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第20話 凱旋パレード

 嘘だろ…


 俺がミリィと共に王都付近まで戻ると、市壁の外でヒストリア王国の第一騎士団が待ち構えていたのだった。俺はすぐに王都の自宅へ直行し、お茶会の誘いが来ていないかのチェックをする予定でいたのにだ。それがいきなり俺の目の前に、厳つい騎士団長フォルティスと副団長のマイオールが部隊を率いて待っていた。数千人の騎兵が道の両隣に整列している。


「聖女! フラル・エルチ・バナギア様の御帰還です!」


 マイオールが大きな声で叫ぶと、バカでかいラッパの音が鳴り響く。その音に合わせて、騎士団がざっと俺の馬車の方に剣を掲げる。


「聖女様! 素晴らしいですわ! 騎士団が聖女様を出迎えて下さってます!」


 ミリィは嬉しそうに言うが、俺の顔は最大限に引きつっていた。そして唐突に外側から馬車の扉が開かれる。するとそこには厳ついおっさんの騎士団長フォルティスが立っていた。


「恐れ入ります聖女様! そして北方でのご活躍の一報をもらい、ルクスエリム陛下より出迎えるように指示を頂きました! 出迎えの任を頂けたこと誇らしく思います!」


 ビッッシィィィ! と決まっている。無骨な騎士団長が物凄く鯱張って立っている。暑苦しいし全く嬉しくない。


「そ、そうですか。それはありがとうございます。それで…これは一体何事でございましょう?」


「本日は凱旋パレードを用意しております。既に王都の市民も各領地からの客人も沢山集まっており、聖女様のお帰りを首を長くして待っていたのです。貴族の皆様も王宮にてお待ちです!」


 マジ? うっそ…。じゃあこれからめっちゃ忙しいじゃん! 勘弁してくれよぉ!


「は、はは。なるほど、それはそれは…」


 俺は更に顔を引きつらせてしまう。ミリィとの楽しい長旅の思い出が吹き飛びそうだ。


 すると、フォルティスが俺の顔のそばに顔を近づけて来る。本当は露骨に避けたいところだが、騎士団の配下達も大勢見ているため我慢する。すると内緒話をするように、フォルティスが俺に囁いた。


「恐れながら聖女様。お疲れであることは重々承知しております。ですが凱旋パレードは特別なものなのです。今しばらく我慢をしていただけると助かります。私も経験が御座いますので、お気持ちは重々承知しておりますゆえ!」


 いや、違うんだよおっさん。俺は疲れているんじゃないんだ、ソフィアやビクトレナとのお茶会の時間が遠のいたのがショックなんだよ。たしかに騎士団長のフォルティスと言えば、数々の功績を残して凱旋パレードしてきたが…。まさか俺が凱旋パレードする事になるとは思っていなかったんだよ…。そして…とにかく俺から離れてくれ。おっさん臭い。


「いえ。これは致し方のない事なのでしょう。ルクスエリム陛下の顔を立てねばなりません。謹んでお受けいたします」


「さすが聡明でいらっしゃる」


 いいんだ。そんなお世辞言わなくても、とにかく早くしてくれ! こうなってしまったと言う事は、数日間の俺の時間が奪われる事は分かっている。ならば抗う事無く、一日でも早く公務を終わらせることが先決だ。


 するとマイオール副団長が俺に言う。


「聖女様。馬車を乗り換えていただきます。恐れ入りますがメイドは別の馬車にて移動していただきます」


 ええ…。そんなぁ! ミリィちゃん! 行かないでぇぇぇぇ!


 俺のそんな心の声もむなしく、ミリィは笑顔を浮かべて言った。


「聖女様! 英雄の凱旋でございます! 私のような下々の者が側に居るわけにはまいりません」


「ミリィ、私はあなたが下々の者だと思った事はございません。そこは勘違いしてはいけない」


 マジで! 可愛いんだから!


「申し訳ございません。ですがここから先は一緒に入る事は出来ません」


 それは仕方がない。というよりもミリィは長旅で疲れたろう? 早く家にお帰り。


「わかりました。それではミリィは先に邸宅にお帰りなさい」


「はい」


 ミリィが俺を見送ってくれた。そしてマイオールが俺に手を差し伸べてくるが、それを無視して凱旋パレード用に用意された屋根のない馬車に乗り換える。そしてフォルティス団長以下、第一騎士団の騎馬隊が周りを囲み、馬車の後ろに騎士達が整列し始めた。


 するとまた盛大にラッパが鳴り、王都に向かって行進が始まった。王都の巨大な門は開いており、既にその前にも市民が大挙している。そこに俺が乗るオープンカー仕様の馬車が滑りこんでいくのだった。門を潜った直後、爆発したような市民の歓声が巻き起こり紙吹雪が舞う。その中を俺の乗る馬車がゆっくりと進んでいく。


 はあ…、なんで、こんなめんどくさい事しなきゃならねえんだよ!


