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第250話 聖女邸への帰還

 俺達がギルドに到着すると朱の獅子のメンバーが待っており、ロサが俺達の馬車を見て手を振っている。いい子達や。ロサに連れられてギルドに入ると、受付からビスティが出て来て俺達のもとへやって来た。ビスティは俺に軽く微笑んで会釈をしたと思ったら、いきなり俺を素通りして護衛して来たバレンティアに話しかける。


「近衛騎士長様! お疲れ様でございます」


 ムカ! なんだ? ビスティの目がハートになっている気がする。気がつけば、ギルド嬢たちや女冒険者も頬をピンク色に染めていた。皆の目がバレンティアに釘付けになっており、聖女邸の面々とは明らかに違う反応だ。バレンティアと言えば、せっかく女達が色目を使ってあげていると言うのに険しい顔をしている。あほか! くそが!


 だが忌々しいバレンティアはビスティに言う。


「いいか? ギルドが責任をもって聖女様を護衛するのだ。傷一つつける事も許さん」


「は、はい!」


 ドSが! 俺ん時みたいにデレデレしとけ。


 だがここはチャンス! こんな意地悪な奴より俺の方が良いよ。ってアピールしとこ。


「ビスティ。大丈夫ですよ、朱の獅子もいますし、なにより特級が私の側におりますから、ビスティがそんなに焦る事はありません」


「いえ。バレンティア様がおっしゃる事は当然かと思います! ギルドの責任のもとで、聖女様をお守りすると誓います!」


 いやいや。俺は余計な金は出さねえよ。


 と、思っていたが女冒険者達が、ぞろぞろと周りに集まって来て言った。


「私達冒険者の誇りにかけてお守りいたしますわ」

「そのとおりです。ギルドの威信にかかわりますわね」

「依頼など関係ありませんわ! 自主的にお守りするべきだと思います」


 冒険者の女達が暴走し始めた。パーティーには男もいるだろうに、そいつらをガン無視してバレンティアに群がっている。


「うむ。心してかかれ、本来ならば私がその任につきたい所だが陛下の側におらねばならん。お前達に託すとしよう」


「「「「「「はい!」」」」」」


 なにこれ。この茶番? ばかじゃね?


 するとバレンティアが俺に向かい直して膝をつくと、他の近衛達もそれにならって膝をつく。


「それでは私達はここまでとなります。何卒お気を付けくださいますようお願いいたします」

 

「わかりました」


 さっさと行け! 


 バレンティアが立ち上がると、俺だけに見せる笑顔を軽く向けた。おえっ!


「「「「「「はぁああああぁぁ…」」」」」」


 周りの女達からため息が漏れる。そしてバレンティアはもう一度お辞儀をして、近衛騎士達はギルドを立ち去って行った。


 ビスティがポツリという。


「氷の騎士様…」


 しばらく女達が恍惚の表情を浮かべていたが、俺はどんどんフラストレーションが溜まっていく。イライライライラ。すると我に返ったビスティが言う。


「はっ、そ! それでは、朱の獅子への護衛依頼でよろしかったですね」


「ええ」


 俺がつっけんどんに言うと、他の女の冒険者達が若干イラついたようだ。


「聖女様は氷の騎士様の寵愛をお受けになっているようでございますね」

「ほんとです。ですがあのお方に護衛を頼まれたのは私達」

「そうですわ。致し方ありません。皆さん、聖女邸までの護衛をいたしましょう」


 何を勝手に言ってんだ? 金は払わんぞ。


「依頼は朱の獅子だけですけど」


「いーえ。私達も頼まれましたので、お金など関係なく護衛につかさせていただきますわ」

「そうです! そうしましょう!」

「皆さんも、賛同いたしますわね!」


 パチパチと皆が手を叩いている。なら勝手にすればいい。


 そしてビスティが俺に言う。


「では護衛の依頼書にサインを」


「はい」


 俺が依頼書にサインして、朱の獅子達が俺達を護衛する事になる。俺がそのまま立ち去ろうとした時だった。突然シーファーレンが言った。


「皆さん。よろしいですか!?」


 なんだか、いつものシーファーレンらしくない。いきなり感情が露わになっている。


「なんです?」


「はっきり申し上げますが、聖女様と近衛騎士長では身分が違いすぎます。聖女様にもっと敬意を払い、正式な挨拶を聖女様に先にするのが常識です。王の次の優先順位がつけられているのですから、その辺りをもう一度認識されるとよろしいかと」


 だが冒険者の女は、シーファーレンを従者だと思っている。従者の格好をしているのだから仕方のない事だけど。


「せ、聖女様から言われるならいざ知らず、従者風情から言われる筋合いはないわ」

「そうよ! あなたは聖女様の身の回りの世話をしていればいい」

「そうですわ。ここは出しゃばるところではないのでは?」


 するとシーファーレンが自分の今の立場を思い出したのか、静々と後ろに下がってぺこりと頭を下げた。


「すみません…」


「最初から出しゃばらないで下さいな」


 うーん。こんなところで冒険者ともめるのは良くない。だが…シーファーレンが何かを言われるのは、俺がカチンとくる。シーファーレンが言われたことで、俺はだんだんと頭に血が上ってきた。


「あの…」


 俺が言おうとするとアンナがスッと前に立った。コミュ障なのにいきなり胸を張って立っている。


「皆! 何か問題があるか? 特級のわたしが話を聞こう」


「あ、いえ! そんな! そう言うわけでは!」

「すみません。ちょっと言い過ぎたように思います!」

「アンナさんと揉めようなんて思っていたわけでは!」


「悪いが、ここにいるのは皆が聖女の大切な人なんだ。その人を悪く言ったりしないでほしい」


「わ、わかりました!」

「はい!」

「もうしません!」


「分かったならいい」


 スッとした。アンナの喝がギルドでこんなに効果があるとは思わなかった。ギルド内の男達もシンとしてしまう。そこでロサが言った。


「とにかく今は聖女様の護衛が一番重要なんだから! みんなもそのつもりだろ? 王都一の美男子が来たからって浮足立つのは分かるけど、ちょっと気を取り直した方が良い」


「そうね。ロサの言うとおりだわ」

「どうかしてた」

「だね」


 そして女冒険者達は、気持ちよくシーファーレンに向かって言う。


「御免なさいね。ちょっと感情的になっちゃって」

「あなたのおっしゃる通りだったわ」

「以後気を付けますわ」


「分かっていただけたらそれでいいのです」


 どうやら丸く収まってくれたらしい。シーファーレンに謝ってもらった事で、俺の溜飲も下がる。


 そして俺がロサに聞いた。


「聖女邸の暮らしはどうだった?」


「快適でしたよ。でも四人じゃ広すぎましたかね」


「だよね。じゃ皆で帰ろう」


 皆が快く返事をして。俺達は聖女邸に向かう事になった。久しぶりの聖女邸への帰還に、皆も表情が綻んでいる。まあそれでもすぐに賢者邸に隠れる事になると思うが、見かけ上は聖女邸に戻る形式を取らねばならない。王宮からの通達を待たねばならないし、聖女邸でやる事もあるからだ。


 ギルドを出ると、かなりの大所帯になった。聖女邸の面々以外に、朱の獅子と冒険者がぞろぞろと護衛についてくれている。俺の神聖魔法が邪神ネメシスに効くと分かった以上、この王都では俺の側が一番安全という事になる。そして俺達はようやく聖女邸への帰還を果たすのだった。

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