49 ガソリンが出来た
俺たちは、村を襲撃しようとしていた連中をあっさりと殲滅した。念のためにオギ村周辺の警戒を強化していたが、しばらくしても新たな襲撃はなかった。
やはり事故的に壊滅させてしまったあの一団が、彼らの本隊だったのだろうと結論付けることにした。
「もしかしたら、ハメルンの街が平常に戻っているかも知れないぞ」
俺の話にハンスが苦い顔をする。
「いえ、難しいでしょうね。
街がただポツンとあったところで、それを支えるものがないのですから。
私たちは今後もこちらでお世話になりたいと思います」
「そうか、わかった」
彼らの村は外界と接しているので、他の妖魔の襲撃もなくはないが、それでも一定レベルの安全と、衣食住は保障されている。狭い街中で少ない物資の取り合いをするよりは、ずっとマシな暮らしができるだろうな。
「じゃぁ、簡単な身元調査をするから、そこに並んでくれ。
クロエ、頼む」
「はい」
クロエは村民の一人一人から氏名と年齢を聞きだして、リストに入力する。同時に顔写真をデジカメで撮影した。簡単な戸籍のようなものと、身分証明書を作るのだ。おいおい厳密なものにする予定だが、とりあえずはこれで十分だろう。
村民たちはデジカメなどに驚いてはいたが、何をしているのかは理解したようだった。ハンスを含め皆嬉しそうな顔をしていた。
「これで私たちも、正式な領民ということでしょうか?」
「まぁな。やってもらうことは今と変らないがな。
身分証明書が出来たら今度持って来るから、リストをもう一度確認してくれ」
「はい、領主様。……これで間違いなさそうです」
他の村もおおむね同様の反応だったので、住民の登録をした上で正式に領民とした。領内にできた五つの村は、領土の外縁部にぐるりと配置している。外からの襲撃に対しては、これらの村がまず盾になるわけだ。
村民たちには悪いが、彼らにそれほどの思い入れはない。俺としては、庁舎に同居している仲間たちの方がずっと大事なのだった。ドワーフたちも大事だが、鉱山が砦のような様相なので、彼らは大丈夫だと思う。エルフは知らない。
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俺は物資のやり取りをするために、定期的にドワーフの鉱山を訪れている。
以前はリヤカーを引いて片道一時間歩いていたが、今は彼らが修理してくれたディーゼル車のおかげで片道五分。かなり時間が短縮できている。
鉱山の入口前の広場には、ドワーフたちが集まって何やら作業していた。
どうやら、ガソリンエンジンの車を動かしているらしい。ドワーフたちは、ついにガソリンまで作れるようになったようだ。
「お~い! 調子はどうだ」
その車の運転席にはドルフが乗っていた。
「おぅ、ブラド。丁度良いところに来たのぉ」
「ガソリンが出来たんだな?」
ドルフはニカッと笑った。
「そうじゃ。ガソリンはすごく危険じゃからのぉ。
なかなか苦労したんじゃが、なんとかなったわぃ」
ブォンブォンとエンジンをふかしてご満悦の様子だ。
「ついに、やったか……」
問題は、車を走らせる道があまりないこと。それから車を運転できる人間があまりいないことか。ドワーフたちを別にすると、運転できるのは俺とジャンヌくらいなものか。まぁ、ジャンヌはまだ練習が必要だが。
領内の道はある程度は整備してある。道に生えていた草木を刈って、瓦礫を撤去し、大穴を埋めた。とりあえずリヤカーが問題なく通れる程度ではあるが……。
領外の下道は、もはや自然に帰りつつある。車でバンバン走るのは難しい、というか無理だ。高速道路はぱっと見はだいぶマシだが、何の点検もできてないのでいきなり崩壊する可能性もなくはない。
つまり自動車には、今のところあまり需要がないのだった。
非常に重要かつ有用な道具なのに、インフラが全然追い付いていないという、少し残念な状況だ。もちろんそれも、時間が経てば変わるだろうが。
「どうしたもんかな」
ドルフに相談してみる。
「そうじゃの……。とりあえず村の者に貸してやればどうじゃ?
道の整備は、周辺の村の者たちに丸投げすればよかろう。
車があれば使いたくもなる。車を使うには道がいる。
道がなければ、自分たちでなんとか作るじゃろ」
ドルフの答えはなかなかの名案に思えた。
「なるほどな。ダメもとでやってみるか!
でも車を借しても良いのか? 壊されるかもしれんぞ」
「道具は使ってなんぼじゃ。多少凹ませても構わんよ。
このまま置いておいても、また腐らせるだけじゃろ。
それだったら、貸してやった方がマシじゃ」
「そうか。ありがたく使わせてもらうよ」
「なんのなんの」
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各村の村長に話を持っていくと、かなり前向きというか、むしろ何とか貸してくれないかという強い要望があった。
結局各村に、まずは二台ずつ車を貸し与えることにした。もちろん運転教習もしてやる。みっちり一カ月とかやってられないので、とりあえず物覚えの良さそうな若者にざっと教えた感じだが、道も空いているので大丈夫だろう。各自の努力に任せることにした。何か問題があれば、村内で解決するということだったしな。
そして、しばらくすると、領内の道がかなりきれいになった。
村民たちが自力で、村の周辺どころか、結構遠くの方まで道の整備をし始めたのだ。領の外に出る者も現れて、そのおかげで、かつての幹線道路もじわじわと開拓されつつある。もちろん危険はあるが、それは自己責任なのだ。




