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第31話 初々しい新人

 新しい屋敷には前の屋敷より広い中庭があった。そこにはテラスがあり、使用人やメイドの女達には自由に使うようにさせている。そして俺は二階の廊下の窓から、テラスで憩いの時間を過ごす女達を見てニタニタしているのだった。この建物は前の住居より更に美しい飾りが施されており、働く彼女らのモチベーションを上げてくれた


「お過ごしやすい天気ですね」


 俺の後ろからスティーリアが声をかけて来た。窓を開けていると爽やかな風が入り込んできて、庭に生える木々の葉の香りが漂う。昨日の議会での聖女支援財団の話は、俺にとって最も都合よい形で決着した。そのため俺の機嫌はすこぶる良い。爽やかな風が俺の金色の長い髪を撫で、ようやく帝国戦の呪縛から解き放たれたような気がした。俺がスティーリアに言う。


「陛下から、とても良い家を下賜いただけて良かった」


「以前の建物よりも広く、そして美しいです。こんなお屋敷を使わずにいたなんてもったいないですね」


「本当だ」


 スティーリアから目を逸らし、俺はまた中庭でくつろいでいるメイド達を見る。俺が屋敷の従業員に、きっちり休みを取るように言うのには理由がある。根詰めて仕事をしても、ろくなことが無いと思っているからだ。楽にそして楽しく過ごすのが一番良い。


 …前世ではまともに仕事なんかした事が無いけど。ホスト時代の先輩からそう教わった事がある。ホストなのに成功哲学の本を読み漁っている先輩だった。まあ…あのあと先輩が成功したという話は聞かなかったけど。


「聖女様は、メイドさんや使用人さんが寛がれるのを好まれますよね」


「え? だってあの方が幸せそうじゃない」


「はい。そう思いますが、教会でそんな場面を目撃されたら叱られますよ」


「ああ、あそこは独特だから。私は聖女だから特権階級のようなもので束縛されないけど、スティーリアはそうはいかないもんね」


「まあ聖職者ですし。ですが聖女様が私をお付きに任命してくださったおかげで、こうしてお側に仕える事が出来ております。聖女様には感謝です」


 それはもちろんそう! 修道女の皆様の中でも、見目麗しいスティーリアは俺の側にずっと居るべき! 教会から戻るように言われても、ルクスエリムの権力を使って阻止するから安心して!


「仕事ぶりがいいから。これからもよろしくお願いするね」


「もちろんです! 聖女様がお許しになるのであればいつまでも」


 いい感じ! この前の夜の会食の時にスティーリアに化粧させたら、やっぱりクールビューティ―に仕上がった。それはそれで俺の好物だし、この仕事中とのギャップがたまらない。


「それで、今日の午後だったね」


「はい。王宮から女性の文官が派遣されてまいります」


 聖女支援財団の金の流れを、こっちでもきちんと掌握できるようにしておいたほうが良いとルクスエリムに言われ、俺が女性の文官を派遣して欲しいとお願いしたのだった。相当わがまま言わない限り、ルクスエリムは俺の言う事を聞いてくれる。


「さて、お昼にしようか」


「はい」


 聖女邸の昼食は全員で取る決まりになっている。そこでコミュニケーションを図り、皆と親睦を深める…。というのは建前で、女達の顔を見る為の日課である。そしてお昼には必ずデザートをつけるようにしていた。そのおかげで女達のテンションが上がる。やはり女性は甘いものに目が無いのである。この世界でスィーツは贅沢だが、俺は自分の職権を利用して毎朝スイーツを買いに行かせていた。だが夕食後にはデザートはつけなくなった。寝る前にカロリーを多くとると太ってしまうので、俺が食べないようにしていたら皆も真似たからだ。


