20 女騎士とドワーフ
次の日の朝。
「そうだ、今日は一緒にドワーフの鉱山へ行こう。
ジャンヌはワイバーンのことをまだ疑ってるみたいだしな」
「そんなに簡単にドワーフに会えるのか?
あの連中は偏屈で、人には会いたがらないと聞くが」
「頑固で偏屈なのは確かだが、なかなか有能だぞ。
うちでは鍛冶仕事全般を引き受けてもらってるんだ。
ジャンヌも剣や甲冑をみてもらえばいい」
「わかった。私も会ってみたいとは思っていた」
ドワーフに頼まれていた本や安ウイスキーや、修理の必要な自転車などを積み込んだリヤカーを引いて、ジャンヌと一緒に鉱山へ向かう。
ジャンヌは今日は革の服に、剣を腰に下げただけの軽装だ。
「そこは遠いのか?」
「いや、昨日歩いたのと同じぐらいの距離だな」
「そうか、じゃあサファイア号はここに置いておこう」
サファイア号とはジャンヌの馬のことだ。
ホビットたちは馬の世話も家事同様に上手い。
俺にはさっぱりだが、ホビットたちにはサファイア号もすぐになついた。
馬小屋を駐車場のすみに建てようということで、ホビットたちは忙しそうだ。
「ちょっと出かけてくるよ」
「「「はい、領主様!」」」
「ホビットたちに聞いたんだが、ブラドはバンパイアなのか?」
「ああ、そうだよ。
元は普通の人間だったんだが、知らない間にバンパイアになっていた。
最初の異界震が関係していると思うが、はっきりはしないな。
心配しなくても、人は襲わないから」
俺はあえて歯をむき出して、人よりも長い犬歯を見せる。
「そっ、そうか……。
ブラドはホビットたちの恩人でもあるらしいな」
「あの連中がたまたまポチ達の縄張りに入ったんだ。
行くところがなくて困ってたんで、うちに住まわせたんだよ」
「では、私と同じだな」
ジャンヌはフッと笑う。
「それにしても、あの大きな狼たちはブラドに良くなついているな」
「まぁな。
最初はあいつらもただの野良で、俺の能力で従わせていたんだが、
そのうち俺をボスと認めてくれるようになったんだ。
今は家族みたいなもんだよ」
「なるほどな。
そういえば、エルフもたまに来るようだな。
ホビットたちはなぜか苦い顔をしていたが……」
「ジャンヌはエルフに会ったことあるか?」
「いや、ないな。
少なくとも私の周りでは、エルフに会ったという話は聞いたことがない。
いわば想像上の存在で、本当にいるとは思ってなかったな」
「じゃあ、会わないままの方が良いかも知れんぞ」
「そうなのか? 私は会ってみたいのだが」
「ハハハ、そのうち分かるよ」
俺は乾いた笑いで誤魔化した。
ドワーフの鉱山にやって来た。
「ふん、人間と会うのは久しぶりじゃの」
「ジャンヌだ。よろしく頼む。
ブラドに聞いたんだが、ここにはワイバーンの骨や皮があるとか」
「ぬ! お前さん、ブラドって名前だったのか?」
彼は俺を見て呆れたような顔をする。
「まぁ、聞かれなかったし。
俺のことは、お前さんでも領主でも、何でも良いよ」
「まったく、適当にも程があるのぉ。一応領主なんじゃろうが!
わしはドルフ。ここの代表のドルフ・ガンツじゃ、よろしくの。
それでワイバーンの骨と皮を見てどうするんじゃ?
先に言っとくが売り物ではないぞ」
「こないだ俺がワイバーンを倒しただろ?
それをなかなか信じてもらえなくてな、骨と皮を見せれば信じるかなって」
「そうだ。
ワイバーンを個人で倒すなど尋常ではない。
騎士団総出で、命がけでも倒せるかどうかというものなのだ」
「ふむ。疑うのはもっともじゃが、ブラドがワイバーンを倒したのは本当じゃ。
これがその時のワイバーンの骨じゃ。バラバラじゃが並べ直せば分かる」
ドルフが棚から大きな木箱を引っ張り出してきた。
木箱にはきれいに洗って乾かした骨が、整然と収まっている。
「な! 確かにこの頭骨はワイバーンのものだ。
それにしてもどうやって?
ワイバーンの皮は矢など通さないし、剣でも下手をすれば弾かれてしまう」
ジャンヌはワイバーンの頭蓋骨を持って、ワナワナと体を震わせている。
俺は長さ二メートルの、一見単管パイプにしか見えないものを指さした。
「これを使ってワイバーンを倒したんだ。
ドワーフ謹製、対大型妖魔用特殊筒形投擲槍、通称名ヤツメウナギだ」
「まさか!? そんなもの、人に投げられるわけがない!」
「だから言っただろ、俺は人じゃないんだよ」
「あっ! そっ、そうだったな。すまない」
「ブラドの怪力は常識外れなのじゃ。お前さんが信じられんのも無理もない。
わしもそれがワイバーンの口に刺さっているのを見るまでは信じられんかった」
「本当にブラド一人でワイバーンを倒したのか……。
疑ってすまなかった」
「もういいよ。
確かにウソみたいな話だしな。それに運が良かったのもあるし」
「ということは、その服も?」
ジャンヌは俺の上着を指さす。
「そうじゃ、ブラドの服も靴もわしらが作った。
ワイバーン革で縫製も特殊なものを使っておる。
下手な甲冑よりもはるかに丈夫で軽いのじゃ」
「ドッ、ドドドド、ドルフ殿!
私にも同じものを作ってはくれまいか。
この剣と、それから甲冑と兜と馬もやる。頼む!」
ジャンヌは土下座するほどの勢いでドルフに迫る。
「まてまて、落ち着くのじゃ。
どれ、剣を見せてくれ」
ジャンヌは腰から鞘ごと剣を外し、ドルフにおずおずと手渡す。
柄には宝石が埋め込んであり、手の込んだ装飾が施されている。
「それなりの品のはずだ」
ドルフは剣を鞘から抜いて、しげしげと刃を観察してから言った。
「ふむ……。
やはり人間の鍛冶仕事じゃの、鍛え方が足りんわぃ。
まぁ領主殿の客人ということもあるし、今回だけ特別じゃぞ?
この剣と甲冑と兜はもらう。馬はいらん。
代わりに、ワイバーン革の服と靴、それからわしらが鍛えた剣もやろう。
それでどうじゃ?」
ジャンヌはパッと笑顔になった。
「ありがたい! よろしく頼む」
よほどうれしかったのか、帰り道はずっと笑顔のままだった。




