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第288話 衝撃の修羅場にパニック

 ジュリアンが席を外し、しばらく歓談していた王族たちだったが、話題が尽きてきたようで話がとぎれとぎれになって来た。そこでトリアングルムの王が、傍らに立つ従者に耳打ちをする。すると従者がぺこりと頭を下げて、王のそばを立ち去ろうとした時だった。


 扉が開いてジュリアンがようやく戻って来た。何か興奮気味のような表情をしているが、一体何があったのだろう?


「大変失礼をいたしました」


「いやいや。何かありましたかな?」


「少々お待ちください! きっと驚くと思われます!」


 やはり興奮している。朗報でもあったのか、メリディエス王に言いたくて仕方がない様子だ。ひとまず、また歓談し始めて、ジュリアンがトリアングルム連合国が儲かっているという話を、雄弁に話し続けている。そんなの、たまたまヒストリア王国の状況が変わっただけの特需なのに。


 メリディエス王が飽きて来たのか、ジュリアンに問う。


「して、驚くような事とは何だね?」


「ああ、そうでしたね」


 そしてジュリアンは従者に何かを告げた。


 ん? 何やら外がめっちゃ慌ただしくなった気がする。何かサプライズでも用意していたのか、随分と勿体ぶったやり方だ。


 だがその時だった。俺の裾からスススと何かが昇ってきて、耳元当たりでクンクンとしている。それはゼリスが操っていると思われるネズミだった。


 なんかあったかな? もしかしたら緊急事態でも起きた?


 俺はシーファーレンの耳元に手を当てて言う。


「何か起きたみたい」


「城内も心なしか騒がしく…」


 その時だった。俺の耳に信じられない言葉が鳴り響いた。入り口に立っている従者が大きな声でそれを叫ぶ。


「ヒストリア王国より! マルレーン公爵様御一行がお見えになりました!」



 ……



 はっ?


 なんて?


 いま、何て言った?


 うそだろ! こんなタイミングで? いつここに来てたんだ! 


 俺はあからさまに狼狽えてしまい、シーファーレンが俺の手をグッと握って落ち着かせる。


 だが、これが落ち着いていられるか! 馬鹿王子たちに合わせたくない一心で頑張ってきたのに、こんなどうしようもない状況で現れるなんて!


 シーファーレンが俺の耳に呟く。


「見極めましょう!」


 そうか…本物かどうか分からないしな。落ち着け…落ち着け…。


 だが俺は震え出してしまう。感情が爆発する一歩手前で、なんとか唇を噛んで堪えている。


 そしてその時は来た。


 バッと扉が開かれて、そこに現れたのは…。


 そひふぁ…


 崩れ落ちそうになるのを耐える。


 間違い無かった。間違いなくマルレーン公爵その人であり、その後ろにはその奥さん、そして…。


 俺は思わず泣きそうになってしまう。


 そう…そこに、俺が恋焦がれてやまない愛しのソフィアが居たのだ。


 う、ううう。


 いや、泣いてしまった。


「ちょ、これを!」


 シーファーレンがハンカチを渡して来ているようだが、俺はそれが目に入らなかった。涙で曇る視界の先に、誰よりも会いたかったソフィアがいるのだ。今にも飛び出してしまいそうになるが、ざっとアンナが俺の行く手を阻む。


「まて。いまじゃない」


「でも」


「堪えろ」


 そう言われて少し冷静になり、俺はスッと一歩下がる。だが俺から三十メートル先くらいの手の届くところにソフィアがいる。この王族たちのいる場所では、その距離は果てしなく遠く感じるのだった。


 そしてジュリアンが改めて皆に紹介をした。


「わざわざヒストリア王国からおいでくださいました。マルレーン公爵様と奥方様、そして麗しき御息女様にございます」


 マルレーン公爵家の面々が厳かに礼をすると、メルキンもカイトも立ち上がって礼をした。そしてトリアングルムの王が、ゆっくりと立ち上がって公爵に声をかける。


「よくぞきてくださった。私達は全く知らされておらんかったので、このようなお出迎えになってしまった」


 するとマルレーン公爵と妻とソフィアが、トリアングルム王に跪いて挨拶をする。


「すみません。このような不躾な訪問になってしまいました。私共は、会談が終わった後日でもとお話したのですが、ジュリアン王太子殿下がどうしてもと」


「もうしわけなかった。元来もっと丁重にお出迎えをせねばならぬところじゃ」


 するとジュリアンが口を挟んで来る。


「丁度良いではないですか! メリディエス王もいらっしゃっている事ですから、そこにヒストリア王国の重鎮がいらっしゃったのは、きっと神の引き合わせなのでございましょう!」


 何馬鹿な事言ってんだ?


 ジュリアンが完全に勝ち誇ったような顔をしている。もしかしたら、こうなる事を見計ってこれを計画していたのか? これならヒストリア国と親密な関係であるアピールは完璧だし、二人の王子を出し抜いて自分の存在感を知らしめることが出来る。一石二鳥の作戦で、ここにぶつけて来たとしか思えない。それが証拠に、カイトがめっちゃ悔しそうな顔をしている。


 そしてマルレーン公爵は、メリディエス王に対しても挨拶をする。


「お初にお目にかかります。私、ヒストリア王国より参りました、マルレーンと申します」


 だがそう挨拶したのに、メリディエス王はただじっとマルレーンを見つめるだけだった。それを見たジュリアンが、流石にまずいと思ったのか取り繕うように言う。


「すみません。いささか余興がすぎましたかな、ですが良い機会ですので、この出会いを未来につなげてはいかがでしょうか」


 するとメリディエス王は、怒ったでもなく笑ってるでもなく無表情で立ち上がる。


 だが次の瞬間、今までの冷静な感じはどこへやら、突如ニヤリと口角を上げた。


「くっくっくっくっ! あーっはっはっはっはっはっ!」


 唐突に大笑いし始め、周りがあっけに取られている。それを見てジュリアンも笑い出し言った。


「気に入っていただけましたか? このサプライズを」


「くっくっくっくっ!」


 めっちゃつぼに入ったように笑い続け、周りはあっけにとられたままだった。


 だがそこで、満を持したようにジュリアンが爆弾発言をする。


「このような場で失礼します! 実は私は、ソフィア嬢へ婚約を申し出ようと思っております!」


 だがそれを聞いた、マルレーン公爵と妻、ソフィアが目を丸くして驚いているのだった。


 何よりも…、俺はすぐに奴を殺害しようと思っている。その意図がアンナに伝わったのか、アンナもピリピリとしだした。それをシーファーレンが慌てて制する。


「今は…」


 いきなりの修羅場展開に、俺の脳みそはパンク寸前、アンナは今にも人を殺しそうなオーラを放ち、シーファーレンが慌てて場を収めようとしている。それ以上に王族たちもあっけにとられ、ジュリアンだけが頬を紅潮させて酔いしれているのだった。

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