38 暗殺者
俺が玄関扉を開けると同時に、何かが俺めがけて飛んできた。
刀身を黒く塗った投げナイフだ。数は四本。
顔めがけて飛んできた一本だけをロングソードで弾く。残りの三本はそのまま胴で受け止める。ワイバーン革の服は投げナイフなど通さないのだ。まぁ仮に刺さったところで、不死身の俺にはナイフなど意味はないが。
キィン! ガシャガシャガシャン
地面に落ちた四本の投げナイフ。何者かが息を呑む気配が伝わってくる。
明らかに俺を殺すつもりの攻撃だった。もはや俺の勘違いではない。思いっきり反撃するとしよう。
「ジャンヌは右の二人、ポチはジャンヌの補佐だ。残り二人は俺がやる」
「おぅ!」「わふ!」
ジャンヌとポチが右方向へダッと駆け出す。
俺は残り二人の相手をする。ジャンヌ直伝の超高速の突きを二回。それだけだ。
ザザッ!
音速を超える俺の動きについてこれられる人間などまずいない。
俺の相手は何が起こったかも分からず絶命した。
ジャンヌの方を見ると、一人を倒し残り一人と戦っている。
ポチがそいつの後ろからそっと近づき、ふくらはぎに噛みつく。
「ぎゃっ!」
一瞬の隙をつき、ジャンヌの突きがノドにお見舞いされた。
「ぐぼっ」
時間にすると、ほんの数分。熾烈ではあったが、あっという間に片が付いた。
駐車場には、黒づくめの男たちの死体が四つ残った。他に怪しい気配はない。
「ご苦労。とりあえず危機は去ったようだ」
「わふ」
「ふぅ、なかなか良い運動にはなった」
ジャンヌは余裕の笑みを浮かべている。
さすが騎士と言うべきか、戦い慣れしているな。
「ブラド、この投げナイフには毒が塗ってあるぞ。
持っている剣も特殊なものだ。こいつらは暗殺専門部隊のようだな」
中で怯えていたホビットたちも外に出てくる。
「「「領主様ぁ!」」」
ホビットたちは男たちの死体の周りに集まり、ガヤガヤと賑やかにやり始める。
「おいおい、そのナイフには触るなよ。危ないからな」
クロエが黒づくめの死体を指さして言った。
「私を追いかけていた人たちです!」
男たちの身ぐるみを剥がして調べてみたが、さすがに身元を示すものは何も持っていなかった。こいつらもプロってことだな。
「たぶん、クロエと一緒に異界震に巻き込まれてこっちへ来たんだろうな」
この連中も相当に困惑したことだろう。わけのわからない異界に飛ばされた上に、結局瞬時に返り討ちにあうという。後ろ暗い稼業の連中ではあるが、ほんの少しだけ同情してしまった。
「そもそもクロエは、なぜこのような者たちに狙われているのだ?」
ジャンヌの疑問はもっともだ。
「……わかりません。
お師匠様も彼らに殺されて、私は逃げるのに必死でした」
クロエの顔が悲しみと恐怖に歪む。
「そうか。まぁともかく、ここなら大丈夫だ。
さすがに追手も自由に異世界に来ることは出来ないはずだし」
近所の捜索を魔狼の群の一つに任せてたが、今のところ不審な者は見つかっていない。クロエと一緒に来たのはあの四人だけとみて、まず間違いないだろう。
四人の死体はグラウンドの隅に埋めてやった。さすがにポチ達の餌にするのはなんとなく気の毒というか、俺も元人間だし抵抗があるのだ。
連中の装備は今度ドワーフたちに持って行ってやろう。出来はともかく、それなりに珍品だし面白がってくれるはずだ。
「ありがとうございます。また命が助かりました」
クロエが頭を下げる。
「降りかかる火の粉を払っただけだ。気にするな。なぁ、ジャンヌ」
「ハハハ、騎士として当たり前のことをしたまでのこと。
さぁて、また風呂に入り直すとするか」
ジャンヌはまた浴場へ出かけて行った。
「クロエ、チョコでも食べるか? 甘いものを食べれば落ち着くっていうし」
「チョコ?」
チョコやクッキーなどを皿に盛って出してやる。
「そら」
「あ、どうも。
……むぐむぐむ! こっ、これはぁ!
なんという濃厚な味わい! むぐむぐむぐむぐ……。
とっ、止まらない! むぐむぐ……」
甘いものが別腹だというのは、どうやら本当のことらしい。




