29 女騎士自転車に乗る
俺とジャンヌは大学にいた怪しいリッチを倒した。
奴は異世界から何者かを呼ぶための儀式を行っていたのだ。
「ジャンヌはあんな奴と戦ったことがあるか?」
「私もあんなのと戦うのは初めてだ。
話で聞いたことはあったが、本当にいるとは思っていなかった。
何らかの手段によって、寿命を超越した魔術師がリッチになるのだという。
リッチは永遠に魔術の研究に明け暮れるらしい」
「そこまでして何を呼び寄せようとしてたのやら……」
「奴の儀式と異界震は関係があるのだろうか?」
「俺の勘だが、あまり関係ないように思う。
異界震とは何か雰囲気が違うような感じがするんだ。
それに、奴は何度も失敗していると言ってたし」
ふと今になって、いつか見た幽霊のことを思い出す。
それが今回のリッチと関係がありそうな気がするが、確証はない。
「しかし、異界震のあのでたらめさを見れば、
儀式の失敗の結果こそが、異界震とも言えるのではないか?」
「それもそうなんだけどな。
でも、個人でやったにしては、ちょっと規模が大きすぎる感じなんだよなぁ。
それになんだか、方向性が違うというか、どうもしっくりこないんだよ」
俺としては、異界震は自然災害的なものだったと言われた方が納得がいく。
「そうだな……」
「もちろん、これで何もかも片が付くなら、それはそれで嬉しいけどな」
「しばらくの間様子見という感じか……」
「でもあれだな、久々にちゃんと戦った気がするよ」
「同感だ! 今思い出しても震えがくる。
あのような強敵にはめったに巡り合えないだろう。
ブラドのあの剛剣を弾くなど、とんでもない奴だった。
私一人では危なかったと思う」
ジャンヌは戦いの光景を思い出しているのか、目をつぶってニンマリするのだった。いや、笑い事じゃないだろうと突っ込みたくなる。
「ところでブラド、ホビットたちが乗っているあれは自転車というのだろう?」
「そうだ自転車だ。
乗りたいんだったら、まだまだ余ってるやつがあるぞ」
俺はジャンヌを自転車置き場に連れて行く。
エルフのサラに何台かパクられたので、錠を付け直して、良い自転車にはさらにチェーンロックまで付けてある。まったく面倒なことだ。
「ジャンヌだったらこれが合いそうだな」
サドルが高めのロードタイプの自転車を引っ張り出した。体格の問題があって、ホビットはこの手の自転車には乗れない。
「おぉ! これは他のと何かが違うな」
「良くは知らんが、それはスポーツ走行用だろうな。
他のは実用的なママチャリだ。
ともかく、一度またがってみな」
「わかった」
ジャンヌはおっかなびっくりという感じに自転車にまたがった。
足が長いから両足のかかとがべったり地面に付く。
「サドルの高さは今は、それで良いだろう。
それで、そのレバーがブレーキだ。止まる時に握る、そうだ。
じゃあ、とりあえず真っすぐ走ってみろ」
「まっ、真っすぐだな。よし!」
ぐぃ! びたん!
「うわぁ!」
ペダルを踏み込んだと同時に、踏み込んだ方向へ倒れた。
どうやったらそんな芸当ができるのか、逆に難しいだろ。
「マジか!?」
「ブラド、これは壊れてるのではないか?」
ジャンヌがムッとした顔をして立ち上がる。
「いやいや、そんなはずはない。ちょっと貸してみろ。
……スイスイ~ィッと。ほら、こんな感じだ。壊れてないだろ?」
俺はジャンヌの目の前で自転車をクルクルと乗り回す。
「う、確かに……」
「仕方ないな。ペダルはとりあえず無視だ。
サドルに体重を乗せて、直接両足で地面を蹴って進んでみろ」
「わかった!」
ジャンヌはそろそろと足を動かす。
「もうちょっと速く、足で蹴るんだ」
「おっ、おぉぉぉぉ!」
最初はどうなることかと思ったが、さすがに騎士だけあって運動神経は良いのか、半日もすると乗りこなせるようになっていた。
「ハハハ、これは爽快だな。実に気分が良い!」
ジャンヌは庁舎の駐車場では飽き足らず、庁舎の周りをぐるぐると走り回る。
そのうちどんどんスピードが上がって行った。
体力に物を言わせてペダルをグイグイ漕いでいる。大丈夫かよ。
「うひょー! 実に楽しい。これはすごいぞ!」
ジャンヌは満面の笑みで自転車を飛ばすのだった。
そんな様子をホビットたちが、やや生暖かい笑顔で見ている。
結局ジャンヌは暗くなるまで自転車を乗り回し、ヘトヘトになっていた。
「はぅぅ、足が、足がつった……」