 デザートを食べ終わったのを見計って俺が言う。


「ごちそうさま」


「「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」


 昼食が終わって午後になった。今日のデザートはクレームブリュレとかいうお菓子だった。それを食べたおかげか皆のテンションは上がっている。


「聖女様。それでは派遣されてくる文官の面接準備をいたしましょう」


「わかった。それじゃあみんな! 午後も頑張りましょう」


「「「「「「「はい!」」」」」」」


 そしてミリィが俺のもとへとやって来て言う。


「それでは聖女様。面接に備えて、身だしなみを整えましょう」


「はーい」


 俺が間延びしたような返事をすると、ミリィはくすりと笑ってくれた。俺がこっちに転移してくるまでは、お堅い聖女様だったようだが俺はカタッ苦しいのは嫌いだ。


「なんと言うか、聖女様になられてから雰囲気が変わりましたよね」


 ミリィが言うとスティーリアも同意する。


「以前の聖女様は、なんというかとても物静かで、とにかく勤勉と言う印象でした。ですが今はその雰囲気が消えて、私達もとても接しやすくなりました」


「そうだったっけ?」


 とぼけてはいるが、もちろんその時の記憶もばっちりある。俺はとにかく堅物で真面目腐った暗い女だった。


 ミリィが更に言う。


「そして使用人から男性を無くしましたよね?」


 それはもちろん! 男が身の回りにいるなんてまっぴらごめんだ! 俺の世話をするのが男なんて…、考えるだけで虫唾が走る。


「それは、女性の地位を向上したいから。この国の女性はもっと活躍できるはず! その為の貴族の娘達の研修会なのだから、そうそう! 研修にはミリィとスティーリアもぜひ参加してね」


「それなのですが、私達は貴族の出身ではありません。よろしいのですか?」

「そうです。聖女様とは住み込みでお仕事させていただいてますが、そこまで足を踏み入れて良いのか恐れ多いです」


「いいのいいの。私のお付きとして側に居ればいいだけ。いろいろな所に視察に行くのに、あなた達が居ないなんて私は無理かも」


「そう言っていただけますとありがたいです。私は聖女様のお付きのメイドというだけですのに、その様な名誉ある研修に参加できるなんて幸せです」

「私もミリィさんと同じです。多くの修道女の中から選んでいただきまして、なんと光栄な事か」


 うんうん。俺は俺がこっちに来る前の聖女を褒めてあげたい。こんな良い子達を選んでいたなんて、ある種才能があったのかもしれない。


 そのまま部屋に戻り、俺とスティーリアが身だしなみを整えた。部屋で待機していると一階から使用人が上がって来て俺達に告げる。


「王宮からの使者がやってまいりました」


「はい、ありがとう。それでは応接室に通してください」


「はい」


 そしてメイドは、そそくさと一階に戻って行った。するとスティーリアが俺に言う。


「それでは、聖女様は後からお越しください。前段は私が対応させていただきます」


「よろしく」


「はい」


 そしてスティーリアも部屋を出て行った。面接の準備が整ったところで、俺が出向く事になっているからだ。しばらく待っていると再び使用人が俺を呼びに来た。聖女邸の使用人はメイド服を着ておらず、スーツのような服を着ていた。事務的な仕事や、植木の剪定などは使用人達がやる事になっている。


 俺はすぐさま応接室を訪れて扉を開いた。俺が中に入って行くと、カッチコチに緊張している人が立っていた。


「あ! 聖女様のもとでお仕事をすぐっぐっ! するように申し付かりまぐっ! ました! ヴァイオレットと申します!」


 噛みっかみで挨拶すると、ヴァイオレットと名乗った女の子はぺこりと頭を下げる。めっちゃくちゃ噛みまくってしまったし、よほど緊張しているらしく仕草もカチカチだ。薄紫の髪の毛をキュっと後ろに結って、丸い眼鏡をかけているが俺は見抜いた。


 この子! 眼鏡取ったら可愛いタイプだ! やった! ルクスエリムよ! でかした! 面接なんかパスパス! 即採用!


 だが冷静に声をかける。


「えー、ではおかけください」


「は、はい!」


 なんて初々しい子なんだろう。俺は新たな仲間の登場に心をときめかせるのだった。

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