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第10話 救急治療と火急の用

 騎士達が待つ王都入り口付近の広場まで、少し時間がかかってしまった。街中が朝市で混んでいたため、馬車が進むのが遅かったのだ。まあ前世で言うところの通勤ラッシュのような物だろう。とにかく午後のソフィアとのお茶会の事を思うと俺は焦る。


 広場には満身創痍の魔獣討伐隊の騎士達が待ち構えていた。中には瀕死の重傷を負っている者もいるようで、多くの騎士が地べたに寝転がっている。俺が到着すると副騎士団長のマイオールが、馬車の扉を開けて俺に手を差し伸べた。俺はもちろんその手を取らずに馬車を降りる。


 男の手なんか誰がとるもんかい! あほか!


 そんな思いは億面にも出さずに、寝ている騎士達の方へと急ぎ足で歩いて行った。スティーリアが後ろから着いて来る。血の臭いがするので、彼女はすこし顔をしかめているようだ。そんな事よりも急いで治療しなくては! ソフィアに早く会いに行くために!


 俺はマイオールに話しかける。


「マイオール副団長」


「はい!」


「大きな怪我をしている人を、全員一カ所に集めるように言ってください」


「かしこまりました」


 そしてマイオールが動ける騎士に呼びかけ、ばらけている怪我人を集めるように言った。重傷者が一カ所に集められて行く。


 まったく…なんでこんな死にそうな怪我してるんだよ! 俺は急いで仕事を終わらせて、ソフィアとのお茶会に行くんだからな! いい加減にしてくれよ! 


 だが俺はそんな内面とはうらはらに、楚々とした表情で集まる騎士達を見ていた。


「聖女様。集めました!」


「わかりました」


 俺が使う魔法はもちろん、ゾーンメギスヒーリングだが別に詠唱しなくても発動する。俺は聖女になってから爆発的に魔力が上がり、さらに無詠唱で魔法が使えるようになったらしい。だが無詠唱でやると何かと驚かれるので、とりあえず軽く魔法名を言う事にした。


「ゾーンメギスヒーリング」


 パアアアアアア! と俺を中心に五十メートル四方に光が広がり光の膜が降りていく。すると光が降り注いだ騎士の傷が、片っ端に塞がって治っていった。


「おおおお!」

「治っていく!」

「死ぬかと思っていたのに…」


 騎士達が口々に何やら言っているが全部無視だ。


 よし!これで重傷者は全部治ったはず。あとは精神系や毒の障害を受けた奴を治したら終わりだ。そいつらも仕分けしてぱっぱと治してしまおう。とりあえず早く帰って支度してソフィアの所に行くんだ! てか、なに、唖然とした表情しているんだよ! 俺にはそんな時間の余裕はないんだ、ここまで来るのにも結構時間かけてんだ! お前らの感動なんか俺にとってはどうでもいいんだよ!


「奇跡…」


 いや、だから…「奇跡…」っとかいらねえから! 俺はソフィアの所に行くんだってえの!


「では…」


 治療を終えたので、そう言って俺がそこを立ち去ろうとすると、いきなり騎士達が俺の前に跪き始めた。次々に跪き始め俺は帰るに帰れなくなってしまう。流石にさらりと帰れる雰囲気じゃない。すると俺の前にマイオールが来て話し始める。


「聖女様…ありがとうございます。この件は、王宮に帰り報告させていただきます。おって褒賞などあるでしょう」


 めんどぃ! 今はそんな話どうでもいい! 勝手に王宮に帰ってからやってくれ!


 なので俺は言う。 


「いえ。褒賞の事などどうでも良いのです。私は午後の公務がありますので失礼します」


 俺がそう言うとマイオールは、俺じゃなくスティーリアのほうをじっと見ている。


 なんだよ! スティーリアに対してなんとか言ってほしい! て懇願顔をするんじゃないよ!


