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転生ストーリーは突然に

西暦2350年。

 

その時の人類は歴史上類をみないほどに繁栄を極めていた。

 

人類が衛星軌道上に作り上げた「ハイパーリンク」と呼ばれる衛星軌道上エレベーターによって資源不足や食糧問題が減少。

 

エレベーターに備わる気象制御システムの加護のもと干魃や水害も減少し、長年人々を苦しめていた戦争や差別という負の側面は身を潜めるようになりつつあった。

 

地球という宇宙船を操縦できるようになった人類が次に目を向けたのは遥かなる宇宙だ。

 

「ハイパーリンク」こと軌道エレベーターは、いわゆる前哨基地。真の目的は「ハイパーゲート」と呼ばれるワームホール発生装置の開発だった。

 

静止衛星上でのハイパーリンクが安定稼働をして30年後。

 

ついに人類は地球と月の中間点に、遥かな宇宙へと足を踏み込むことが可能となる長距離移動装置、「ハイパーゲート」を完成させた。

 

その記念すべき初起動の日。

 

栄光を極めていた人類の歴史は大きく変貌した。

 

突如として暴走したハイパーゲートから現れた謎の勢力。複数の機械兵器が地球軌道に向かい、混乱する地球勢力に攻撃を開始したのだ。

 

ハイパーゲートを制御するテンタクルブリッジが破壊され、地球から差別という負を無くしたハイパーリンクも瞬く間のうちに崩壊。

 

地球への降下を開始した謎の勢力……後に【V.L.Tボルト】と呼称される敵は電撃的にユーラシア大陸への侵攻を開始した。

 

ボルトの兵器は前線での消耗を前提とした中型ドローンであるC型、長距離支援を目的としたB型、拠点制圧を目的としたA型、そして絶対的な力を有する特A型に分類され、凄まじい侵攻速度でユーラシアの覇権国家であった中国とロシアを瞬く間のうちに壊滅させた。

 

中東でも戦闘がいくつか発生はしたが、その殆どが戦いと呼べるものではなく、ボルトによる一方的な虐殺であった。

 

ユーラシアのほぼ大半を手中に収めたボルトはそのままヨーロッパ方面へと侵攻。

 

脅威を覚えた諸国で結成された軍事組織【地球軍】が防衛線を展開したが、ボルトに備わるエネルギー収束砲を防ぐ手立てがないことと、現行兵装では全く歯が立たないことにより大敗。

 

徐々に欧州も侵略され、島国であるイギリスを除く諸国の全てが焦土と化した。

 

しかし、ここで転機が訪れる。

 

人類側に新たな兵器が投入されたのだ。

 

〝奇跡的に撃破に成功した〟というボルトの残骸から得られたオーバーテクノロジー。それを用いて太平洋に存在する南アタリア島で開発された人型汎用兵器だ。

 

後に「ハウンドアーマー」と呼ばれる機体群を投入したことにより、戦況はわずかに好転した。

 

【ノルマンディー反攻作戦】。

 

約100機のプロト・ハウンドアーマー、HA-000〝トリプルゼロ〟が投入された作戦では、従来の武装では歯が立たない相手でも「近接戦闘による物理ダメージを与えれば対処可能である」ことを英雄が命と引き換えに証明した。

 

その後、ボルトの機体との格闘戦を想定したMMX(近距離戦エネルギー突撃刃)が開発されると同時に、第一世代型ハウンドアーマー、HA-08F〝リゴッティ〟がロールアウト。

 

続く第二世代、その後期型になると、複雑化していたコクピットモジュールの一新に加え、操縦レスポンス向上と機体制御の補助を目的としたナノマシンがパイロットに投与されるようになった。これにより、一気に機体性能が引き上げられることになる。

 

その後も機体革新が進められたが、機体自体の防御性能と生存性は向上しなかった。しかし、高い攻撃力と機動性を発揮するハウンドアーマーは多くの戦場に投入され、戦果は飛躍的に上昇。

 

それでも、人類は徐々に追い詰められていた。

 

戦線はヨーロッパを超え北大西洋、そして北米へと至る。地球軍の司令部は北米大陸を本拠地とし徹底した反攻を継続。

 

戦争は泥沼化し、北緯48度、西経40度を境界線に人類とボルトの戦いは膠着することになる。

 

