22 グリフォン
ある日の昼間、俺とジャンヌは庁舎の屋上にいた。
「これが太陽の光を受けて、それで電気とかいうものを作っているのか?」
ジャンヌが太陽光パネルを指さして、不思議そうな顔をする。
「詳しい原理は忘れたが、だいたいそんな感じだ」
「光になったり熱になったり冷やしたり、電気というのは便利なものだな」
「まぁな。
俺たちの文明は、電気がなければ成り立たないものだったんだ。
残念ながら、当時の人たちはどこかに消えて、文明は滅んだようだが」
「そうか……」
「ジャンヌたちの世界には電気はないかもしれないが、魔法とかあるんだろ?」
「確かにあるにはあるが、あまり一般的ではない。
ごく少数の異能者が使えるらしいが、私は見たことがないんだ」
「騎士はそれなりに地位が高いんだろ?
それでも見たことがないのか?」
「騎士など、それほど地位が高いわけじゃないぞ。
魔法に触れることができるのは、もっと高位の貴族か王族くらいだろう」
「魔法剣士とか、そういうのはいないのか」
「ハハハ、なんだそれは。ブラドは時々面白いことを言う。
魔法が使えるなら、わざわざ剣などに頼るはずがないだろう。
ところで、ワイバーンはここで迎え撃ったのか?」
「そうだ。あの時はホビットたちと弩の訓練をして、
矢を撃ち尽くして、一息ついたころだったな。時間はちょうど今頃だったか。
南の空に何かが見えて、それがワイバーンだって分かったんだ。
ほら、あそこに鳥が飛んでるだろ? ちょうどあの辺りだな」
そう言ってジャンヌの方を見ると、彼女はずいぶんと険しい顔をしていた。
「ブラド。あれは鳥なんかじゃないぞ。
もっと大きなものだ。近づいてくるぞ!」
「何ぃ!?」
俺は屋上の柵から身を乗り出して、下にいるホビットに向かって叫ぶ。
「おい、お前たち。空から妖魔が来る! 中に入ってくれ!」
下で遊んでいた子供たちがキャァキャァ言いながら中に入っていった。
大人のホビットたちが異変に気付き、すぐにバタバタと屋上に上がってきた。
「南から何か来る。迎撃の準備をしてくれ!」
「「「はい、領主様!」」」
「ブラド。私はどうする?」
ジャンヌは妖魔との戦いを目前にして、高揚しているようだ。
「弩は使えるか?」
「もちろん使えるぞ」
「よし! じゃあ、あの弩で迎え撃ってくれ。
俺はヤツメウナギでとどめを刺す」
「分かった!」
ジャンヌが弩の方へ駆け出す。
「領主様、あれはグリフォンです! グリフォンが三頭来ます!」
目の良いホビットが叫ぶ。
「分かった!
発射の準備は出来たか?」
「「「はい、領主様!」」」
「こちらも、準備完了だ!」
「よし! 矢が届く距離に来たら、各自の判断で撃ってくれ!」
それにしても、ワイバーンに続いてグリフォンとは。グリフォンなんてギリシャ神話の生き物だと思うが、もはや何でもありだな……。
ともかく、ワイバーン来襲の時と違い、今回は迎撃態勢が整っている。
俺は靴と上着を脱ぎ、五本あるヤツメウナギのうちの一本を手に取る。
しばらく見ていると確かにグリフォンらしいものが近づいてくる。
鷲の頭に、かぎ爪の付いた前足、獣の後ろ足、胴には大きな翼。
翼があるにしても、なんであんな形で飛べるのか不思議だ。
しかし、ワイバーンに比べると、ずいぶんとゆっくり飛ぶんだな。
ワイバーンのように一気に近づいてくることもなく、三頭のグリフォンは矢が届くかどうかの位置で停止した。大きさは軽自動車くらいだろうか。大きいことは大きいが、想像していたものよりは小さいと思った。
俺たちの緊張は最高潮だったが、そんなことはどこ吹く風、彼らはそこでホバリングしながらこちらをジッとうかがっている。まさかこちらの人数や武器などを確認しているのだろうか。カクカクと首をかしげる様子がちょっと可愛い。
グリフォンたちはお互いに何か会話をしていたようだったが、しばらくするとぐるりと方向を変えて、一気に南の空へ飛び去ってしまった。こちらに近づいて来たときとは違い、凄い速度であっという間に見えなくなった。
俺たちは全員どうしたものかと呆然としていたが、やはりこの場の責任者の俺が区切りを付けないといけない。
「グリフォンを撃退したぞ!」
ちょっと無理やりだが、撃退したことにした。
「「「おっ、おぉぉぉぉ!」」」
ホビットはやや戸惑いつつも、歓声をあげた。
「ブラド、あれは一体何だったのだ?」
ジャンヌはちょっと不満気だ。
「こちらのことを観察してる様子だったな。
弩があるのを確認して、攻撃をあきらめたのかもしれん」
「確かに、グリフォンは知能がかなり高いと聞いたことはあるが……」
ジャンヌの表情がさえない。
「なんだ、残念そうだな?」
「騎士としては、少し戦ってみたくはあった。
グリフォンと戦う機会など、一生に一度あるかどうかなんだ」
「なるほどなぁ。でも俺は何もない方がうれしい。
ホビットたちもそう思ってるさ。無事なのが一番だよ」
「それもそうか」
俺たちは顔を見合わせて笑った。




