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第241話 辺境伯の懺悔を聞く

  ルクセンと会う場所はモデストス神父の教会にした。俺達はここまで変装してきており、誰も聖女だとは気付いていないだろう。モデストスには説明をしており、じきに来るルクセンを迎え入れて懺悔室に入れるように伝えた。


 俺がまっていると、モデストスが伝えて来る。


「いらっしゃいました。一応護衛をつけていらっしゃるようです」


「わかりました。では懺悔室に」


 するとルクセンが壁向こうの懺悔室に入って来る。どうやらお忍びで来たらしく、ルクセンも変装をしているようだった。透かしが入った小窓を開けてルクセンが言って来た。


「まさかの懺悔室とは恐れ入る。この場所なら誰も疑うまいて」


「ええ。ルクセン辺境伯、お久しぶりですね」


「ああ。いろいろと動いてくれておるようですまないな」


「いろいろと情報を掴みました。そして少し気になる事がありまして」


「言ってくれるかの」


「まず最初に内通者として疑った軍部ですが、これは完全なシロだと分かりました。不審な動きも無く、今は騎士団の立て直しに躍起になられておるようです」


「そうか」


「そしてもう一つ、第一騎士団の末端にもそれらしき人物はおりません」


「うむ」


「次に目をつけたのが、閣僚でした。王派の閣僚を一人一人身辺調査し洗い出しをしてみましたが、どれも不審な動きは無く、有力な情報はつかめておりません」


「なるほどの」


「だが私達の盲点が一つだけありました」


「それはなにかな?」


「ルクセン様は自分の口からは言えぬ、と口をつぐみましたね。それと聞き込み調査で見えて来たものがあるのです。本当に盲点でしたが、確かにルクセン様が表立って動くのは良しとしません」


「……」


「私達が調査した内容であっていると思うのですが、ルクセン様が掴まれている内通者とは、陛下のとても近いところにおられる方ではありませんか?」


「よくぞ…調べ上げた。そうじゃ、あ奴の本当に側にいる者。恐らくはその者が内通しておる」


 そして俺達の間に沈黙が流れた。恐らくルクセンは自分の幼き時からの盟友である、ルクスエリムを悲しませたくなかったのだろう。だがそれをどうにかせねば、確実にいつか国家転覆してしまう。


「それは、皇太子のカレウス様でお間違いございませんか」


「その…とおりじゃ。じゃがどうする? 次期王が国家転覆の一端を担っていると知ったら、ルクスエリムはどうなるのじゃ?」


「第二継承権のルーファウス様がいらっしゃいます」


 ルーファウスと言うのは妾の子供だ。普段は王宮にはおらず、離れの家に住んでいると聞く。


「聖女よ。そう簡単ではない。ルーファウスは世継ぎを全く考えてはおらんのだよ。生来の自由者であるからして、恐らくは継承権を放棄するだろう」


「それでもそうならざるを得ないかと。ですが…」


「なんじゃ?」


「そもそも何故、カレウス様が謀反を? いずれは王となる身で、ルクスエリム陛下からの愛情も厚い。どうしてなのでしょう? 謀反を起こす理由がありません」


「おそらくじゃがな、そそのかされておるのじゃ」


「リリー様ですか?」


「いや…それも、もしかするとだが、違うと思うておる」


「では誰が?」


「デバロー・ルース・ヒストル。リリーの弟でルクスエリムの伯父じゃ」


 マジか…。今まで完全にノーマークだった。おそらくはリリー・セリア・ヒストルが裏で糸を引いているのかと思っていたが、まさか何の実権も持たない、デバロー公爵の名前が出てくるとは。


「ですがカレウス様からすれば、何の意味も持たない人。なぜカレウス様が内通者になったのです?」


「すまんがそれが分からんのだ。実際にカレウスが内通している現場を見ただけで、何故ルクスエリムを裏切るような行動をしているのか」


 しかしこれで完全に辻褄があってきた。王城に大量に間者が進入するなど前代未聞だったし、聖女邸の事も筒抜けだったことも説明がつく。更にカレウスは騎士団長達とも親しくできる間柄で、ルクスエリムに届いた書簡にも目を通す事が出来た。騎士団の動きなど手に取るようにわかる位置にいる。


「それ以上、何かわかりますか?」


「ここまでだ。わしも派手に動く事は出来んのじゃ、下手をすれば四面楚歌にもなり得る」


「わかりました。ですがそれが分かっただけでも、かなり事が進めやすくなりました。むしろ最初に聞いておかなくて良かったと思っています。おかげで王都内のいろいろな事を知る事が出来ましたから」


「すまんが。頼めるのは聖女だけじゃ。王宮が…いや、国が正常な道に進むように導いてほしい!」


「声が大きいですよ。でもわかりました。懺悔は以上ですか?」


「うむ。そろそろ出んと護衛達が怪しむ。よろしく頼むのじゃ」


「わかりました」


 そして懺悔室の向こうのドアが開き、ルクセンは教会を出て行った。


「ふう」


 俺も懺悔室を出てアンナの所に行く。


「どうだった?」


「やっぱりめっちゃ深刻になってた。これはかなり荷が重い」


「わたしは聖女が逃げればついて行くし、聖女が立ち向かうなら一緒に戦う。ずっと一緒だ」


 頼もしい! 出来れば逃げ出したい! だけどここまで来たらそう言う訳にも行かない。


「逃げない。今までも乗り越えてきたし、今回も楽勝じゃないかな」


「なら、一緒に戦う」


「うん」


 ルクセンとの会合を終えた俺達は、モデストスに別れを告げ変装をして街に出た。まさかの王族ぐるみでの謀反に頭を抱えながら、俺はギルドに足を向けるのだった。

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