48 無法者の襲撃
難民たちの受け入れが、あらかた落ち着いたころ。
ガゥガゥガゥとポチが異常を知らせにやって来た。
「むむっ! 今度こそ妖魔か?」
ジャンヌがなぜか期待に満ちた顔で立ち上がる。
「妖魔ではなさそうだが、何か厄介ごとだな」
「厄介ごとならやはり行かねばなるまい!」
ジャンヌはあっという間に戦闘服に着替えてきた。腰には愛用のロングソード、背にはコンパウンドボウ。矢も山ほど抱えている。
俺も一応戦闘服に着替え、ロングソードを背負う。念のために、改良型ヤツメウナギを一本だけ下げていくことにした。こいつは威力はあるが、持ちにくいのが難だな。今度ドルフに言って、複数本持てるようなホルダーを作ってもらおう。
「こないだ行ったオギ村の方だ、ジャンヌは馬で来い」
「わかった!」
クロエは俺たちに守りの魔法をかけてくれる。
「お気をつけて」
「サンキュー」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
オギ村に到着すると、村長のハンスが待ち構えていた。
青い顔をしたハンスが村の外を指さす。
「ハメルンの街を牛耳っていた無法者たちです。
街から逃げた私たちを追ってきたようです」
五十メーターほど先では、魔狼たちが横一列になって、侵入しようとしてくる連中を威嚇している。無法者たちは百人近くいるようだ。魔狼にむけて遠くから矢を射かけては、何が面白いのかゲラゲラ笑っている。もちろん魔狼たちは上手に避けるので、当たりはしない。
どう見ても話し合いに来た様子ではないな。それにしても、この手の連中はなぜこうも雰囲気が同じなのだろう。
「分かった。お前たちは安全な所にいてくれ。俺たちが何とかする」
「いやしかし、お二人だけでは……」
俺の落ち着き払った様子にハンスが困惑している。
ハンスの後ろには、武器らしいものを持った、これまた青い顔をした村民たち。手助けしてくれるのはありがたいが、彼らではむしろ足手まといだろうな。
「あのような烏合の衆、ものの数ではない」
ジャンヌが自信満々に断言する。
「大丈夫。俺たちがいればドラゴンをも撃退できるのだ」
「ド、ドラゴンですと⁉」
ハンスは俺の正気を疑ったのだろう、悲しそうな顔をして首を振った。
「それに、二人だけじゃないぞ。魔狼たちだっている。
ともかく、お前たちは手を出さなくていいから」
納得していないハンスたちを強引に押しとどめて、話を切り上げた。
魔狼たちを後ろに下げ、声がやっと届く距離まで近づいて、声を張り上げる。
「俺はこの辺りの領主をしている者だ。お前たちは何者だ?」
無法者たちはそれを聞いてゲラゲラと笑う。
「領主だってよ」
「馬鹿じゃねぇの」
「ダセェ……」
「弱そう」
「あんなヘナチョコが?」
「そんなことより、横にいるねぇちゃんをこっちによこしな。
そしたら命だけは助けてやらんこともないぜ、ニヤニヤ」
「どっちにしても全員ぶっ殺すんだけどな、ウヒャヒャヒャ」
無法者たちはまたゲラゲラと笑う。
黒いオーラがジャンヌの方から湧き上がってきた。
怖すぎて横を見れないが、ジャンヌの怒りのボルテージが上がっていくのを、俺の超感覚がビンビンに捉えている。呆から憤に、憤から怒、怒から殺に……。
そして今、殺を振り切った。ゴゴゴゴゴゴゴという重低音が俺には聞こえた。
「……ブラド――」
もはや最後まで聞くまでもない。
「オッケー! ジャンヌに任せた」
俺はカクカク頷きながら、ジャンヌに討伐許可を与えた。
「承知した!!」
ジャンヌは背負っていたコンパウンドボウを降ろして準備をする。そして、普通なら少し遠すぎるように思える位置から、次々に矢を射かけた。
ググッ、スタン
ググッ、スタン
ググッ、スタン
ググッ、スタン
ググッ、スタン
ググッ、スタン
連中も、そんなものは届かないし当たらないと思っていただろう。
ところが、ジャンヌの腕前とドワーフの作ったコンパウンドボウは普通ではなかったのだ。無法者たちは唖然とした顔のまま、無言でパタパタと倒れていく。連中が馬鹿みたいに棒立ちになっている中で、ジャンヌの弓の音だけが辺りに響く。
ググッ、スタン
ググッ、スタン
ググッ、スタン
ググッ、スタン
ググッ、スタン
ググッ、スタン
二十人ほどがジャンヌの矢の餌食になった時にようやく、連中のリーダーらしき男が声を上げる。
「野郎ども、かかれ!」
正気に戻った無法者たちがドッと押し寄せようとした時、俺はすでに改良型ヤツメウナギを構えていた。奴らが固まりになった瞬間を狙いすまして、全開に近い力で投げつけてやった。もちろん靴がもったいないので俺は裸足になっている。
「オラァァァァァ!!」
ズゴォン!という衝撃音を残し、改良型ヤツメウナギが飛行機雲をたなびきながら飛び去った後には、無法者たちの残骸と血の臭いしか残っていなかった。
「しまった! あとで回収しないといけないんだ……」
どこまで飛んで行ったんだろうか。俺は途方に暮れて額を手で叩く。
ジャンヌの方を見ると、ずいぶんとスッキリした表情になっていた。
「さすがブラドだ! やったな!」
「あぁ、ジャンヌの弓もすごかったよ、ハハハ」
ハンスたちは、あまりのことに、しばらく声も出せなかった。
「「「……」」」
「やはり、ただの烏合の衆だった」
「な? 大丈夫だったろ?」
ハンスたちは俺たちの言葉で、ようやく正気を取り戻し、勝鬨を上げる。
「「「おっ、おぉぉぉぉぉ!!」」」
「ありがとうございました! 領主様、ブイヨン卿」
「なんのこれしき」
「それよりも、アイツらはあれだけなのか?」
「いえ、あれは先兵のような者たちかと。奴らはもっと数がいたはずです」
ハンスの表情がまた暗くなった。
「ずいぶんと目立つ先兵だったな。あれでは意味をなさないだろうに」
戦闘の専門家であるジャンヌは、連中の行動のずさんさにあきれている。
「じゃあ、まだ他にもいるんだな。
とりあえずは、この方面の警戒を密にしないとな。
その前に、俺は得物を回収に行ってくる。すぐに戻るから」
あれを失くすとドルフに後で嫌味を言われる。
俺は音速のダッシュで投げた方角に走る。
少し走ると、死体の山が見えてきた。
さっきの連中と似たような雰囲気のチンピラどもが、半壊した状態でそこいら中に散らばっていた。衝撃波で蹴散らされたのだろう。その先に爆心地があった。
地面に斜めに突き立った改良型ヤツメウナギを見つけて俺はホッとする。
「こんなところまで飛んだとはな」
辺りに散らばる死体の数をざっと数えると千以上はあった。
「こっちが本隊だったのか。手間が省けたな」
俺は改良型ヤツメウナギを手に、薄く笑ったのだった。




