


「はい」


 そうして数枚の羊皮紙に丁寧に書いた、シーノーブル騎士団勧誘のポスターを渡す。


「では、出来るだけ目立つところにお願いします。もちろん他の冒険者の邪魔にならないように」


「はい」


 話が終わったので、俺達が会議室を出て一階に行くと、ボコボコにされた新人の冒険者が、アンナの前にジャンピング土下座をした。


「「すみませんでしたぁあぁぁ!!」」


「これも学び」


「「はい!」」


「では」


 そうして俺達はギルドを後にするのだった。


「お、終わったので?」


 ネル爺が声をかけて来る。


「終わったよ」


「そうですか。何事も無かったようですな」


「ないない。特級を前に、そそうをする人なんていないから」


「そうなのですね」


 そこで子爵令嬢のミステルが聞いて来た。


「聖女様」


「なに? ミステル」


「私達は何もしませんでした」


「それは違うんだよ。私達シーノーブルという組織がやっている事を、直に見る事が凄く重要なんだ。もちろん根回しや話し合いは幹部がやったけど、いつの間にか出来てたというより、実際にどんな動きがとられたか知るのは大事なんだよ」


「わかりました」


 それから俺達は、予約していたギルド近くの大衆食堂で郷土料理に舌鼓をうつ。冒険者が来る食堂なので、めっちゃ盛りがいいし味も濃い。盛りが良いのは分かっていたので、一皿を三人でシェアして食べている。普段食べている上品な料理とは全く違うのでびっくりしていた。


 まあ、工業団地や道路工事関係者が、いっぱい居るような場所にある食堂のようなもんだ。


 皆が料理を食べ終わったので聞いてみる。


「冒険者が食べる料理はどうだった?」


「美味しいですが…毎日はちょっと」

「味がとても濃くて、少しでもとても満足でした」

「こんなに食べるんですか?」


「そう。冒険者はその分消費するから」


「凄いです…」


 皆が三人前をぺろりと平らげたアンナを見て言う。リンクシルも負けず劣らず二人前を食べていた。


 ソフィアが言う。


「体力づくりというのはここからなんですね。私達も見習ってしっかり食べるようにしたいものです」


「「「「「「はーい」」」」」」


 なにが『はーい』だかわからないが、ソフィアの言葉には不思議な力があるようだ。


 俺達が食堂を後にし辺境伯邸に辿り着いた時、驚きの光景を目にする。なんと門の前に十人くらいの女がたむろっていたからだ。


 その子らに俺が声をかける。


「あー、どうしました?」


「あの、ギルドでポスターを見たんですけど…辺境伯様のお屋敷に入るなんて気が引けて、呼び鈴を鳴らすかどうか迷っていたんです」


「えっ! そうなの! は、入って入って!」


 なんとシーノーブル騎士団の説明を聞きに、冒険者の女達が来ていたのだった。

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