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49 ガソリンが出来た


 俺たちは、村を襲撃しようとしていた連中をあっさりと殲滅(せんめつ)した。念のためにオギ村周辺の警戒を強化していたが、しばらくしても新たな襲撃はなかった。

 やはり事故的に壊滅させてしまったあの一団が、彼らの本隊だったのだろうと結論付けることにした。


「もしかしたら、ハメルンの街が平常に戻っているかも知れないぞ」


 俺の話にハンスが苦い顔をする。


「いえ、難しいでしょうね。

 街がただポツンとあったところで、それを支えるものがないのですから。

 私たちは今後もこちらでお世話になりたいと思います」


「そうか、わかった」


 彼らの村は外界と接しているので、他の妖魔の襲撃もなくはないが、それでも一定レベルの安全と、衣食住は保障されている。狭い街中で少ない物資の取り合いをするよりは、ずっとマシな暮らしができるだろうな。


「じゃぁ、簡単な身元調査をするから、そこに並んでくれ。

 クロエ、頼む」


「はい」


 クロエは村民の一人一人から氏名と年齢を聞きだして、リストに入力する。同時に顔写真をデジカメで撮影した。簡単な戸籍のようなものと、身分証明書を作るのだ。おいおい厳密なものにする予定だが、とりあえずはこれで十分だろう。

 村民たちはデジカメなどに驚いてはいたが、何をしているのかは理解したようだった。ハンスを含め皆嬉しそうな顔をしていた。


「これで私たちも、正式な領民ということでしょうか?」


「まぁな。やってもらうことは今と変らないがな。

 身分証明書が出来たら今度持って来るから、リストをもう一度確認してくれ」


「はい、領主様。……これで間違いなさそうです」



 他の村もおおむね同様の反応だったので、住民の登録をした上で正式に領民とした。領内にできた五つの村は、領土の外縁部にぐるりと配置している。外からの襲撃に対しては、これらの村がまず盾になるわけだ。


 村民たちには悪いが、彼らにそれほどの思い入れはない。俺としては、庁舎に同居している仲間たちの方がずっと大事なのだった。ドワーフたちも大事だが、鉱山が砦のような様相なので、彼らは大丈夫だと思う。エルフは知らない。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺は物資のやり取りをするために、定期的にドワーフの鉱山を訪れている。

 以前はリヤカーを引いて片道一時間歩いていたが、今は彼らが修理してくれたディーゼル車のおかげで片道五分。かなり時間が短縮できている。


 鉱山の入口前の広場には、ドワーフたちが集まって何やら作業していた。

 どうやら、ガソリンエンジンの車を動かしているらしい。ドワーフたちは、ついにガソリンまで作れるようになったようだ。


「お~い! 調子はどうだ」


 その車の運転席にはドルフが乗っていた。


「おぅ、ブラド。丁度良いところに来たのぉ」


「ガソリンが出来たんだな?」


 ドルフはニカッと笑った。


「そうじゃ。ガソリンはすごく危険じゃからのぉ。

 なかなか苦労したんじゃが、なんとかなったわぃ」


 ブォンブォンとエンジンをふかしてご満悦の様子だ。


「ついに、やったか……」


 問題は、車を走らせる道があまりないこと。それから車を運転できる人間があまりいないことか。ドワーフたちを別にすると、運転できるのは俺とジャンヌくらいなものか。まぁ、ジャンヌはまだ練習が必要だが。


 領内の道はある程度は整備してある。道に生えていた草木を刈って、瓦礫を撤去し、大穴を埋めた。とりあえずリヤカーが問題なく通れる程度ではあるが……。


 領外の下道は、もはや自然に帰りつつある。車でバンバン走るのは難しい、というか無理だ。高速道路はぱっと見はだいぶマシだが、何の点検もできてないのでいきなり崩壊する可能性もなくはない。


 つまり自動車には、今のところあまり需要がないのだった。

 非常に重要かつ有用な道具なのに、インフラが全然追い付いていないという、少し残念な状況だ。もちろんそれも、時間が経てば変わるだろうが。



「どうしたもんかな」


 ドルフに相談してみる。


「そうじゃの……。とりあえず村の者に貸してやればどうじゃ?

 道の整備は、周辺の村の者たちに丸投げすればよかろう。

 車があれば使いたくもなる。車を使うには道がいる。

 道がなければ、自分たちでなんとか作るじゃろ」


 ドルフの答えはなかなかの名案に思えた。


「なるほどな。ダメもとでやってみるか!

 でも車を借しても良いのか? 壊されるかもしれんぞ」


「道具は使ってなんぼじゃ。多少凹ませても構わんよ。

 このまま置いておいても、また腐らせるだけじゃろ。

 それだったら、貸してやった方がマシじゃ」


「そうか。ありがたく使わせてもらうよ」


「なんのなんの」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 各村の村長に話を持っていくと、かなり前向きというか、むしろ何とか貸してくれないかという強い要望があった。


 結局各村に、まずは二台ずつ車を貸し与えることにした。もちろん運転教習もしてやる。みっちり一カ月とかやってられないので、とりあえず物覚えの良さそうな若者にざっと教えた感じだが、道も空いているので大丈夫だろう。各自の努力に任せることにした。何か問題があれば、村内で解決するということだったしな。


 そして、しばらくすると、領内の道がかなりきれいになった。

 村民たちが自力で、村の周辺どころか、結構遠くの方まで道の整備をし始めたのだ。領の外に出る者も現れて、そのおかげで、かつての幹線道路もじわじわと開拓されつつある。もちろん危険はあるが、それは自己責任なのだ。





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