23 ジャンヌの服
バンパイアの俺は、できれば夜型生活を送りたいところなのだが、周りに合わせて昼間に活動することも多い。日に当たっても別に死にはしないし、たいした影響はないのだが、やはり眩しいのが苦手だ。
最近は、日中にサングラスをすることが多いのだが、このサングラスをよくサラにパクられる。もう五つか六つくらいはパクられていると思う。ホームセンターやコンビニにあるような安いやつだが、それでもムカつく。
今日も出かけようとして机を探したら、いつの間にかなくなってた。
「くそぉ、またやられた……」
仕方がないので、そのまま外に出る。
「そろそろ服が出来てるだろう。一緒にドワーフのところに行かないか?」
そう言ってジャンヌを誘うと、彼女はぱぁっと笑顔になった。
「確かに! そういえばそうだった!」
ジャンヌはドワーフに、ワイバーン革の服と靴の製作を頼んでいた。
ワイバーン革の服は恐ろしく頑丈で、俺の戦闘服としても申し分ないものだった。
俺の服が本物のワイバーン革で作られていると知ったジャンヌは、ことあるごとに俺の服を触りにくる。
「はぁぁ、この革の服がいよいよ私のものになるんだな、なんという幸せ……」
そう言いながら、また俺の上着を撫でさすっている。
「でも、騎士の装備と引き換えなんだろ?
あれはあれで中々良い物だが、構わないのか?」
「確かに騎士の装備は、手放しがたいものではある。見栄えも良いしな。
しかしな、甲冑は着けるのが大変で重いし暑いし、実用上は微妙なのだ。
それに、鉄の甲冑はありふれているが、
ワイバーン革の服など、今まで見たことも聞いたこともないほど希少だ」
「なるほどな」
俺たちはリヤカーに届け物を満載して、ドワーフの鉱山に向かった。
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「うむ、服と靴じゃったな。出来ておるぞ」
ドルフは棚から色々と持って来た。
「なんか、これって俺の服とずいぶん違わないか?」
「おぉぉぉぉ! これが私のものに……」
服を抱えてジャンヌがワナワナと震えている。どれだけ嬉しいのか。
「まぁ、とりあえず着てみてくれ。
細かいサイズ直しがいるかもしれんしの」
「わかった!」
その場でいきなり服を脱ごうとするジャンヌを試着室に押し込む。
それにしても、いつのまに試着室など出来たのだろう……。
「ど、どうだ?」
試着室から出てきたジャンヌを見て俺は仰天した。
「なぁっ!?」
俺の服はライダース風で補強なども控えめなのだが、ジャンヌの服はもう服というよりも、革の鎧と呼んだ方がしっくりくるようなものだった。
華美すぎない質実剛健なデザインで、それが長身でキリッとしたジャンヌにはピッタリ合っていた。実に恰好良くきまっていたのだ。
「すごいな! 良く似合ってるよ。何というか、カッコイイな」
「おほっ、そっ、そうかぁ?」
ジャンヌの頬がゆるむ。
「これはオマケじゃ」
ドルフが革貼りの兜とグローブを持って来た。
もちろんこれもワイバーン革だろう。
「いいのか!? ありがとう」
さっそくジャンヌはそれも身につけた。
頭からつま先まで、総ワイバーン革の渋い暗赤色の戦闘装束は、なんともいえない凄みすら感じる。
「そうだなぁ……例えるなら、紅の竜騎士って感じだな」
俺はなんとなくそれっぽい単語を口に出した。
「なぁっ!? ブラドは世辞が上手いな、ハハハ」
ジャンヌは顔を真っ赤にして照れている。
「どうじゃ? サイズ直しの必要はありそうかの?」
「いや、驚くほどピッタリだ」
「そうじゃろうそうじゃろう、わしらの作るものに狂いはないのじゃ」
ドルフは自慢げに胸を張るのだった。
「あとは剣じゃったの。
わしらが鍛えた本物の剣じゃ。人間の作ったナマクラとは違うぞ」
ジャンヌがもらった剣は、俺のよりももう少しだけ長い。
「剣の長さは体格に合わせてある。
まぁ、お前さんなら二メートルの剣でも振れるじゃろうが、
やはり使い勝手を考えれば、体格に合ったものが良い」
「おぉぉぉぉ! これは、これは本当に良い物だ。ありがとう」
剣を受け取ったジャンヌは感激している。
「ドワーフの剣は見た目も良いけど、切れ味もなかなかだよな。
こないだゾンビ集団を倒したときも、サクサク首が落とせて助かったし」
「当たり前じゃ。ゾンビなぞ斬ったうちに入らんわぃ。ただの剣のサビじゃ。
わしらが鍛えた剣なんじゃ。ドラゴンをも倒せるはずじゃ……たぶんの」
「ふぅぅぅむ。確かにこの剣なら、あるいは……」
ジャンヌの鼻息が荒くなるのだった。
ドワーフが作ったワイバーン革の戦闘装束も剣も、ジャンヌが想像していた以上に良い物だったのは間違いない。帰り道では、いつにもまして上機嫌なのだった。
満面の笑顔でスキップする女騎士を見て、俺もいつの間にか笑顔になっていた。




