砂漠のオアシス 5
一緒に夕食を、と言われて案内されたのは、こじんまりとした部屋だった。中央にラグが敷かれていて、そこに料理の皿が配置されてある。そのラグの両脇に座席が用意されていて、私とエルさんが並んで着席。わかっていたけれど、床に直座りでお皿も床に配膳されてるのがここの流儀らしい。
私はカトラリーが種類が少なくてホッとした。地域によっては何種類もあるって聞いた事があったから…
「何か食べられない物とかってある?」
「いえ、特には。えっと…村では好き嫌い出来るほどの余裕もありませんでしたし、見たことの無い食べ物も多いので」
「そっか、無理しなくていいからね!」
「ありがとうございます」
他愛のない会話をしていると、領主代理様と侍従さんが入室して、私達の向かい側に着席した。
「待たせてすまない。楽にしてくれて構わないよ。ここはほんの身内だけだから。 改めて、ここの領主代理のユーグ・カルヴァンだ。23になった。で、隣が侍従のジル」
「ユーグ様の侍従、ジルだ。よろしく」
「そして、ジルの妹のエル。この二人は俺の乳兄妹にあたる。ジルは25でエルは俺と同い年だ。エルは元々俺付きの女官だったけど、しばらくは君についてもらう」
「サンゴちゃん、改めてよろしくね!」
「はい。海辺の村から来た、サンゴです。年は17です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。ジルさんはやっぱりエルさんに似てる。金髪に赤い瞳。二人の違いは髪形くらい。ジルさんは首後ろで髪を結んでて、エルさんは三つ編みにしてる。この二人が二歳も違うなんて思わなかった。
食前酒が運ばれてきた。琥珀色の少しトロリとしたお酒がグラスに注がれる。
「蜂蜜酒だよ。度数はそんなに高くない。さあ、乾杯しよう」
「何に乾杯します?」
「そうだな。……新しい客人に」
「乾杯!」
蜂蜜酒は甘くて美味しかった。滅多に口にしないアルコールに身体がほわほわしてくる。ついでに緊張もほぐれてきた。
目の前の皿に乗ってる肉厚の緑、ぱくりと口に入れるとじゅわーと汁が出てくる。上にかかってる胡椒がぴりっと辛い。白い魚の切り身は魚っぽいのに何か違う。海がないって言ってたから、湖魚か何かかな?とろりとしたタレが甘辛くて美味しい。「パンに挟んでも美味しいよ」と、差し出された平たいパンに魚とトマトを挟んで食べたら、これも美味しかった。もう、口が幸せすぎる。
「口に合ったみたいで良かった」
「この魚が好きです」
「あ、それヘビ」
「えっ?」
陸地のヘビ、初体験だった。でも本当に魚っぽくてクセもない。
「サンゴちゃんは豪胆だなぁ」
「そうですか?」
「うん、ヘビって聞いて吐く人もいるから」
「だって、ユーグ様もエルさんもジルさんも食べてるじゃないですか。現地の人が美味しく食べてる物ですし…」
「私達に『さん』付けは要らないし、もっとくだけて話して良いよ」
「え、だって私は年下ですし」
「ここは、私達だけだから大丈夫」
「ええっと、じゃあ…エル?」
「サンゴちゃん、かっわいい!!」
どーんと横から抱きしめられた。それを見て向かい側の二人が笑う。
なんかいいな、こういう雰囲気。
くだけて大丈夫ならずっと気になった事も聞いちゃおう。
「あの、ユーグ様の腕を見せてもらっても良い……?」
ゴツゴツした鉱石が生える左腕。
ユーグ様はきょとんとしてから、少し難しい顔になる。
あれ?ダメだったかな。
「怖くないのか?」
「怖くないから触ってみたい。だめ?」
「サンゴちゃん、マジで豪胆!!」
隣で笑い声が弾ける。大爆笑だ。
エルは涙を流してひいひい笑ってる。
「サンゴ、来い」
並べられた皿を簡単に寄せて、ユーグ様の正面に足を運ぶ。
伸ばされた左腕を目の前に膝をつけた。
腕から生える、長さ5センチくらいの棒状の赤い鉱石。「カーネリアン」だと教えてもらった。同じ鉱石なのに、よく見ると色がそれぞれ違う。オレンジっぽいモノから真紅まである。
鉱石の先は丸みを帯びているけど、鉱石ごとにその形が違うから多分研磨してる。
私の手が鉱石に触れた時、ユーグ様が息を呑んだのがわかった。