18 女騎士
この厄介なエルフの名前はサラ・ラ・エルフィナ。
一応女ということは分かっている。実年齢は知らないが、精神年齢はかなり低い。
「この犬は僕のだから、家に持って帰るよ」
サラはポチに首輪をかけようとしていた。ポチはかなりデカいので、通常の犬用首輪などは入らない。専用に作らないといけないだろうが、サラはわざわざ合うものを用意してきたらしい。
「いやいやいや。
まず、犬じゃない。魔狼だから。
それからお前のじゃない。コイツは俺に仕えてるの!」
「いつから? 誰が決めたのかな?
僕たちは神に選ばれし至高の民族、森の民。
そもそも、この世界のものは全て僕たちのものなんだよ。
君たちは皆、僕のしもべ。
君の物は僕の物なのさ、分かるかい?」
最近分かったことだが、サラの言葉には精神を支配する効果があるらしいのだ。
魔狼たちや、ホビットたちも、いつの間にかサラの術中にはまり、操られている。俺は彼らに、サラの言うことは絶対に無視しろと強く命じてあるのだが、それでもダメなのだ。
しかし、そんなサラの言葉も、バンパイアの俺には全く効果がないのだった。
「分かるかボケェ! もういいから帰れ」
「下僕の分際で、その言葉は失礼だと思わないかい?
僕がいるって言ってるんだから、喜んで差し出すのが道理だろう?
さぁ、そこに土下座しながら、参りましたご主人様と言いたまえ」
「帰れ」
「あっ! 分かった。君はバンパイアだったね。
耳が腐っているから、僕の言葉がわからないんでしょ。
もしかして頭の中も腐ってるのかい?」
俺は努めて穏やかに、ゆっくりと言った。
「最後の警告だ。かえれ」
「じゃぁもう犬はいらないや。
あのおチビさんたちを何匹か連れて帰ろう」
俺は無言でボディブローを叩きこむ。
「うっ……」
こちらに倒れ込んできたサラを、うつぶせのまま脇に抱えこみ、パンツごとズボンをずり下げて尻を丸出しにしてやる。
「きゃぁぁぁぁぁ! 変態ぃぃぃ!」
わめくサラに構わず、音速の尻叩きをお見舞いしてやる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
スパパパパパパパパパァァァァンと景気の良い衝撃音が部屋に鳴り響いた。
サラは小便をもらしながら叫ぶ。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
「フンッ!」
伸びてしまったサラを小便まみれの床に放り出す。
サラは床の上で無様なマングリ返しを披露していたが、やがて立ち上がって叫ぶ。
「このゴミムシ以下の糞野蛮人がぁ!」
「帰れ。それともまだ足りないのか?」
サラは真っ赤に腫れ上がった尻を丸出しのまま、部屋から逃げ出して行った。
ガラガラガッシャーンっと自転車置き場から音がする。
「領主様ぁ」
困り顔のホビットの一人が駆け上がってきた。
サラが自転車をパクって帰って行ったらしい。
「まぁ、いつものことか……」
しばらく後のこと、一匹の魔狼がポチのもとにやって来た。
領地の北面を警戒している群の一匹だ。警戒網に何かが引っかかったらしい。
わざわざ伝えに来たということは、通常の妖魔ではない。
「仕方がない、ちょっと見に行くか」
俺はドワーフ謹製の戦闘服に着替えて、ロングソードを背負う。
身支度を整えた俺は、ポチ達を伴って現場へ走った。
魔狼たちの輪の中には、馬に乗ったピカピカの鎧を着た騎士が一人、剣を片手にもち、ゼイゼイと肩で息をしていた。
俺は魔狼たちを下がらせて、騎士に近づく。
「むこうの街で領主をしているものだが、お前は何者だ?」
騎士は俺の落ち着き払った様子を見て、しばらくビックリしていたようだが、やがて馬を降り、ヘルメットを脱いでから名乗った。
「私はジャンヌ・ド・ブイヨン。ブランク王国の騎士だ。
王都ガリアより伝令として、エルデの街に向かっている途中なのだ」
金髪碧眼の凛とした顔立ち、透明感のある白い肌のなかなかの美少女だった。
正直、あのサラなんかよりも、ずっとエルフのイメージに近い。
「ブイヨン卿、その王都ガリアはこの近くなんだろうか?」
「ここから馬で北に二日の距離だ。
ときに、ここはどこなのだろう?
峠道で妙な嵐にあい、それからどうやら迷ったらしいのだ」
なるほど、彼女も異界震に巻き込まれたくちか。
「ここは、ニホン国の街の一つだ。
いや、正確には街だったところだ」
「何!? ニホン国? 聞かぬ名だが……」
俺は異界震のことや、この世界のことなど、知っていることを話した。
「……にわかには信じられん」
「でも、ここに来るまでに、いろいろ見てるだろ?」
廃墟になっているとはいえ、彼女が全く知らない様式の家が建ち、大きなビルがそびえ、高速道路や鉄道もまだ形を残している。道端には自動車やバイクが放置されているし。彼女も内心は分かっていたんだと思う。
「つまり……。私は異界に迷い込んだということか?」




