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第13話 軍事的緊張だと?

 最近、北方に隣接するズーラント帝国で不穏な動きがあるという。


 ズーラント帝国は軍事国家で、近隣諸国の中でも一番の軍隊を持っていると言われている。聖女としての俺の仕事は、そんな他国からの脅威に立ち向かう兵士の、治癒や支援が主だと言っても過言ではない。聖女になる前のこの体の記憶ではあるが、前線の野戦病院の過酷さはハンパじゃないはずだ。


 だから戦争なんか起きない方がいい。だけど、この世界も前世と同じようにあちこちで戦争をしているようだ。そもそもヒモの俺は争いごとが嫌いだ。女とも喧嘩なんてしない方がいいし、女と火種が起きそうなら別れるのが一番だと思う。無関心が一番安全と言えるのだが、なぜ他の国に攻め入って来ようとするのか謎だ。と、まあ女と国家の争いがごっちゃになってきた。


 そして今、俺は前線に近いアルクス領の都市にやってきていた。城塞都市カルアデュールは、アルクス領の首都である。この領には数か所に砦があり、ズーラント帝国からの侵入を防ぐ要の地になっていた。カルアデュールは、周りが高い城壁で囲われており堅牢な要塞となっている。都市内に畑があり畜産もやっている為、兵糧攻めにも耐えうるのが特徴だった。


 だけどそのせいで…俺はソフィアに会う事が出来なくなった。聖女邸のみんなからも離れて、寂しいのなんのって。


 今回は前線に近い土地への訪問である為、修道女スティーリアはついて来ていない。メイドのミリィだけが、生活の世話の為について来ているだけで他のメイドもいない。なんなら俺は、このチャンスにミリィを口説いて自分の物にしたとさえ考えていた。ソフィア、ごめん。


「早めに済ませましょう」


 俺は自分にあてがわれた部屋で鏡の前に座り、身支度をしてくれているミリィに言う。


「はい、急ぎます」


 いやいや。身支度を急ぐんじゃなくて、不毛な領主との話し合いを早く終わらせたいという意味なんだが。


「あ、準備は丁寧に」


「承知しております」


 ミリィとは公務以外では、一番一緒にいる事が多いため気心が知れている。家に帰った時の食事や風呂も一緒なので、とにかく俺の事を何もかも知り尽くしてくれているのがありがたい。


「準備が出来ました」


「では参りましょう」


「かなり時間が早いようですが?」


 早く行って早く終わらせたいじゃん。そして早く王都に帰って、ソフィアに会いたいし王女ビクトレアともお茶がしたい。急げ急げ!


「行きます」


「流石は聖女様です。公務となると気が急いて仕方がないのですね、私も見習わねばなりません」


 いや、さっさと終わらせたいんだってば。


 俺とミリィが廊下に出ると、廊下の前に立っていた領主邸のメイドが俺達に礼をする。そしてその待っていたメイドの内の一人が言った。


「お時間まで、まだあるようですが?」


 かわいい顔で言われても、俺はぐらつかないぞ。


「いいです。行きます」


「はい」


 そしてメイド達は、俺達を会合の場所まで連れて行くのだった。最前線の領の領主邸と言う事もあって、豪華というより堅牢な作りになっているのが分かる。どこもかしこも石造りで、とても頑丈そうに作ってあるようだ。一応絨毯はふかふかで歩きやすいが、それも派手なものでは無かった。


「こちらです」


 メイドが扉を開けてくれた、すると部屋に入る前にミリィが言う。


「では聖女様。私はこちらで」


 もちろん戦男が集まる会合に、メイドを連れて入る訳にはいかない。ミリィはそれをわきまえて言っているのだが、出来れば常に一緒にいて手を握っていて欲しかった。そんな気持ちを押さえて俺は言う。


「すぐに終わると思う」


「はい」


 そして俺が会合の間へ入ると、やはり一番乗りだったようだ。メイド達が言うように気が早かった。


 なんか俺、やる気満々って感じになってしまった。俺の内心は全くの逆であるというのに…


 俺が席に座ると、すぐにメイド達がお茶を運んで来てくれた。仕方ないので、俺はお茶を飲みながら待つことにする。会合に選ばれたこの部屋も武骨で、装飾が少ない気がするし調度品も無い。だがそれには理由がある。それはこの領の領主である、ミラシオン伯爵が軍人上がりだからだ。元は名のある将軍の一人で、爵位を与えられ平民から伯爵の地位に上り詰めたのだ。


