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変態の本懐とは舐められたら殺すである


デスロード編をプレイした時、みんなは思ったに違いない。宣伝でも「未だ体験したことない未知の領域」と謳ってたくせに大したことないな、と。

 

実際、インフィニティランカーたちからすれば、挙動が〝やや〟もっさりした程度の体感しかなく、重量系チューンドをしたハウンドアーマーをこよなく愛した大艦巨砲主義者たちにとったらいつもの機体挙動と変わらねーじゃんくらいの認識だったのだろう。

 

そして優しい優しい機体チュートリアルの意味で作られたミッション1を難なくクリアした俺たちは、何も警戒せずにミッション2に挑んだ。それが運営の罠とも知らずに。

 

そこからは単純である。阿鼻叫喚の地獄絵図だ。そして、宣伝で謳われたことに嘘はないと、俺たちはヒシヒシと痛感させられることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

「諸君!トリプルゼロの初陣である」

 

 

待って。

 

 

《ムラクモ少尉。君ならきっと大丈夫》

 

 

待って、待って。

 

 

「ではこれより、敵性地域への降下準備に入る!」

 

 

待てって言ってんだろ!?

 

ミッション1と全く同じ機体チュートリアルを終え、そのまま降りることもなくハウンドアーマー五機を楽々運べる汎用輸送機「テールフライヤー」に文字通り〝積載〟された俺は、今まさにハワイ諸島から北米大陸へと向かっている最中である。というか、すでにボルトが支配する地域の真上なのだ。

 

機体を降りたタイミングで、センセェトイレェ!って言って上手いこと逃げれねぇかなとか思ってたけど、まさか降りることすら許されないとは予想しておらんかったわ。

 

ちなみに、これはミッション2の冒頭シーンまんまである。それつまり地獄の入り口と同等ということでもある。

 

デスロード編はミッション2から地獄が始まる。とりあえず動かせるし何とかなるか、と思ったら大間違い。もっさりした挙動もさることながら、問題はスラスター上限が限りなく少ない点にある。ホバー移動できるよ!ただし100mくらいな!そこから?お前には立派な足があるだろうが。そう宣った開発者を大真面目にぶん殴りたくなる。

 

C型はたしかに耐久性も少なく攻撃力も低いが、奴らの強みは数と速度にある。いや、速度についても第三世代機ならスラスターで振り切れる程度……そう、第三世代でもスラスターを使わなければ振り切れないのだ。

 

なら、プロトタイプであるトリプルゼロは?歩きなんて絶望的に遅いぞ。そして頼りのスラスターは100mしか持たない。チャージには5秒程を要するため、その間にC型に囲まれたら文字通り嬲り殺されるのだ。

 

その結果、ミッション2から降下→囲まれる→死というスーパー初見殺しが待っているのだ。降下した瞬間、プレイヤーは皆宇宙を背負った猫のような表情になったとネットではトレンドに上がるほど。

 

ただ、クリアできないわけじゃない。降下と共に横へと移動しつつ、ライフルで堅実にC型を撃破してゆけばリズムが作れるので、そこからはスラスター管理と歩行andステップで何とか間合いを確保する戦法が可能なのだ……まぁ、それを発見するまでに多くのプレイヤーが地獄を見たわけだが。

 

そして、今まさにミッション2が始まろうとしている。逃げようにもテールフライヤーの格納デッキに機体が固定されているので逃げれません!動ける時はすでに敵の頭上です!

 

……神様ァッ!!

 

逃れられない死が目前に迫る中、俺の精神はやばいところまで来ていたのかもしれない。だが、余裕一つない俺に、隣り合うトリプルゼロのパイロットたちが声をかけてきた。

 

 

「よぉ!いよいよ実戦だな!」

 

「俺たちもようやく力を発揮できるってわけだ」

 

「ボルトの連中に一泡吹かせてやろうぜ!」

 

 

そう言葉をかけてくる同じ戦場に向かう者たち。ふと脳裏を掠める、〝存在しないはずの記憶〟。

 

この5機のトリプルゼロに選ばれたパイロットたち……彼らはエースパイロットと呼ばれる人員ではない。適正としては中の下。

 

扱いで言えば……捨て石に近い。

 

トリプルゼロが試作機と言っても、すでにノルマンディー反抗作戦に向けて百近い機体数のロールアウトが間近に迫っている。

 

本機の目的は戦場での実動テストとそれに伴う情報収集。具体的に言えば……どの程度で敵に撃破されるか、が試されているのだ。

 

これはデスロード編の序盤で企業間の会議で語られた事実であり、主人公とアーノルド少尉はこの捨て石のような実動テストでC型のボルトを撃破し、生き残ったパイロットなのだ。

 

他の3人は……降下してまもなく死亡することになる。

 

