25 バッテリー
ドワーフの鉱山に行くたびに、変貌具合に驚かされる。
元あった作業スペースのさらに奥に、いつの間にか新しい部屋が出来ていた。
その部屋には、ビーカーやフラスコ、試験管などが並び、棚には薬品が一杯だ。
ドワーフたちが欲しがるので、学校の理科室とか保健室や薬局などから調達して届けていた。何に使うのだろうかと思っていたら、化学実験をしていたようだ。
「いったい何を作っているんだ?」
ドルフが車のバッテリーを持って来た。
「鉛蓄電池の構造はそれほど難しくはない。
電極と電解液が用意できれば、意外と簡単に再現できるんじゃ。
それで、電極はすぐに作れたんじゃが、電解液が用意できんかった。
書物によると、希硫酸というものらしいがの」
「そうそう、希硫酸だ。
でも、希硫酸なら、あそこにある硫酸を蒸留水で薄めれば出来るだろ?」
俺は化学実験用の硫酸のビンを指さす。
「もちろん、それは分かっておるとも。
わしらはその硫酸自体を作れんものかと、あれこれやっておったのじゃ」
「へぇ!? それで、出来たのか?」
「当たり前じゃ。わしらは錬金術もかじっておったからの。
わしらにかかれば朝飯前じゃよ」
「ということは、つまり……」
「そう、わしらはバッテリーを量産できるようになったのじゃ」
「な!? マジか!」
「マジじゃ。
せっかく便利なものがあるんじゃ、活用せんでは罰が当たるわぃ。
それに、わしらとしては、いつかアレを動かしてみたいというのもある」
そこには、ドワーフたちによって一度完全にバラされた後、また組み直された自動車があった。
ボディーに浮いていた錆は削り落とされ、防錆塗装が施されている。ぺったんこだったタイヤも無事なものに付け替えられている。完全なポンコツだったのに、今はずいぶんとシャキッとした雰囲気になっていた。
「なるほどなぁ。でも道は長いと思う。そもそも燃料がないんだぞ?」
「うむ、そうじゃ。道は長い。しかしその道は無限に長いわけではないし、
道をたどればちゃんと目的地まで行けるのじゃ」
ドワーフたちの信念の強さには驚かされる。
まぁ、確かにゼロから作るわけではないから、なんとかなる可能性はある。
参考資料もあるし、傷んでいるとはいえ現物もあるし。
「わかった。なるべく力を貸すから、頑張ってくれ」
「無論じゃ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
我が家に帰ると問題が勃発していた。
迷惑エルフのサラと女騎士ジャンヌがにらみ合っていたのだ。
原因は聞くまでもない。
「おいサラ。その服はお前のじゃないだろ?」
「えぇ!? 何のことかな。これは僕のだよ?」
「聞いてくれ、ブラド。
この女が私の大事な服を持ち逃げしようとしているんだ!」
俺はジャンヌをなだめる。
「うん、分かっている。その服は世界に一つしかないからな。
サラ、今のうちにその服を返すのなら、今回は見逃してやる」
サラは心底呆れた顔をしてため息をつく。
「ふぅぅぅぅ。ちょっと意味が分からないんだけど?
君たちは僕の服を奪おうというのかな?」
ジャンヌが真っ赤な顔をして怒鳴る。
「ふざけるな! それは私の服に決まっているだろう、いいから返せ!」
サラはにくたらしい顔をして、肩をすくめる。
「やれやれ、下等生物の言うことは意味が分からないな」
「サラ、またコイツを食らいたいのか?」
俺は右手の人差し指と中指で輪を作って、サラの前でグッと力を入れる。
サラは額を手で隠してうろたえながらも虚勢を張るのだった。
「な! 君たちは暴力で僕の物を奪うつもりなのか?
それは強盗というんだぞ!
知らないのか? 君らは原始人なのか?」
「いやいや、お前がその服を盗もうとしているのは明白なんだよ。
明白過ぎて、逆に指摘をする側が困惑するぐらいだ。
とにかく、これは最後の警告だ。黙って返すんだ」
「いや――うっ!」
この期に及んでまだごねるサラに、俺は無言でボディブローを叩きこんだ。
こちらに倒れ込んできたサラを、ガッチリと脇に抱えこみ、パンツごとズボンをずり下げて尻を丸出しにしてやる。
「きゃぁぁぁぁぁ! やめてぇ!」
わめくサラに構わず、俺は怒りのこもった音速の尻叩きをお見舞いしてやった。
「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
スパパパパパパパパパァァァァンと景気の良い衝撃音がホールに鳴り響いた。
サラは小便をもらしながら叫ぶ。
「変態がぁぁぁぁぁ!」
「その通り。
もういっちょ!
オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
白目を向いて伸びてしまったサラを、小便まみれになった床に放り出す。
サラは床の上で、いつか見せた無様なマングリ返しをまた披露した。
サラを睨んでいたジャンヌも、さすがに目をそらす。
しばらくしてヨロヨロと起き上がったサラは叫ぶ。
「このゴミムシ以下の糞野蛮人どもがぁ!」
「とっとと帰れ。まだ食らい足りないのか?」
「ヒィィィ……」
サラは真っ赤に腫れ上がった尻を丸出しのまま外へ走っていった。
「あいつにはこれぐらいしないとダメだ。悪さをしたら即お仕置きだ」
ジャンヌはちょっと困った顔をして言う。
「あっ、ありがとう。助かった」
「またやらかすと思うから、ドアには鍵を付けておかないとな」
「さすがにこれで懲りただろう?」
「あいつは懲りないだろうな。残念だけど……」
自転車を乗り逃げするサラの後ろ姿を見ながら俺は言った。




