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第21話 王の褒美

いやあ…。こんなに盛大にやられると、気分が悪いので帰ります! とかって言えないよなぁ。


 俺が乗る馬車が群衆の中を通りすぎて、王城の正門をくぐっても中に大勢の人が待っていた。もちろん王城の敷地内なので一般人ではない、国中から集まって来た貴族達だった。表玄関の階段前に到着しただけで盛大な拍手が巻き起こった。


「それでは聖女様、陛下がお待ちです」


 今度は、近衛隊長のバレンティアが俺に手を差し伸べて来る。


 なぜ男どもは俺の手を取りたがる? 誠に以て面倒極まりないし、別に馬車を降りるくらい自分で降りれるんだが! そして何だぁ? ヒストリア王国の騎士で最も美しい男とかなんとか、そんな評価を受けてるから調子こいてんのか? あぁ? 氷の騎士とか言う二つ名までもらって、調子ぶっこいてんじゃねぇのかぁ? あぁん!


 俺はついメンチを切ってしまいそうになるのを我慢する。


 いかんいかん! こんな女みたいな顔の男に、目くじらを立てたところでどうしようもない。しかもコイツ…めっぽう腕もたつらしいし、面倒な事になって打ち据えられたりしたら大変だ。


「一人で降りれます」


 俺はスッと一人で馬車を降り、そして周りにいる貴族たちを見た。どうやら見た事のない貴族達だが、身なりからすると恐らくは男爵や準男爵あたりなのだろう。


 どいつもこいつも鼻の下を伸ばしやがって、近寄って来るんじゃねえぞ!


「では、参りましょう」


 バレンティア近衛隊長が先を歩き、近衛兵が俺を取り囲むようにして歩きだす。俺は仕方なくバレンティアについて行く事になってしまった。


 別にお前に従って歩いてるわけじゃねぇからな!


 ふと前を歩く近衛兵の、ピカピカのフルプレートメイルに映る自分の顔が見えた。眉間にしわが寄っており、険しい顔をしているようだった。


 ヤベぇ!


 俺はすかさずとびっきりの笑顔を浮かべ、周りの貴族たちの視線を気にし始める。万が一、綺麗な貴族の娘に見られたら大変だ。だが王城の階段を上がるまでに、美しい娘などは一人もいなかった。気合を入れた表情をして損した気分になるも、王城に入るのに鋭い目つきをしている訳にもいかないのでそのまま笑い続ける。


 階段を上り正面玄関をくぐって中に入ると、そこからは貴族の姿はなく衛兵が両脇に立っているだけだった。バレンティアと近衛兵に囲まれながら、玉座の間の前に通されて騎士達が止まりバレンティアが俺に向かって言う。


「それでは聖女様。此度の遠征、お疲れ様でございました。この先には高位の貴族様と王族の皆様がお待ちになっております」


「騎士バレンティア様。エスコートをありがとうございました」


 俺は感情のこもらない声で、バレンティアにお礼を言い玉座の間に入った。


「うっ」


 するとそこには、高位な貴族や教会の重鎮達が両脇に座していた。こんなに大勢のお偉いさんが集まるのは、聖女の任命式以来のような気がする。いや。あれはそもそもそれはそんなに昔の事じゃない、数か月前の出来事だ。そして俺が中に入ると、一斉に席を立って拍手をし始める。


 俺は盛大な拍手の中を、玉座の前まで歩いて行くのだった。玉座には既にルクスエルム王が一人座っており、王妃ブエナは壇上から降りた裾に立っていた。その隣には王子カレウスと王女ビクトレナもいる。ルクスエリムを前にしていながら、ついついビクトレナに目線が泳ぎそうになるが辛うじて我慢した。


 ビクトレナちゃん! また今度お茶しようね!


 そして俺はルクスエリム王の前に跪いて、帰還の挨拶をするのだった。


「陛下! お出迎えいただきありがとうございます!」


 するとルクスエリムが立ち上がり大きな声で返してくる。

 

「うむ。聖女フラル・エルチ・バナギアよ。よくぞ無事で戻って来た! 皆の者! この国を救った英雄に盛大な賛辞を!」


 おおおおおおお! パチパチパチパチ!


