16 腐れ縁
「「「ガッハッハッハッ!」」」
新しく出来た森のこと、ゾンビの襲撃のこと、森のエルフのこと。
一連の話を俺から聞いたドワーフたちは、十分近く笑い続けた。目に涙を浮かべてヒィヒィいいながら床に転がってるのまでいる。
「そこまで面白いかねぇ……」
「フハハハ、いやぁ、すまんすまん。
いかにもあのエルフらしいと思ってのぉ。昔からずっとあんな感じなんじゃよ。
わしらもずいぶん長い間連中とやり合ったが、あいつらは理解不能じゃ」
「報復に来たりしないかな?」
「ハハハ! デコピンはいい気味じゃったな。
まぁ、大丈夫じゃろ。
エルフは魔法がちょっとだけ使えるんじゃが、それは森の中だけじゃ。
森の外じゃと全くの能無しなんじゃよ」
「森に近づかなければいいってことか」
「そうじゃの。
何のかんのと因縁をつけてくるじゃろうが、無視しておれば良い」
「前の世界では、わしらの鉱山とあの森が接しておったからのぉ。
わしらも連中には難儀しておったのじゃ」
「そうじゃそうじゃ、わしらはやっと腐れ縁から解放されたということじゃな」
「お前さんにとっては苦労のはじまりじゃがの、ガハハハ!」
ドワーフたちは口々に好きなことを言って笑うのだった。
「……笑い事かよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「「「領主様ぁ……」」」
我が家に帰った俺が見たものは、悪夢のような光景。
缶詰やレトルト食品が食い散らかされ、辺り一面ゴミだらけ、壁一面落書きだらけになっていた。困り顔のホビットたちが懸命に掃除をしている。
「どうしたんだ?」
「領主様、森にいた奴が来ています」
ホビットが上の階を指さす。
「あのエルフか……」
俺は階段を駆け上がって、自室のドアを開ける。
「クゥゥゥン」
顔いっぱいに落書きされたポチが、部屋の隅で縮こまっている。
こないだのあいつが自信満面に俺の部屋でふんぞり返っていた。
「どうだい? 僕の恐ろしさが分かったでしょ?
このあいだのことを土下座して謝るんなら、許してあげなくもないよ」
「許すだと?
お前の方から仕掛けて来たんだろうが」
「僕たちが何をしようがそれは僕たちの自由なのさ。
問題は、君たちみたいなのが、僕に暴力を振るったことだよ」
「帰れ」
「嫌だね。土下座をして地面に頭をこすりつけて謝るまでは帰らない」
「もう一発、デコピンをお見舞いしてやろうか?」
奴が額を押さえて後ずさる。
「きっ、君は神をも恐れぬ野蛮人なのか?
僕たちは神に選ばれし至高の民なんだぞ!
僕たちに暴力をふるうということは、神を冒涜することなんだぞ!」
奴は地団駄を踏みながら、無茶苦茶なことを言う。
「お前たちの神様なんか知らん。いいから帰れ」
「下等生物はこれだから困るんだよね……。
いいかい、とにかく君たちは僕たちの下僕なんだよ。
だから無条件に僕たちを敬うべきなんだよ」
「ポチ、コイツを噛め!」
「クゥゥゥン……」
「無駄無駄無駄無駄ぁ!
僕たちはこの世界の全ての獣を使役できるんだぞ。
ゆえに、僕たちは究極にして至高の存在。世界は僕たちを中心に回っている。
僕に土下座をして許しを請い、それからおおいに敬えばいいのさ」
「うるせぇ、黙れ!!」
デコピンすると見せかけて、奴が額をかばった隙に、俺は奴の股間をコカーンと蹴り上げてやった。
「ありゃ?」
あるべきものがなく足に違和感を覚える。
「キャァァァァァ! 破廉恥にも程がある!
君は獣以下のゴミムシだ!」
「その通りだよ。分かったから帰れ」
内股になった奴が、まだギャァギャァとわめいているが、俺は完全に無視した。
そのうちわめき疲れたのか、奴はようやく帰って行った。
「まったく、なんなんだよ……」
俺はポチの顔に書かれた落書きを落としてやる。
「お前も災難だったな」
「クゥン」
結局あのエルフは、何だかんだ言いながら、しょっちゅう俺の家に来るようになった。散々飲み食いしたり、言いたい放題言ったり迷惑この上ないのだった。
ポチやホビットをいじめたり、落書きなどの後始末の面倒なイタズラについては、そのたびごとにキツイお仕置きをしてやるのだが、全くこりない。倫理観や価値観が根っこから違うので矯正しようがないのだった。
「なるほど、あのドワーフたちが弱るわけだ……」
俺はひとりため息をつくのだった。