そして、西暦2355年。

 

ついにボルトは地球軍完全壊滅のために、北米大陸各地に特A型を短距離テレポートさせ、電撃的な奇襲作戦を決行するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、ボルトボックスのストーリーモードにおけるプロローグである。

 

主人公たちは訓練生としてパプアニューギニア、ビスマルク海に面する「ニューブリテン基地」に配属され、過酷な訓練を乗り越えた後、第三世代ハウンドアーマーを駆って戦うことになるのだ。

 

そして、俺は今……ニューブリテン島から遠く離れた基地、ハワイ諸島に位置するカイルア・コナ海上基地にいた。

 

 

「パイロット共!さっさと準備をしろ!」

 

 

そして今からプロトタイプ・ハウンドアーマーであるHA-000こと「トリプルゼロ」に搭乗する流れになっていた。

 

why?なぜこんなことになっている?

 

自室のパソコンでボルトボックスをプレイし、モニターから発せられた眩い光に目が眩んだと思ったら、気がついたらこの基地の医療室だった。

 

ゲームでも何度かお世話になった医療室だったので見覚えがあるが、身に覚えのない状況に一人困惑してると、軍曹らしい軍人に「目が覚めたらさっさと着替えてこい」と更衣室に放り込まれ、パイロットスーツこと「バイタルスーツ」に強制的に着替えさせられて、そして格納庫である現地に至る。

 

いやなんで!?なに?何が起こってるの!?ここは……おそらくというか、確実にカイルア・コナ基地で、目の前に5機ほど陳座するのは間違いなくトリプルゼロなんだけど!!

 

状況が理解できない。何もかもの展開が早すぎて脳がついて行ってなかった。

 

搭乗!そう軍曹が叫ぶと並んだ5人のパイロットがバイタルスーツのヘルメットを被ってワイヤーウィンチに捕まった。そして何故か俺も体が勝手に動く。

 

いや、意思はあるけれど何十、何百と繰り返した自然な動作というか、軍曹の言葉で自然に体が反応してしまってる……という感覚であった。

 

体は覚えているのに脳がそれを拒絶してるというこの……。そのままワイヤーウィンチで引き上げられ、横筒状のコクピットに乗り込む。

 

モノコック構造のコクピットはトリプルゼロの特徴のひとつだ。ハウンドアーマーのプロトタイプであるトリプルゼロは、南アタリア基地で製作された機体を元に、アメリカ企業とヨーロッパ企業が協力して完成させた機体だ。

 

プロトタイプと謳いながらも、本機は第一世代に該当する機体であり、本当のプロトタイプは南アタリア基地で開発されたものだ。まぁあれは要素開発機であり戦闘には一切対応することができないわけで、それを元に開発されたトリプルゼロは武装可能な兵器となっている。

 

装備は50mmの試作ライフルとシールド、分子振動ブレードで、ずんぐりむっくりなボディと、トサカのような頭部。そこには六つのカメラセンサーが取り付けられているという独特なシルエットをしている。

 

機体性能としては短時間なら背部スラスターによるホバー移動も可能となっており、直立二足歩行型にしては軽やかな動きが可能だ。

 

だが……それは人類基準の兵器でいえばの話。

 

ボルトの有する兵器を相手にするならC型、B型までならある程度戦えるが、A型になるとかなり……というか、無理ゲーである。

 

なぜ、俺がそんなことを知っているかというと、この機体に乗ってゲームをプレイしたことがあるからだ。

 

トリプルゼロことプロトタイプ・ハウンドアーマーが登場するシナリオがボルトボックスの追加要素に存在する。

 

シナリオ名はボルトボックス・デスロード。

 

ネットでは「怒りのデスロード」とか、「インフィニティランカー御用達」とか、「愛すべきブリキ野郎」とか散々な言われ方をしているが、そのシナリオはプロローグで少し説明されていた【ノルマンディー反抗作戦】を描いたシナリオである。

 

そして、そのシナリオの主人公は、従来の武装では歯が立たないボルトの兵器でも「近接戦闘による物理ダメージを与えれば対処可能である」ことを命と引き換えに証明した……その英雄本人なのだ。

 

名前は明言されず、シナリオ中も名前を呼ばれなかった名無しであるが、彼が証明したことは後の世のハウンドアーマーに多大な影響を及ぼすことになる。

 

そして、カイルア・コア基地で5機のトリプルゼロが並ぶというシーンは、機体操作のチュートリアル……つまり、シナリオの序盤も序盤というシーンなのだ!!