「これは、お待たせいたしました」


 遅れてミラシオン伯爵がやって来た。どうやら俺が早く会合の間に入ったのを、誰かが伝えに言ってくれたらしい。俺の目論見通り早く話が進みそうだ。そしてプラスして、二人のおっさんが部屋に入って来た。いや、俺がおっさんと言っているだけで、それほど齢を取っているわけではないが、俺にとって二十歳を超えた男は皆おっさんだ。厳ついおっさんの方が挨拶してきた。


「これはこれは、聖女様。此度は御足労ありがとうございます。私はカルアデュール領の騎士団長シュバイスで御座います」


「我が国の砦を最前線でお守りいただきありがとうございます。フラル・エルチ・バナギアと申します」


「私は領兵、魔導士団長のソキウスでございます」


「何卒よろしくおねがいします」


 この二人とは今回が初顔合わせとなる。ミラシオン伯爵とは、王都での聖女お披露目会で会った事がある。ミラシオンは軍人上がりの伯爵だが美形で、耳にかぶるくらいの水色のロンゲが特徴的だ。シュバイス団長は無骨な感じで顔に数か所傷があり、いかにも歴戦の勇士という感じがする。それに対し魔導士のソキウスは、少し線が細く黒髪の七三分けで眼鏡をかけている。どちらかというとインテリと言う感じの男だった。


 俺の前世だったらミラシオンには完全敗北だ。シュバイスとは好みで分かれるだろうが、インテリのソキウスになら勝ってるんじゃないかと思う。こいつは前世ならどう見ても陰キャの部類に入る。だがこういう線の細い男が好きな女もいるっちゃいる。


 シュバイス団長が聞いてくる。


「聖女様の護衛の王軍騎士は、ここにいないのですか?」


 もちろん王都から護衛の騎士は連れてきたが、そんなむっさい男どもを俺の側に置いておくわけが無かろう。あと変に、俺に異性の目を向けてくるのがウザいからいらん。


「ここには必要ございません」


「そういう訳には参りますまい。あなたは国宝級の人材なのですぞ、何かがあっては中央に対し申し訳が立たない。下手をすれば我々の首が飛ぶ」


 なるほどなるほど。シュバイスはこういう真面目人間なのね…めんどぃな。


「城塞都市内には、領兵もおりますので問題無いのではありませんか? それにここはミラシオン伯爵邸、危険があるはずもございますまい?」


「もちろんです。間者の類も入れぬ堅牢な作りになっております故、問題ないとは思います。ですがご自身のお立場をお分かりいただけると助かります」


「気を付けましょう」


 するとミラシオン伯爵が気を遣うように口を開いた。


「まあ、シュバイス。いざという時は王軍の騎士も、すぐに駆け付けられるようになっている。聖女様も何かと心苦しかろうし、そこまで目くじらを立てる事もあるまい」


「分かりました」


 そう! 俺が聖女だからって、ピリピリしすぎなんだって! ホント真面目腐っててめんどいわ。とにかく話を続けよう。


「それで状況は?」


 俺の問いにミラシオン伯爵が答える。


「はい。どうやら国境付近に帝国軍が集結しているようなのです」


「仕掛けて来そうなのですか?」


「いいえ。もしかするといつもの軍事演習の可能性が高いです。ですが隙をついて、攻め入って来る可能性も否定できません。ですのでこうして臨戦態勢をとっているわけです」

 

 それはそうだ。前世でも軍事演習とか言って攻め入ってきた国があるくらいだ。念には念を入れておくにこした事はない。流石に軍人上がりの伯爵はリスクヘッジをしっかりしている。


 まあ俺は効率よく今回の仕事を終わらせる事しか考えてないけどな。早く終わらせてソフィアやピクトレアとお茶するんだ。


 全く! 帝国め! 俺のガールズハッピーライフを邪魔しおって!


 怒りに燃える心とは裏腹に、涼しい顔でお茶を飲むのだった。

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