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47 難民キャンプ


「私たちはハメルンの街から逃げてきたのだ。どうか助けて欲しい」


 その一団を率いている男は、ハンス・ツィマーマンと名乗った。


 ハンスの話によると、半年ほど前にこちらの世界に街ごと飛ばされて来たのだという。しばらくすると、街は街としての機能を失って大混乱になり、その混乱で、多くの死傷者が出た。しかし、その街の長は大した手を打てなかった。


 結局、街の長は何者かにより殺された。そのうち無法者たちが街を牛耳るようになり、多くの住民たちが散り散りに逃げ出したのだ。


 ハンスの一団は最初は四百人ほどだったが、意見が対立するなどして分裂し、妖魔の襲撃などもあり、今の数になった。街を脱出してから、もう何週間も彷徨(さまよ)っているのだという。


 俺はジャンヌに小声でたずねた。


「ジャンヌ、ハメルンの街って知ってるか?」


「ああ、確かガロリング帝国にある城塞都市だ」


「そうか、嘘はついてなさそうだな」


「彼らは悪さを働くようには見えない」


 俺はハンスに言った。


「わかった! お前たちを助けてやる」


「「「おぉぉぉぉ!」」」


 難民たちは家族で抱き合って喜んだ。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺は彼らを連れて、魔狼の縄張りと外界との境界近くにある、ある中学校にやって来た。ここはまだ、ホビットたちの手も入っておらず、放置されたままになっている。俺は校舎内の安全をざっと確認して、彼らを屋内に収容した。


「食料と物資はすぐに持って来るから、ここで休んでいてくれ」


「は、はぁ……」


「あの魔狼たちがお前たちを守るから心配するな。彼らは俺の手下だから」


「わかりました。ありがとうございます」


 彼らはまだ戸惑っている様子だ。

 確かにここが安全と言われても、すぐには安心できないだろう。


「ジャンヌとポチはちょっとここで見ていてくれ。すぐに戻ってくるから」


「承知した」「わふ」


 俺の足ならここから我が家までは一瞬の距離だ。



 あっという間に庁舎に戻り、車に水や食料、衣料品、道具類その他、詰めるだけの物資を積み込んだ。


「領主様、どうしたのですか?」


 俺の様子にホビットが声をかけてくる。


「あぁ、難民だよ。遠くの街から逃げてきたらしいんだ」


「私たちも行って手助けしましょう」


「いや、大丈夫。

 彼らは彼らで自分たちで頑張ってもらうつもりだ。物資はやるがな。

 ぱっと見た感じでは、今すぐ死にそうな様子でもなかったし」


「そうですか」


 人の良いホビットは少し納得がいかないようだ。


「難民といえども、それなりの数の集団だ。妙なのも混じってるかもしれん。

 人間というのは、お前たちのような善良な種族とは違うんだ。

 知らない人間からはある程度距離を置いて、しばらく様子を見ないとな」


「わかりました、領主様」


 留守番していたクロエも中から出てきた。


「私は何かお役にたてますか?」


「大丈夫だ。クロエも待っていてくれ」




 俺は車で難民キャンプに戻った。

 難民たちは動く車に驚愕している。


「なるほど、あの乗り物はこのように使うのですな」


 ハンスは驚きつつも感心している。

 彼らも彷徨っているさなかに、道端の自動車などを目にしていたのだろう。それが何かくらいは想像していたと思う。

 同時に、自分たちが今いる世界が元の世界と全然違っていることも、身に染みて分かったことだろう。


「この世界が、お前たちのいた世界と違うことは分るな?」


「ええ、私たちはここが地獄ではないかと話し合っていました」


「ハハハ、地獄か」


 確かに地獄かもな。いきなりこんな所に放り出されればそう思うだろうな。

 俺はハンスに異界震のことや、この世界のことなどを説明する。


「納得しました。もちろん完全には理解できませんが……」


「それで十分だ。他の者にも後で説明してやってくれ」


「はい」


「この世界はもうどこもこんな状況で、俺たちも大して余裕があるわけじゃない。

 とりあえず、物資はしばらくの間は届けるから、

 なるべく早めに自立できるようになって欲しいんだ。

 ここの土地はあまり農業には向いてないが、工夫すれば何とかなる」


 俺はそこそこ広大なグラウンドを指さす。


「はっ、はぁ……。

 作物が育つまで数年はかかるかと思いますが」


「構わない。

 どうしても無理そうなら手伝いを入れるが、まぁしばらくは頑張ってくれ。

 必要な農具も物資も、言ってもらえれば提供するから」


「わかりました」


 生活用水がないということなので、井戸を掘ってやった。本当なら大変な作業になるのだが、俺の超感覚と改良型ヤツメウナギがあれば一発なのだ。


「むむっ! この下に水脈があるっぽいな」


 俺は真下の水脈に向けて、全力で改良型ヤツメウナギを突き立てる。


「せいやぁぁぁ!」


 ドゴォン!と大きな衝撃音と共に地面に深い穴が開き、水がこんこんと湧き上がってきた。


「「「おぉぉぉぉ!」」」


 俺の様子を見ていた難民たちが歓声を上げる。


「この建物と、敷地、それから隣接してる空き地なんかも好きに使ってくれ。

 暫定的だが、ハンス・ツィマーマン、お前がここの長だ。」


「はい、領主様」


 ハンスは俺を領主と認めてくれたようだ。

 彼らの住処は、教室を適当に割り振って、中を好きに改装してもらうことにした。こまごまとしたことは住人たちの話し合いで解決できるだろう。



 ハンスが長を務めるこの難民キャンプは、後にオギ村と名付けられる。オギというのは、元の中学校の名前を拝借したものだ。


 その後、ハンスたちと同じような難民の流入が相次ぎ、五つほどの村が領の外縁部に出来上がった。どうやら同じ街から非難してきたらしい。


 面倒くさがりの俺は、村に自治権を与えて、村内の面倒事は全て村長にほぼ丸投げしている。こちらとしては、困ったときの援助もするし、特に税なども取っていない。身の安全についても、ある程度は魔狼の警戒網によって保障されている。なので不満などは出ないはずだ。もちろん、何ごとにも絶対はないが。






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