 大喝采が巻き起こり、ルクスエリムも凄く嬉しそうだ。


 あー、これ…長くなるやつだ…


 俺には直感で分かった。聖女の任命式よりも更に盛大な催しのようで、これがすんなり終わるわけがない。とにかく素直に時間が過ぎるのを待つしかないだろう。そして喝采が収まり、ルクスエリムが玉座に座り言った。


「此度のそなたの働き、誠に大義であった! 積年の問題であった、帝国の軍事訓練と称した威嚇行動をたった一人で収めたと聞く! それは誠であろうか?」


 うへぇ…、やっぱその事だよね? なんていうかな…


「いえ。カルアデュールのミラシオン伯爵様、そして領兵団長シュバイス様が率いる騎士団、魔導師長のソキウス様率いる魔導士軍団の援護があっての事でございます」


 するとルクスエリムが少し険しい表情になる。そしてルクスエリムは、裾に座っている誰かに声をかけた。


「騎士ウィレースにスフォルよ! 前に出よ!」


 城塞都市カルアデュールから現場まで、俺を送ってくれた騎士二人が立っていた。


 マズい…。アイツらは現場にいたから俺の所業を知っている…。


 二人は俺にお辞儀をした後で、ルクスエリムの前へと跪いた。ルクスエリムは二人に語り掛ける。


「聖女の言っている事は誠か? おぬし達が言っていた事とは少し違うのではないか?」


「少しの行き違いがあるのかもしれませんが、聖女様がたった一人で帝国の軍勢を追い払ったのは間違いが御座いません!」


 ウィレースが言う。するとルクスエリムは俺に向き直って聞いて来た。


「どうじゃ? フラルよ。ウィレースはこう言っておるぞ」


「ウィレースがそう言うのも無理は無いかと思いますが、あの場所にカルアデュールの騎士団がいたからこその事でございます!」


 とにかくミラシオンの手柄にしてしまわないと、俺がもっと忙しくなる可能性がある。ここは何としても俺に手柄が集中するのは避けたいが…。俺がそんな事を考えていると今度はスフォルが声をあげる。


「申し上げます!」


「話してみよ」


「は! 確かに国境の河をへだてて、我が軍と帝国の兵団はにらみ合いをしておりました。こちらの軍勢は三万に満たず、帝国軍は十万を超えておりました」


 その事を聞いた、玉座の間に居た貴族や教会関係者がざわついた。


「聖女フラルよ。それは誠であるか?」


 これは本当の事を言うしかあるまい。


「はい。確かに十万の軍勢がおりました」


「なるほど、スフォルよ続けよ」


「は! 我々は死を覚悟し、帝国の軍勢が押し寄せて来る事を想定して身構えておりました。しかし帝国軍は我が軍の魔法士団や弓兵の狙撃を逃れる為、暗闇に潜み夜襲を仕掛けてきたのです。そこからは聖女様のお力のみでの戦いとなりました」


 すると我慢が出来なくなったのか、またウィレースが口を開いた。


「そうなのです! 私はスフォルと共にはっきりとこの目で見ました! 大河に走る雷を! 帝国軍はみるみる静まり返り、一度は退却をしたのです」


「ふむ、それで?」


 今度は興奮したようにスフォルが言う。


「夜襲は何度も仕掛けられました。ですがそのたびに聖女様の雷が帝国兵を焼き払ったのでございます! 我が軍で攻撃をした者は一人もおらず、結局我が国の領土に足を踏み入れた帝国兵は一人もおりませんでした! 」


 ざわざわざわざわ! と玉座の間がざわついて、どんどん騒ぎが大きくなってきた。


 カンカン! と脇に控えている衛兵が、持っている槍の柄の部分で床を突く音が鳴る。すると騒ぎ出した貴族と教会関係者が静まり返った。


「聖女フラルよ。その内容に間違いは無いか?」


 無い‥。としか言いようがない…。えーっ!

 

 俺は諦めて言う。


「間違いございません。お二人のおっしゃる通りでございます」


 俺が観念して言うとルクスエリムが大きな声で言う。


「まことに大儀であった! 積年の帝国とのいざこざを一人で鎮めてしまうとは、やはり聖女の力は誠であった! 皆の者! 聖女に盛大な拍手を!」


 これまた盛大な拍手が巻き起こり、俺に逃げ場は無くなってしまう。


 これは…、忙しくなる事…確定じゃん。


「よし! 聖女フラルよ! その神の如き力で、帝国兵を焼き尽くした功績を称え褒美を遣わそう! 」


 えっ! 褒美…なんか面倒くさい事じゃないと良いけど…。


「褒美でございますか?」


 こういうところで聞き返すのはご法度だが、つい聞き返してしまった。


「うむ! 我が考えているのは、爵位とそれに見合った領地だ。そう思うのだがどうだろう?」


 まってまって! そんなん貰ったら、ソフィアに会い辛くなってしまう…。いや会えなくなってしまう可能性が高いではないか!


 俺の頭の中はグルグルと言い訳を考え始めるのだった。

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