 だがスティーリアは真面目だ。そんなマイオールの気持ちを汲み取って俺に進言してくる。


「聖女様。騎士様達にひと言お願いいたします」


 ああ…やっぱりそう言うと思ってた。まあそんな真面目なところが可愛いんだけどね。スティーリア好きだよ。


 スティーリアにお願いされたら一言話さなくてはいけない。


「ま、まあ。そうですね。騎士の皆様! 市民の為に、日夜戦って下さりありがとうございます。ですが無理はなさらぬように! いつも生きて帰られる事を、一番に考えて行動して下さるようお願いします。騎士様がいるからこそ私達は平和で居られるのですから。女神フォルトゥーナの加護があらんことを」


 だって、大怪我される度に緊急招集されたらたまらんし、大事なソフィアとのお茶会が飛びそうになるし。とにかく一番は、怪我をしないでくれると俺が助かるんだが!


 するとマイオールが答える。


「なんという慈悲深きお言葉。これだけ大勢の怪我人を治してしまわれるとは、やはり奇跡としか言いようがございません」


 キラリ!


 キラリ! じゃねえし。確かにイケメンではあるが、お前になんか全く興味ねえし。とりあえず俺は公爵令嬢ソフィアとのお茶会に行かなきゃなんねぇの!


「それほどの事はしておりません。私は私の任された仕事をしているまで…それでは…」


 パチパチパチパチ! おおおおおおおお! 聖女様ばんざーい!


「我らが聖女様に敬礼!」


 マイオールが叫ぶと、騎士達がビシィと剣を立ててずらりと並んだ。するとその光景を見ていた民までもが次々に賞賛し始める。その広場は一気に大喝采で埋め尽くされるのだった。


 フェスじゃねえんだからよ! とにかく、上手くいったんだからそれでいいな!


「ではスティーリア! そろそろ時間ですよ! 参りましょう!」


「は、はい! それでは皆様! 公務が御座いますのでこれにて失礼いたします」


 急いで俺とスティーリアが馬車に乗り込む。市民達が道の両脇で手を振っているので、仕方なく俺も市民に手を振り返す。すると…事もあろうに、御者が気を利かして馬車をゆっくりと進め始めた。俺が手を振って挨拶をする時間をゆっくり取るつもりだ。


 いいって! いいってば! 別に俺は手を振りたいわけじゃないんだって! 喝采なんか受けなくていいんだって! 馬を進めろ! 馬を! 早く! 進めろ!


 俺の心の声もむなしく、時間をかけて大通りを進んでいく馬車。そして聖女邸についた頃には公爵令嬢ソフィアと会うまで、もう三十分くらいしか残されていなかった。


 大好きなソフィアと会うのにおしゃれもしてない!


「ミリィ! 公爵邸に行くのに、私の身だしなみがなっていません!」


 こんな疲れた顔を見せられない! さっき魔力を消費したので少し力が減った感じだし! とにかく化粧で誤魔化さないと!


「わかりました!」


 ミリィ達メイド軍団が俺の周りに集まった。私が歩きながらも服を着替えさせ、席につくころには公務の衣装が脱げている。そして髪を結い直し化粧をバッチリと整えてくれた。


 まるで…エフワンのピットインだな…


 そしてそのまま、部屋に戻りソフィアの好きそうな紫のドレスに着替える。すぐに部屋を出て玄関先の馬車に乗りこむまで約十五分。そしてスティーリアをお供に、急いで公爵邸に向け馬車を発車させるのだった。


「スティーリア、時間がありません」


 俺が言うとスティーリアが御者に急ぐように伝えてくれた。


「はい。すみませんが急いでくださいますか?」


 馬車の揺れが激しくなり、少し酔いそうな感じになるが仕方がない。そう言えば朝飯を食いっぱぐれているので、腹も減っている気がする。


 何かかじってこれば良かった…


「つきました」


 俺とスティーリアが馬車を飛びおりたとき、約束の時間の二分前だった。公爵邸の入り口に使用人が出迎えに出ていたので、そいつについて俺はすぐさまソフィアのもとへと急ぐのだった。

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