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06 余波


 市内の探索は順調に進んでいる。

 目標を選定して、目標までの道を整備して、物資を調達して帰還。

 ほとんどルーチンワークと化している。


 もちろん注意も怠らない。

 ポチたち魔狼の警戒網はそこそこ優秀だし、魔狼たちは妖魔の中では結構強い部類だ。今のところ、お手上げになるような事態にはなっていない。


 市外については、まだまだこれからといったところ。

 高所から見渡した限りでは、どこまで行っても廃墟が続くだけに見えた。

 まぁ急ぐ必要もないし、拠点から離れればそれだけ危険も増す。

 ホビットたちの安全を考えれば無茶は出来ないのだった。


 今後のことをあれやこれやと考える。

 領民を率いる領主は心労がたえないのだ。


 夜が明けたころ、俺は庁舎内の寝床に入って一寝入りする。

 バンパイアだからといって、棺桶に入るわけではない。普通の布団だ。

 寝床の中で伸びをして、やれやれと息をついたところ、


 ズドーン


 一瞬地面が持ち上がったような非常に大きな振動が一度、直後にびりびりと小さな振動が続いた。


「……む、地震か? 震度5ってとこかな」


 元日本人らしく、呑気に地震を分析していると、ポチがガゥガゥと何かを訴えながら部屋に入ってきた。単なる地震ではなさそうだ。


 下の階に降りてみると、ホビットたちが大騒ぎしていた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ大変だぁ!」

「地面が爆発したんだ!」

「いや、タイタンの襲撃だ!」

「神様がお怒りなのだ」

「魔人か魔王か悪魔の仕業に違いないぃぃ!」


 ざっと見渡したところ、どこも壊れてないし怪我人もいなさそうだ。


「まてまて、落ち着け。

 誰か怪我をした者はいるか?」


「「「領主さまぁ~!」」


 ホビットたちが集まってくる。


「どうだ、怪我をした者は?」


「「「……いえ、誰も」」」


 だろうな。ホビットたちのいた世界では地震はなかったのかも。

 俺はうんうんと頷き、皆をなだめる。


「大丈夫。これぐらいの揺れじゃぁここは何ともならんから」


「おぉぉぉぉ!」

「さすが領主様のお屋敷だ」

「落ち着いておられる」

「やはり格が違う……」


 ようやくホビットたちが落ち着きを取り戻す。


 それにしても何か微妙な違和感があるぞ。なんだろう。

 ポチたちを見ると、窓からしきりに遠くを気にしている。

 そしてホビットたちもポカンと口を開けている。

 振り返ってそれに気づいた俺は、あごが外れる程驚愕した。


「なんじゃありゃぁぁぁ!」


 山があった。標高千メートルはあるだろう。

 昨日までは、いや、ちょっと前までは無かったはずの山がそこにあった。

 隣街があったあたりが、丸ごとそっくり山になっていたのである。

 何かと騒々しいホビットたちも、今はただ茫然と山を見上げている。



「ちょっと見てくる。

 お前たちはここにいるんだぞ」


 ホビットたちに言い残し、ポチ達を引き連れて山に向かって走る。

 走ることに長けた魔狼たちは風のように速く走る。

 バンパイアの俺は彼らよりも速く、瞬間的には音速を超えることができるのだが、服や靴が破けるし衝撃波で街が壊れるし疲れるので、ポチ達と並んで走った。


 三十分も走ると山のふもとに到着した。

 ふもとにはちょっとした建物があり、人らしきものまで出てきている。

 彼らは一様に目を丸くして口を開けて固まっている。

 ひどくビックリしている様子だ。



「大変な時に何なんだけど、俺の言葉がわかるかな?」


 俺は彼らに近づいて、なんだかマヌケなセリフを口にした。

 彼らは全員、俺の胸ほどの背丈で、がっしりとした体型でひげもじゃだ。

 鉄の兜をかぶって鉄の靴を履いている。腰にはハンマーを下げている。

 どう見てもファンタジー世界の住人。ドワーフだった。


「……あ、あぁ、言葉は分かる。

 ところで、お前さんは何者じゃ? その狼たちは大丈夫なんじゃろうな?」


「俺は向こうの街の領主をしているものだ。

 狼は俺の家来だから大丈夫だよ」


「ふん、そうか。それにしても、何が起きたんじゃ?」


「う~ん、説明はなかなか難しいな。

 ともかく、あんたたちはドワーフで、この山はドワーフの鉱山なんだろ?

 何かに巻き込まれて、気が付いたら周りの景色が変わっていたと」


「ふん、ドワーフか。まぁ、わしらをそう呼ぶ連中は多いのぉ。

 あとはお前さんの言う通り、だいたいそんな感じじゃ」


「なるほど……」


 俺は異界震について知っていることと、この世界について説明した。

 最初は、なかなか信じてもらえなかったが、周りを見れば信じざるを得ないのだった。彼らも最終的には納得したようだ。


「つまりわしらは、山ごと異界に飛ばされたっちゅうことじゃな?」






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