42 クロエ、パソコンをもらう
俺がここに来た当初は、とりあえず雨風がしのげる安全そうな寝床、という感じだった。俺自身が不死身なこともあり、あまり快適さには目が向かなかったのだ。
しかし、同居人が増えていくにつれて、しだいにまともな住まいとして機能するようになってきた。人類が築いた文化文明をこのまま埋もれさせるのが惜しいという気持ちもあったし、たんに同居人たちの笑顔が嬉しいというのもあった。
ともかく、大工仕事が得意なホビットたちや、技術屋魂旺盛なドワーフたちの協力もあり、俺たちの住環境はどんどん改善されてきている。
ということで、以前は全く目に入らなかった電子機器の回収も行うことにした。
クロエがパソコンを欲しがってたし、たぶんドワーフたちもそのうち欲しがるはずだ。ダメになっている可能性は高いが、タワー型なら大丈夫なパーツを集めて使えるように出来るだろうと思った。
「雨ざらしになってるようなのはダメだぞ。
屋内で、なるべく箱に入ってる物を持ってきてくれ。こんなやつな」
俺はホビットたちにデジカメやノートパソコン、パソコンの周辺機器などの現物をを見せて、彼らに回収させることにした。
「「「はい、領主様」」」
彼らもこちらに来た当初から気にはなっていたようだが、俺がなるべく食料や日用品に集中するように頼んでいたのだ。彼らもそれどころではない事は分かっていた。当時は生活の建て直しに必死だったのだ。
ともかく俺の許しを得た感じになったので、彼らは興味の赴くままに、ありとあらゆる電子機器を持って帰るようになった。俺の占有フロアがだいぶ狭くなったが、それは仕方がないのだ。
「さて、クロエ」
俺は山と積まれたそれら電子機器の前にクロエを呼ぶ。
「はっ、はい」
クロエは興味と不安がないまぜになった表情を浮かべている。
「この中から、使えるやつを出来る限り見つけ出してくれ。
俺も手伝うが、こういうのはあんまり詳しくないんでな」
「はっ、はいぃ!」
デジカメは意外と大丈夫だった。バッテリーがダメかと思っていたが、それも問題ないものが多かった。クロエは本や雑誌でデジカメの存在は知っていたが、デジカメの実際の動きなどを見てひっくり返りそうになっていた。
「こっ、こんなに精密なものだったとはぁ……」
ノートパソコンもバッテリー以外は問題ない様子だった。替えのバッテリーがなかなかなさそうだが、コンセントのある場所なら使えそうだな。OSやアプリはネットがダメなので、もはやアップデートできないだろうが、動くことは動く。
ノートパソコンのことも、もちろんクロエは知っていたと思うが、やはり驚いている。適当なアプリを立ち上げるだけで腰を抜かしそうになっていた。
「こっ、これは魔法なのでは……」
デスクトップパソコンも意外にもそのままで大丈夫だった。問題はハードディスクの中が空なやつ。最新(といっても古いが)のやつはOSのインストールも、アプリのインストールもネット経由前提だったりするので、お手上げになってしまうのだ。BIOSのメニューを眺めて呆然とする。
「うぅぅん、困った。昔のはCDドライブがあれば良かったんだけどな。
とりあえずプレインストールのやつを使おうか」
昔のOSを探してきて入れるということも、できなくはないだろうが……。
むしろネットが前提でない時代のOSの方が、この世界では使いやすいかも。でもそれに合うソフトがないんだよな。この手のものは新しいものが正義みたいな空気があったからなぁ。データーの互換性がなくて泣くということもあったな、そういえば。
インクジェットプリンタはインクがほぼ全滅してたのでもったいないが廃棄。しかしレーザープリンターはトナーが案外無事で使えるものが多かった。他の周辺機器も、物理的に傷んでいない限りは使えるようだった。
「ちゃんと包装されていたものは意外と無事っぽいな。
だいたいこんな感じに見ていくんだ。クロエ、覚えたか?」
「はい! なんとか」
「じゃぁ、残りをよろしく」
「はっ、はひぃ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
結局クロエは数日かけて、そこにあった物を全て仕訳してしまった。
「こっちが使えないバッテリーで、こっちが使えるやつと。
意外に使えるものが多いんだな……。
よし! クロエは頑張った。何でも好きなのを持っていって良いよ」
目の下にクマを作ってヨレヨレになっていたクロエが、パッと顔を上げる。
「えぇぇ⁉ よっ、よろしいので?」
「もちろん。当たり前じゃないか。
クロエもパソコン欲しかったんだろ?」
「それはもう!」
「じゃぁどうぞ」
クロエはわなわなと震える指で、一番スペックの高そうなタワー型のパソコンを選んだ。やはりクロエはこうでないとな。
「よし分かった。じゃあそれに合うモニターと、マウス、キーボードと、ついでにスキャナーとプリンタとデジカメと、あと適当なノートパソコンも持っていけ」
「ハヒィ! あぢがどぅございばず……」
涙と鼻水とよだれで顔がぐしゃぐしゃになっている。
それを予想していた俺は、大き目のタオルをクロエに渡してやるのだった。