 そんな事を思いながら、俺は美しい顔が歪まないように、精一杯笑顔を作り手を振る。街頭の市民達から声援を受けながら、手を振っていると…


 あれ? 町民にもちらほらかわいい子いんじゃん! 王族や貴族ばっか見てたけど、街にも可愛い子いるんだなあ。露出の多い女のグループもいる。剣や弓や魔法の杖を持っているので、恐らくは冒険者ギルドに登録しているパーティーだろう。


 セクスィーじゃねー! 君カワウィーね! 


 俺はゆっくり進む馬車の楽しみ方を見つけてしまった。数は希少ではあるが、時おり顔の整った美しい女がいるのだ。これなら手を振るのも苦痛じゃないぞ! あの子! ショートヘアーでボーイッシュだけど、化粧をすれば相当可愛いぞ。 反対の歩道にいる子! 服装は地味で髪の毛もぼさぼさだけど、素材としてはピカイチだな。何よりも笑顔が良い!


 可愛い子にだけ手を振る事で、俺の気持ちはドンドン浄化されていくようだった。俺と目が合うたびに可愛い子が頬を染めて、より一層の笑顔で返してくれる。


 凱旋パレードも悪くないな…。こんなにゆっくりとそしてまじまじと女の子の顔を見ても、誰も咎めないし合法だ。いや…、もともと女の子の顔を見るのは犯罪じゃないか。まあ俺の好みの子は、三十人に一人といった所だな。約三パーセントくらいの確率か。まあソフィアに勝てる子はいないようだが、それでもいい感じの子はいっぱいいるんだなぁ。まあそうか…にんげんだもの。


 そんな事を考えていると、フォルティスが馬車の脇につけて俺に伝えてくる。


「聖女様! 恐れ入ります! ここから建物の二階に貴族の方達がおりますので、上にも注意していただけますとありがたい」


 えーーーーっ! 俺は美女や美少女探しをしてんの! そんな貴族なんて興味ないんだけどな…


 そう言っても一応は凱旋パレード、公務であるから気を使わなければならないか。


 俺は上を向いて、建物の二階にも気を配る。案の定貴族のおっさんおばさん連中ばっかりだ。こんな凱旋パレードに若い子が…


 と思っていた時だった。色とりどりのドレスの集団が見えて来る。


 あれ? あれは、子爵の娘のミステル…伯爵の娘のアグマリナと、伯爵の娘マロエじゃないか! と言う事は…


 その前を通りかかった時、かしまし三女の中に! 公爵令嬢ソフィアの顔があった! 俺は思わず立ち上がり、ソフィアに向かって両手を振ってしまった。しかも馬車から身を乗り出してしまう。


「聖女様。危険ですよ」


 フォルティスが釘を刺してくるが、俺には聞こえていない。


 やっと!!! やっと見れたソフィアの顔! めっちゃ可愛い! いや! 綺麗! 会いたかった!


 そしてソフィアもベランダから身を乗り出して、俺に向かって両手を振ってくれた。


 帝国兵の撃退をやって良かった! 帝国兵を撃退したのは全ては君の為なんだ! 


 しばらくは会えないかと思っていたソフィアの顔を見れた事で、俺の気持ちは一旦満足するのだった。俺は振り返っていつまでもソフィアに手を振りつづける。


 泣いてたな…ソフィア。俺の為に泣いてくれていた。


 そして俺は泣いている自分に気づいていなかった。俺は両の目からこぼれ落ちる涙を拭いもせずに、見えなくなったソフィアの方を見ていた。そして力が抜けたように、そっと馬車の座席に座った。


「いかがなさいました?」


 フォルティスが聞いて来るが答える気力も無かった。だが無視するわけにもいかないので、顔を上げて答える。すると俺の泣き顔を見たフォルティスが少し驚いた表情をした。


「いえ。市民がこんなに喜んでいるなんて、平和とは何と尊いものなのでございましょう」


 市民と言うかソフィアが喜んでくれた! うれしい!


「は! 聖女様! 聖女様がお守りくださったのです! 国民は全て聖女様の功績を称えるでしょう! そんなお優しい気持ちを向けられる国民は幸せです」


 そんなんどうでもいい。 ソフィアが泣いてた! うれしい!


「私は…、泣いていたのですね…」


「聖女様…、とてもお美しい…」


 鬼の騎士団長フォルティスが呆けた顔で言う、その隣を走るマイオールも腑抜けた顔で俺を見ていた。その二人のおっさんのキモすぎる顔を見て、一気に興ざめした俺はすっかり感動も薄れてしまった。


 俺は再び完璧な笑顔を作り直して、市民に対して手を振り続けるのだった。

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