 

おいおいおい、死んだわ俺。ふざける余裕があるくらいには冷静になれてきたわけだが、これは所謂……転生というもの、あるいは異世界へ迷い込んだというものなのだろうか?だとしたら神よ。貴方は私に死ねというのか。

 

このデスロードというシナリオは追加コンテンツなわけだが、難易度設定がハード、ハーデスト、インフィニティしかない玄人向けの追加シナリオなのである。トリプルゼロが導入された時代にナノマシンなんてものは存在しないので、操作感はインフィニティモードのそれであり、しかも機体は今まで操作していた第三世代のものから一気に後退した代物で。

 

つまり、すごく、もっさりしてるのだ。例えていうなら最新ゲーム機からレトロゲームに切り替わったみたいな感覚に近い。

 

操作法はインフィニティモードと大差はないが、機体反応速度が致命的に悪いのだ。そんな機体で初戦はC型と戦わされる。第三世代機では苦も無い相手だったが、トリプルゼロでは話が違う。蜘蛛型のC型と遭遇しようものなら引き撃ち(とにかく逃げて逃げて撃つ戦術)しか使えないほどなのだ。

 

もし、この世界が俺の予想通りボルトボックスの世界であり、このシナリオかデスロードだった場合、生き残れるイメージが全く湧かないんですよ。

 

てゆーか、デスロードは最終的に主人公もお亡くなりになるからな!?つまり神は俺に死ねと言ってる。じょ、冗談じゃないぞ。こんな理不尽なことがあってたまるか!俺は逃げるぞ!

 

と思いながらもコクピットに閉じ込められていたら何もできないので、俺はまんまデスロード編のチュートリアルをこなすことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

俺にとってのボルトボックスは箱推しなのだ。もちろん、好きなヒロインキャラはいるが、全体的にキャラクターの造形が深いため、結果的に俺はボルトボックスというコンテンツ全てを推せるという形に落ち着いた。

 

さて、今回のシナリオでも一押しのキャラを紹介するぜ!!

 

 

「ムラクモ少尉、さすがでしたね。貴方ほどトリプルゼロを動かせるパイロットはいませんでしたよ」

 

 

デスロードシナリオで屈指の相棒ポジションを獲得したアーノルド・ゼノン少尉でーす!愛称はアルだが、主人公は名無しで反応も悪い(ゲームシステム上無口になるのは仕方がなかった)ので、彼の名前を呼ぶことはなかった。

 

そんな彼はとにかく主人公を持ち上げ、褒めまくるキャラである。

 

今日のトリプルゼロのテスト運転でも彼は僚機として操縦方法の再確認(操作方法解説)をしてくれて、右へ左へステップ、屈む、スラスターベーンを展開するという一挙一動をするだけで、「こんなに早く動かす人なんて今までいなかった」とか、「君にはトリプルゼロを操るセンスがある」とか、「やはりパイロットとして一流だ」とか、とにかく褒めまくってくれる。

 

そして、アーノルド氏はトリプルゼロを用いた反抗作戦が始まってからは主人公の僚機として行動を共にしてくれるのだ。どんな窮地でも、どんな劣勢でも、彼は共に戦ってくれる。

 

しかし、最終局面でアーノルドは戦死するのだ。主人公をB型から庇い、コクピットを収束砲で貫かれる最期を迎える。彼の遺体は跡形もなく消え去り、その突然の死にプレイヤーは衝撃と戸惑い、そして最後の瞬間まで主人公を支え続けた相棒が消えたことで深い悲しみを味わうことになった。

 

彼の死……いや、デスロード編にはシナリオの分岐は存在せず、彼は必ず死ぬ運命にあり、そして主人公もA型との戦いで果てることを運命づけられているのだ。

 

救いたくても、助けたくても、逃げろとも言えず、彼が死ぬのを黙って見ていることしかできなかった。シナリオをプレイをした俺は、ふと……こう思った。

 

アーノルドが生きていれば、きっと主人公の未来も変わったのだろう、と。

 

 


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