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40 本好きクロエ


 魔術師見習いのクロエは、ジャンヌやホビットたちと同様、突然異界震に巻き込まれて、こちらの世界にやって来た。彼女も異界震の被害者だ。


 ともかく、そのクロエは魔術師としての教育を受けていた。

 魔術師とは、世界の(ことわり)を探求する者だ。この世界でいうところの科学者に近いのかもしれない。そのせいか知的好奇心が旺盛で、物の仕組みについて、とことん調べないと収まらないたちなのだった。


「ブラドさん、ホビットたちが乗っている自転車なんですが、

 車輪が二つしかないのに、あれはなんで倒れないんですか?」


「え⁉ えぇぇっと、あれだジャイロ。ジャイロ効果だ」


「ジャイロ効果?」


「そう。回転してる物は姿勢が安定するんだよ。コマなんかもそうだろ?

 根本の原理は俺は分からないが。

 ともかく、車輪が回ってるので、自転車は倒れにくいんだ」


「なるほどぉ。……ジャイロ効果っと」


 クロエはノートにびっしりと、この手のことを書き留めているのだ。

 ちなみに最初にボールペンを見たときには、ビックリしすぎてひっくり返っていた。シャーペンのときは失神しそうになっていた。彼女のいた世界とこちらの世界とでは、テクノロジーにおいて相当な開きがあるのだ。


「では、冷蔵庫で物が冷えるのは何故なんですか?」


「れっ、冷蔵庫ぉ⁉ えぇぇっと、コンプレッサーで……。

 あれだ、そう言うことは図書館で調べてくれ」


「図書館?」


「あぁ、クロエには教えてなかったか。この近くにあるんだよ。

 本が一杯あるから好きに調べられるぞ」


「本⁉ まさか本を好きに読めるのですか?

 ホビットの子供たちが絵本を読んでいるのは知ってましたが、

 その、専門的な分厚い書物もあるのですか?」


「あぁ、たぶんあると思うぞ」


「そっ、その図書館に、連れて行ってもらえないでしょうか?」


「もちろん。目と鼻の先だから、今から行こう」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「なっ、なんとぉぉぉぉぉぉ! こんなにも本が!

 ほっ、本当にこれを全て好きに読めるのですかぁ?」


 クロエは図書館の書棚をみて恍惚(こうこつ)の笑みを浮かべる。

 俺の感覚的には、この図書館はそこまで大きくはない。これくらいの都市には普通にある、いわゆる普通の規模の市立図書館だ。


「あぁ、見ての通り、ホビットたちも読んでるだろ?」


「はふぁぁぁぁ。なんと幸せなことかぁ! ありがたやぁ……」


 クロエは喜びのあまり泣き始める。


「おいクロエ。図書館では静かにすること!」


「ハヒィ! ずびばぜん……」


 涙と鼻水とよだれで顔がぐしゃぐしゃになっている。


 ともかくそれ以降、クロエは図書館に入り浸った。猛烈な勢いで本を読み漁る様子は、ちょっとドワーフたちに通じるところがあった。技術屋と科学者とでは、やはりどこか重なる部分があるようだな。


 クロエはどちらかと言えば理論重視で自然科学系の本を、ドワーフは体当たり的な実践重視で技術系の本を好んで読む。


 図書館には魔術の本もあったので、クロエに見せてみたが、ものすごく微妙な顔をして首をふっていた。本物の魔術師からすると、何かが違うのだろう。


 しばらくすると、クロエは普通の現代人並みの科学知識を身につけていた。いや、むしろもっと詳しいと思う。物差しが凡人の俺なので測れないのだった。


「ブラドさん。パソコンが欲しいのですが、何とかならないでしょうか?」


「パソコンかぁ。精密機器だからなぁ、まともに動くものがあるかどうか……。

 ともかく、探しておくよ」


 俺自身あまり詳しくないし、そもそも前は電気が使えない状況だったので全く目に入らなかったのだ。電気製品なんかよりも、もっと別なものに目が行っていた。


「ありがとうございます」


「でも、パソコンなんて何に使うんだ?

 まず間違いなくネットは生きてないだろうから、スタンドアローンだぞ」


 ようは昔のマイコンのように、内臓のソフトのみで運用する形だ。


「えぇ、いろいろな計算に便利かなと思いまして……。

 それにパソコンのような機械自体にも興味があるのです」


「なるほどなぁ」


 クロエは女というよりも男児的な趣向があるのかもしれない。男児的といえば、ジャンヌもそんなところがあるが、彼女はまた少し違うか。


「クロエはドワーフたちと気が合いそうだな」


「ドワーフですか? あの伝説の妖精ですか?」


「伝説かどうかは知らないが、うちの鍛冶仕事なんかをやってもらってるんだ。

 それに自動車の燃料なんかも作ってるし、いろいろと頼りになる連中だよ」


「えぇぇぇぇ⁉ ドワーフに普通に会えるんですか?」


「まぁな。会いたいのか?」


「はい! もちろんですぅ!」














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