第298話 巨大邪神崩壊
まさかの身体能力に俺自身も驚いている。まさかネメシスの体を駆けあがって来れるとは思わなかった。それ以上に俺を目の前にしたネメシスが、めちゃくちゃ動揺している。俺はとにかく怒り心頭で目の前のこいつを、いてこまさなきゃ気が済まない。
「殺す」
「なっ、どういうことだあぁぁぁ!」
バッと手を正面に向けて、俺は電撃を繰り出した。
ピシャァァァァl!
ネメシスの頭上から特大ぶっとい雷が落ちる。
ドオォォォン! ゴロゴロゴロゴロゴロ!
カミナリが直撃する音に、俺のはらわたの底から振動が伝わって来る。
ガッ!
動きを止めたネメシスの首根っこに手をかけて落下を止め、俺はそこから一気に頭上に登る。
「どうだああああああ! 特大電撃わあああああ!」
ネメシスはプスプスと煙を出して動かなくなった。
生きてんのか?
だが時間差でゆっくりと崩れていき、ズズウウウウン! と膝をついた。
効いた!
やはり足元からの魔法よりも、脳天からの方が効くのかな? しかし死んでいないのは分かる。
ぼご! ボゴボゴボゴ!
突然ネメシスの体の表面が盛り上がりコブが出来た。その盛り上がりがパカパカと割れだして、中から飲み込んだはずのネメシス教団の成れの果てが出て来た。こいつらを放出して弱体化してでも、俺を振り払うつもりでいるらしい。
俺は自身に身体強化をかけた。すると子ネメシスたちが俺に飛びかかって来る。そいつらが俺の上に来た瞬間、シュッと上にジャンプをした。体は三メートルも飛び上がり、俺がいた場所には子ネメシスが固まっている。
「すっごいな。この体」
俺は真下にいる子ネメシスに対し、電撃魔法を繰り出して動きを止める。完全に痺れて動きが取れなくなった奴らの脇に降り立ち、聖魔法の詠唱を始めた。
シャアアアアアアン!
光り輝いた後、子ネメシスたちはいなくなってしまう。
オオオオオオ!
ようやく動けるようになったネメシスが、俺を振り払おうと体を揺らした。
「おわ! 落ちる落ちる!」
ブンブンブン!
これだと聖魔法を発動させることが出来ない。
「こら! 暴れるな! おい!」
ブンブンブン!
もちろん敵が言う事を聞く訳もない。
「くっ!」
足場が悪かったが、俺はまたネメシスの頭上に飛び上がり電撃を落とす。
びっしゃぁぁぁぁぁ!
ドゴオオオオオオオン! ゴロゴロゴロゴロ!
なんか…魔力も強くなってねえか?
二回も特大電撃が加わった事で、元々真っ黒のネメシスが焦げているのが分かる。今のうちに聖魔法でトドメを刺そう。
聖魔法の準備をして、焦げたネメシスの体にぱん! と両手を置く。
「くらえ!」
ぼごぼこ!
すると特大ネメシスのケツの穴が盛り上がり、びょん! と何か人型のようなものが飛び出た。そのタイミングと同時くらいに、俺の特大聖魔法がネメシスを包む。
しゃああああああああん!
あたりが眩しく光り輝き、俺は聖魔法を発しているので身動きが取れない。今飛び出た奴が何か分からないが、とにかくこれが終わるまでは動けない。光が収まり、視界が通る。
どこいった?
飛び出た奴が見当たらない。
ぐらりと足場が崩れ、つぎつぎに巨大ネメシスの体が崩れ落ちていった。俺は地上に降り立って、すぐさまソフィアの所に向かう。
「せ、聖女様…」
「今、助けてあげる! ゾーンメギスヒール!」
マルレーン公爵ごと回復させ、直ぐにアンナの元に走った。
「聖女…すまない」
「アンナ! よくやった! 蘇生! メギスヒール!」
アンナがシュウシュウと音をたてて治っていく。そしてシーファーレンを治し、リンクシルを治し、マグノリアとゼリスを治し、クラティナとネル爺を治す。俺は周りを見渡し、最後にヒッポに走り寄って回復魔法をかけた。
「お前が一番酷いみたいだね。みんなを守ってくれたんだね」
「ぐるうううう」
良かった…全員生きてた。
皆が俺の元に走り寄って来る。
「聖女様!」
「聖女!」
「聖女様ああ!」
「聖女様ぁ!!!」
皆が俺の周りに集まった。ソフィアが聞いて来る。
「やったのですか?」
「わからない。でも巨大な奴は崩れちゃった。やる寸前に何かが抜け出たから、もしかしたら仕留められてないのかもしれない」
「そうですか…」
「とにかくみんな無事でよかった! ヒストリアへ帰ろう!」
すると皆は力が抜けたように、その場にへたり込んだ。
「よかったです…」
「聖女が死んだかと思った…」
「本当ですわ。よくあの傷から復活なさいました」
「そうですな! 流石は聖女様です!」
皆が涙を流している。それだけ俺は皆を心配させたらしい。
「みんなあ! 私も皆が生きていて嬉しい!」
すると、みんながわっと俺につかまってきた。なんとなくみんなが泣いているので、俺もつられて泣いてしまう。しばらくそうしてから、俺達が街道に出ていくと、トリアングルムの兵士達が捜索しに来てくれていたのだった。その先頭にはカイトとメリールーがいた。
「ご無事で!」
メリールーが走ってきて、俺の手を取った。
「迎えに来てくれたんだ」
「王子が行こうと言ってくださって」
「あ、どうも。聖女様」
「わざわざありがとうございます」
「あの怪物は?」
「どうにか仕留めました」
それを聞いたカイトが目を見開き、兵士達がざわついている。すると兵士の一部から声が上がった。
「聖女様! ばんざーい!」
「「「「「「「聖女様! ばんざーい!」」」」」」」
「本当にありがとうございます」
さっきまでは偉そうにしていたカイトがしおらしくなっている。
「王子。都市の様子はどうですか?」
「被害はありますが、それほど死んだ者は多くないですね。ただ…」
「ただ…」
「メルキン兄がギリギリです」
生きてたんだ。
「急ぎましょう」
俺達は負傷した市民と兵士、そしてメルキンを救う為に王都に戻るのだった。兵士達はヒッポを見てビビっているが、背中に乗ったマグノリアが大丈夫だと説明をしている。皆の服はボロボロだが、自分の足で歩く事が出来ていた。俺はスッとソフィアの隣りに行って言う。
「ソフィア、一緒に歩こう」
「はい…聖女様」
だが俺はソフィアに対して、何か重大な事があるような気がする。しかしそれが何かは思い出せなかった。今はただ、この状況をかみしめるように前に進むだけだった。




