表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/59

59 ドラゴン来襲



 珍しく夜に眠って、朝に目が覚めた。


 何かしら予感があったというか、嫌な胸騒ぎがしたのだ。

 なぜかは知らないが、ジャンヌやクロエやホビットたちもそうだったらしい。



 俺は特に理由もないままワイバーン革の戦闘服を着こみ、改良型ヤツメウナギとドラゴンスレイヤーを提げて庁舎の外に出た。空を見上げると良い天気だ。


「あれ? みんな早いな」


 なぜか完全武装のジャンヌがサイクロン号の点検をしている。その様子をクロエが興味深げに見物していた。


「ブラド、おはよう」

「おはようございます、ブラドさん」


「「「皆さん、おはようございます」」」


 ホビットたちもデジカメを手に外に出てきた。

 天気が良いので外の風景を撮影するのだとか。



 そこへ魔狼のポチが駆け込んできて、俺に報告する。


「ガゥガゥガゥ……」


「大物か⁉」


「むむっ!」


 気の早いジャンヌが、サイクロン号に飛び乗りエンジンをかけた。

 出動を察したクロエが、呪文を唱えて俺たちに守りの魔法をかけてくれる。

 すぐ後にオギ村の村長のハンスが車を飛ばしてやって来た。顔面蒼白だ。


「ド、ドラゴンです!」


「いくぞ!」


「承知!」


 言うやいなやジャンヌはサイクロン号を発進させる。


「私も行きます」


「「「領主様、私たちも!」」」


 クロエとホビットたちが真剣な顔で俺を見る。

 俺は車の荷室に武器を放り込んだ。


「分かった。お前たちも乗れ!」


 ホビットは全員は乗れないので、残りは留守番だ。

 車に乗った俺たちはジャンヌの後を追う。村長たちも後から来ている。

 オギ村までは車であっという間。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 確かにドラゴンがいた。

 村民たちが住む校舎の上空をゆっくりと旋回している。

 朝日に照らされて、地面にはドラゴンの大きな影が出来ている。


 村民たちは村長の指示に従って別な建物に避難した後だ。あらかじめ注意喚起をしておいて正解だったな。

 ジャンヌは村から少し離れたところにバイクを止めて、戦闘の準備を始めている。俺もその近くに車を止めた。


「お前たちは陰に隠れていろ」


「分かりました。私はこの辺りに防御結界をはっておきます」


「よし頼む」


 クロエは半目になって呪文を呟きながら精神を統一し始める。

 普段(かしま)しいホビットたちも今は息をひそめて、それでもデジカメをしっかり構えてドラゴンを撮影している。


 俺はドラゴンスレイヤーを背負い、ヤツメウナギをホルダーごと持って校舎に近づいて行く。


「ブラド、どうする?」


「ここからじゃぁ攻撃が届かん。

 少しドラゴンの様子を見よう」


「そうだな」


 クロエたちの方に目を向けると、ちょうど防御結界がはれたところだった。クロエを中心に半径十メートルほどが赤くカッと光り、半球状の透明な何かができた。


 その魔法の光がドラゴンに見つかってしまった。

 ドラゴンは今は畑になっている元グラウンドにふわりと着地すると、次の瞬間、灼熱の火焔をクロエたちに吹きかけた。


 ゴゥ!っという音と共にまばゆい光が周囲を照らし、クロエたちは炎に包まれてしまった。


「クロエ!」「!」


 ジャンヌが叫ぶ。俺はあまりのことに声も出せない。

 ブレスの光がすっと消えると、そこには無傷の車とクロエたちがいた。


「大丈夫です。この結界はそうそう破れませんから!」


「おぉ!」

「さすがだな」


 俺たちはホッと胸をなでおろした。

 ドラゴンは無事なクロエたちを見て納得いかない様子だ。

 地上に二本足で立ったまま小首をかしげて何かを考えている。


「今が好機だ。行くぞ!」

「承知!」


 ジャンヌはコンパウンドボウでドワーフ特製の矢を放つ。

 スタン、スタン、スタンと軽い発射音ながらも、威力は普通の矢の倍はある。

 俺はその隙にドラゴンの側面に回り込んだ。


 カンッ、カンッ、カンッ!


 ジャンヌが放った矢は全てドラゴンに命中したが、硬い鱗で弾かれてしまった。

 グワォォォ! 地の底から響くような唸り声をあげて、ドラゴンがジャンヌの方を向いて、すかざずブレスを吹きかけようとしたその時、


 ドォン!


