第243話 邪神に対抗するため外堀を埋める
俺達は信頼に値すると思った組織に対し、アプローチをかける事にした。
名前があがって来たのは、ルクセン辺境伯、フォルティス第一騎士団長、マイオール副隊長、バレンティア近衛隊長、教皇、ミラシオン伯爵、ケルフェン中将、モデストス神父だ。これまでの行動や、聖女に対する言動からも信仰が深いのは分かる。
こうやって名が挙がってみると、要職に男しかいないのが腹立たしい。だが俺達は彼らを動かして、ネメシスの裏をかく必要があった。
また王宮にいるその人達に、安全に接触できる人もはっきりした。シーファーレンの影武者である、シルビエンテだ。彼は賢者として皆に認識されており、王宮にも顔パスで入り込むことができる。シーファーレンも全面的にバックアップしてくれることになったので、俺達はシルビエンテと王宮に入る。
「じゃあBARマドンナは、スティーリアとアデルナに任せるよ。ヴァイオレットと相談して、聖女からの指示書を持って行こう。信頼できる騎士を選出して、フォルティス第一騎士団長に情報を流して行くんだ」
「「はい」」
「ルクセン辺境伯、バレンティア近衛騎士団長、ケルフェン中将には私とシルビエンテが接触を図る。もちろん私は正体を明かさない」
「「「「「はい!」」」」」
「カルアデュールに戻ったミラシオンには、秘密のルートで手紙を出すから、アンナと私が動く」
「わかった」
「後は教皇に入れ知恵をして、聖騎士を動かしてもらう事にする」
「「「「「はい!」」」」」
俺達は外堀を埋める事を始めた。今までは俺が毛嫌いして、男にお願いなど一切してこなかったが、ここにきて奴らの力が必要になったのだ。もうなりふり構っていられない。
それぞれがそれぞれの仕事を始め、俺はシーファーレンとシルビエンテと共に王宮に入り込む準備をした。賢者シルビエンテとその従者として、俺とシーファーレンとアンナが尽き従い潜入する。既に王宮にはゼリスの使役する魔獣が入り込んでいるので、王宮内の動きは手に取るようにわかる。全員がSPの様に、イヤーカフをして連絡が取り合えるようにした。
すると影武者シルビエンテが言った。
「それでは参りましょうかな」
賢者の馬車を用意し、俺達は使用人として尽き従うようにする。変装の魔道具を身に着けているので、誰も俺やシーファーレンだとは分からないだろう。
賢者邸の敷地を出て俺達の馬車は王都を行く。特に目立つ馬車ではないので、誰の目も引かずに王宮へと到着するのだった。門番にシルビエンテが言う。
「通達しておった通りじゃ。陛下への面会をお願いしたい」
門番達がシルビエンテを確認し、王宮への伝令を出す。ほどなくして、俺達は王宮へと通されるのだった。馬車を降りると、近衛の騎士達がお出迎えをしてくれる。だが俺が着た時は必ずバレンティアがいるのにいなかった。どうやら賢者は中隊長クラスの奴が対応するらしい。ここが接触できるところだと思ったのに、俺はとんだ肩透かしを食らった。
まあいい。
「ようこそおいでくださいました! 賢者様! 陛下がお待ちです」
「うむ」
今までしばらくは危機回避のために、王宮から遠ざかっていたが、久しぶりのため若干緊張する。俺達がシルビエンテに仕えてぞろぞろついて行くと、いつもの控室に通された。
「それではこちらで、お待ちください」
相変わらず面倒だが、何段階もクッションを置かないと危険だから仕方がない。
「準備が整いました! それでは賢者様! 従者を一人お連れしてください!」
「うむ」
俺はシルビエンテに尽き従い、アンナとシーファーレンと控室に置いて行く。シルビエンテが王の間に通されると、そこに王家の面々がいた。そこにカレウスも座っており、何食わぬ顔で挨拶している。
コイツにネメシスが何をしたか分からんが、カレウスを始末したところで、第二第三の裏切者が出るとシーファーレンは言っていた。もしかしたらこいつも被害者なので、そっとしておくことにする。
そしてチラリと横を見ると、久しぶりのバレンティアがそこに立っていた。いつも俺が来ると、へこへこかしずく癖に、なんかえらそうに見える。そしてその隣にはルクセン辺境伯もいた。もちろん俺がここにいるとは思っていないので、何の興味も示していないようだ。
「久しいな賢者よ」
「陛下に置かれましては、益々お元気のようで何よりですじゃ」
「うむ。して何用であったろうな?」
「なあに、爺の戯言です。最近、王国の雲行きが怪しいようで、何やら聖女様達は王都から避難なされたとか? それは誠ですかな?」
白々しく聞いた。
「そのように聞いておる。どうやら聖女邸が襲撃にあったらしいのじゃ、わしとしても今はおとなしくしてもらった方が安心じゃのう。じゃがどうして、断りもなく避難したのであろうな」
それは、お前の脇にいる息子が裏切ってるからだよ!
「さあて、聖女様のお考えになる事は、わしにはちと難しいですじゃ。なんぞ危険でも感じ取って、避難なされたのでありましょうな」
「うむ。わしは聖女を信頼しておる。王都が平穏になったら戻って来るであろう」
「はい」
それからしばらく現状の確認などをしつつ、シルビエンテが適当な事を言って煙にまき、話は貴族の処罰について及んだ。
「それで貴族様はどうなりますかな」
「主と長男は死罪。伴侶と次男以下はお家取り壊しによって、実家に帰らされることになる」
よかった。奥方の裁きが思ったより軽いようだ。いずれマロエとアグマリナが帰る場所も用意できるかもしれないな。
一通りの話が終わると、ルクスエリムが賢者を送り出すように言う。その時バレンティアが急接近して来たので、俺は袖に隠し持っていた小さな巻物をバレンティアのポケットに放り込んだ。
仕事は一つ終わった。
控室に戻ると、既にアンナも戻っていた。実は話し合いの最中に、アンナが王宮を嗅ぎまわりケルフェン中将のポケットに小さい巻物を入れて来たらしい。
俺達が帰るために騎士に連れられて廊下を進んでいくと、巻物を読んだらしいケルフェン中将が廊下の向こうからやって来た。そして俺はその直前に、一瞬魔道具を外して顔を晒す。だがその次の瞬間すぐに魔道具をつけた。
「ん?」
ケルフェンは立ち止まって俺をジッと見る。そこでシルビエンテが言った。
「これは中将。いかがなさいましたかな?」
するとケルフェンは何か納得したようにうなずいて、シルビエンテに言った。
「いえ。賢者様。従者様がちょっと知っている人に見えたものですから」
するとシルビエンテがケルフェンに言う。
「人は見たいものも見るものです。きっと中将はその御方に何かを返したいのでしょうなあ」
「ああ…そうでしょうね」
そう言葉を交わして、俺達は再び王宮の入り口に向かって歩き出すのだった。