彼らはファミリーネームもないモブキャラだった。だが、台詞だけで垣間見れば……彼らは信じていたのだ。

 

自分達が選ばれた優秀なパイロットであるということを。

 

それに驕らず、傲慢にならず。

 

ただひたむきに新しく与えられた機体を乗りこなそうと努力をしている……どこにでもいる一般兵だ。

 

そんな彼らの最期は悲惨そのものだった。

 

蜘蛛型のC型になぶられ、痛めつけられ、コクピットを剥がされた上にズタズタに引き裂かれる。無線機越しに彼らの悲鳴と助けを呼ぶ声が響いたのをよく覚えている。その鬼気迫る声は、とてもじゃないが聞いていられるものじゃなかった。その音声がトラウマになってプレイを諦めた者も少なからずいるほどだ。

 

ミッション終了後に回収された遺体は……もう誰なのか、性別すらも判断できないほど酷い状態になっていた。

 

気のいい連中だった。

 

こうやって降下直前だというのに気を張らないように声を掛け合っている。

 

たしかに俺の記憶にはない。存在しない記憶だ。しかし、体は覚えている。魂が覚えている。コントローラーを握り、悲鳴を上げ、助けを乞う彼らに何もできず、ただ生き残るために機体を操ることしか出来なかったことも。

 

それは画面の向こう側で起こっていたことだ。だが、今は違う。

 

彼らは紛れもなく仲間であり、共に訓練を乗り越えた戦友だ。

 

俺の記憶になくても、体と魂は覚えている。だから、そんな彼らを見殺しにすることは……俺にはできなかった。

 

あえていう。

 

俺はボルトボックスの箱推しであると。

 

 

「降下!!!!」

 

 

デッキ下部が開き、軍曹の声と共に五機のトリプルゼロのロックが外され、ワイヤーウィンチで下へと降り始める。眼下にはこの地を侵略するボルトのC型がこちらに気づいている様子が見えた。

 

もう、逃げられない。

 

一人一人のパイロットの命が紙屑のように散ってゆくこの世界だ。

 

 

ならば……俺くらいは抗ってやろうじゃないか。ここまでくればもう関係ない。操作感は覚えているままだ。機体は画面の向こう側にいた時と同じように言うことを聞いてくれる。

 

ならば、あとはやるべきことをやるだけだ。

 

 

 

こんな過酷な世界に転生させたクソ神様よ。

 

変態と呼ばれた、インフィニティランカーの力を舐めるなよ……っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼と出会ったことが、私の運命を大きく変えました。トリプルゼロのテストパイロットに選ばれた彼は、初陣で既に他パイロットからかけ離れた技術を有していました。

 

第二世代が主体となった今になって言えることですが、あの機体はまさにブリキ。鈍重な動きしかできず、スラスターなんて100mも持たない性能だったんです。

 

しかし、その機体で彼はC型ボルトを圧倒した。これは誇張でも嘘でもないです。彼は紛れもなく敵を圧倒し、私たち四機を守りながら敵を倒し切ったのです。

 

あの時、彼がいなければ私を含め全員が戦死していたでしょう。ノルマンディー反抗作戦で英雄と呼ばれることもありませんでしたし、きっとこうやって生きていることもできていないはずです。

 

……当時の機体性能で、あれだけの動きができたのは彼一人だけだ。彼がいなければ、きっと世界はもっと酷いことになっていたに違いありません。

 

ノルマンディー反抗作戦後、私や仲間たちは機体を降りました。後悔はありません。我々は今主流のナノマシンに適合できなかったのですから。今の世代に乗るパイロットたちが主役なんですよ。

 

けれど、彼はまだ戦い続けている。

 

我々も彼こそが自分達のような役職に就けばと思うのですが……彼は頑固者ですから。そこが魅力でもありますけどね。

 

……ここだけの話、上層部は彼を危険視しています。ナノマシン適合がないパイロットが何故、あれほどの戦果を出すことができるのか、と。

 

我々も動いてはいて、罪を被せて軍法会議に出頭させる前にどうにか手を打つことが出来ました。もちろん、現場の部隊長たちからは反対されましたが……不名誉な理由で銃殺刑にさせるわけにはいきませんからね。

 

左遷先は南アタリア島。彼にとっては良い休暇になるでしょう。

 

……上層部のナノマシン推奨、そして近年頻発する出現方法が不明なボルトの襲撃。

 

何かが動き出そうとしています。だから、そうなった時に彼は必要になる。その時がくれば、再び彼はハウンドアーマーを駆って戦場に戻ってくる。

 

ダン・ムラクモ中尉。彼こそが……最強のランカーなのですから

 

 

 

・地球軍機密資料

アーノルド・ゼノン少佐による音声報告書より引用。

 

 

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