 俺が渾身の力を込めて放った改良型ヤツメウナギがドラゴンの胴体に命中した。並の妖魔ならあっさり貫通するはずのそれは、ドラゴンの硬い鱗と強靭な筋肉のために半ばでとどまってしまった。


 しかし、それこそがヤツメウナギの本来の使い方だ。中空のヤツメウナギはドラゴンの血管から血液をどんどん外へ吸い出すのだった。

 二本足で立っていたドラゴンだが、さすがに血が抜けて弱ったのか前足を地面に着いて四本足になる。それでも大きい。頭まで地上から五メートルはあるだろう。


 グワォォ!! ドラゴンはもうひと吠えして今度は俺の方を向く。


「うぉぉぉぉぉぉ!」


 ジャンヌが向こう側から斬りかかったのだろう、ドザッという斬撃音がしてドラゴンの顔が苦痛に歪んだ。ドラゴンはジャンヌに向けて太い尻尾で反撃した。

 ドッパァン! という激しい衝突音とともにジャンヌが跳ね飛ばされる。


「うわぁぁぁぁ!」


 ジャンヌは剣を抱えたまま地面をゴロゴロと転がって、上手くダメージを逃す。

 俺はその時すでに空中にいた。ドラゴンの頭上二メートルほどに。そして持てる力を全て使って、太い首めがけてドラゴンスレイヤーを振り下ろした。


 ドシュッ!


 ドワーフが丹精込めて鍛え上げたその鉄塊は、強靭な鱗をものともせず、大した抵抗もなく下側に抜けた。勢い余った俺は鉄塊と一緒に地面にめり込んだ。

 少しして、ドラゴンの首がずるりと滑り、ドスンと地面に落ちる。


 ドラゴンの体がゆらぁりと揺れる。

 次の瞬間、大地を揺るがす轟音とともに、ドラゴンが地面に横倒しになった。


 その場にいた皆が息を呑んで辺りが静まり返った。

 俺はドラゴンスレイヤーを空に掲げて叫ぶ。


「倒したぞぉ!」


「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」


 周りから大きな歓声がわき上がった。

 ジャンヌも愛用のロングソードを掲げて涙を流して喜んでいた。

 クロエやホビットたちは満面の笑みで跳ねまわっている。

 村長のハンスや村民たちも大喜びだ。



 しばらくすると、ドルフたちがユニック車で駆けつけてきた。ユニック車とはクレーン付きのトラックのことだが、どこでこんな物を見つけてきたのだろう。ともかく、なんとも用意の良いことだ。


「や、やりおったな! ガッハッハ!」


 ドルフたちはドラゴンの死体の周りで大笑いするのだった。

 ポチ達魔狼はおこぼれを期待してよだれを垂らしている。


「わふわふわふ!」



「さすがドワーフの鍛えたドラゴン殺しだ、刃こぼれ一つない」


 ジャンヌは地面に横たえたドラゴンスレイヤーを見て感心している。


「当然じゃ。わしらが作ったんじゃからの」


「代金はあれで足りるよな?」


「もちろんじゃ。あれは正真正銘のドラゴン。

 亜竜のワイバーンとは格が違うのぉ」


「しまった! 靴を脱ぐのを忘れてた……」


 底に穴の開いてしまった靴を脱いでドルフに渡す。


「すまんが、また修理を頼む」


「……ドラゴンに免じて受けてやるわい」


「ん? いや、やっぱり次はドラゴン革の靴を作ってくれよ」


 ドルフは渋い顔をする。


「ぐぬっ。お前さんが領主じゃなかったら断るとこじゃぞ。

 まぁせっかくじゃから作ってやるわい」


「いつもすまないねぇ」


「それは言わない約束じゃ、ガッハッハ」


「待ってくれ! 私もドラゴン革の鎧が欲しいのだが……」


「よし分かった! もうついでじゃ」


「やったー! ありがたい!」


「今晩は、ドラゴン肉で焼肉パーティだな」


「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺たちの日常は続く。



 結局、エルフの森が突然現れるような大きな異変はもう起きなかった。

 少なくとも俺の生きている間は、世界が元通りになることはなかったし、逆に大きく崩れていくこともなかった。

 こまごまとした問題はあちこちで起こったが、後にして思えば大したことではない。それも良い思い出だ。

 俺の領は順調に人も増え発展していき、後に国となった。現代科学を下敷きにした新しい文明がそこに花開くことになる。



 ちなみに、あの時ホビットたちが撮影したドラゴンとの戦いの模様は、クロエによって編集され、国民たちの間で大人気コンテンツとなるのだった。








おわり



これにて完結です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