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幸薄公女はスパダリ王太子とすれ違いながらも、幸せの階段を上る  作者: 水川 トオル
終章

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59/60

59 幸せな公女と見守る王太子


 特別会の次の日は特例措置により、授業は休講となった。しかし休める訳ではなく、ルイスとアリシアには王国中の記者が詰め寄り、号外記事を出すための取材を受けることになる。アリシアの名前や事情は、その記事によりジュラベルト王国中が知れ渡ることになるのだが、アリシアは浮かない顔をしていた。


 噂も記事も、どこか事実とかけ離れていることが多いのだ。しかしそれにどうこうケチを付ける暇はなく、次から次へと訪れる記者の対応に追われ、授業外の時間を慌ただしく過ごす。気付けばあの日から3日が経っていた。


 今時点でアリシアが知っている情報は、原性遺伝子を特別視する第二王子派の貴族たちは、手にした権利や名誉を失い爵位剥奪相当かそれ以上の処罰を下される予定だということ。


「アリシア様、また別の記事が……」

「ありがとう、シャシャ」


 どうせ誇張したような記事だろうと、アリシアは期待せずに見ていく。それには詳しい処罰内容は書いていなかったが、代替わりについて言及してある珍しい記事だった。


 生徒たちの活躍を知った記者は、頼もしい後継者が誕生したことも分かった当夜だったと書いている。時代の移ろいに合わせて、貴族もまた腐った部分を切り落としながら次の世代へと代替わりをしていくこと。その過程で浄化されなければこのような粛清が待ち受けていること。それらのことは、諸侯らの胸にしっかりと刻まれた夜であったと触れてあった。


 王国の未来が明るいと思わせるようなその記事に、アリシアは珍しく真剣に読み返す。


(あの出来事は王国史と法律を変えるきっかけになるわね。前例として新しく付け加えられる日も遠くない)


 自身が取り上げられ称えられる記事よりも、余ほど読み応えのある立派な記事だとアリシアは思った。





 取材も一段落した頃、アリシアはルイスと久し振りにゆっくりとした授業後を過ごすことができた。目的もなくただ薔薇庭園ガーデンのベンチに腰かけて、薔薇を眺めるだけの時間だったが、それが最高の贅沢に思えてくるのが不思議だ。


 隣に視線を移すと、ルイスが申し訳なさそうな顔をした。


「こんな時に何だが、少しいいだろうか」

「両親とヴィヴィのことですか?」

「ああ、メロディアス公爵夫妻とヴィヴィ嬢の処罰内容を一足先に教えることもできるが、貴女がそれを望むかどうか聞いておこうと思ってな」

「それは……」


 アリシアはふと噂を思い出した。正式な処罰が下される前から予想と妄想が入り混じった噂が広がっている。元公爵のローランドは、平民として辺境の地にある研究機関で馬車馬の如く働かされる予定だとか。縁談を断られてばかりの変態貴族がヴィヴィを使用人に欲しがっているとか。財力のある変態貴族とヴィヴィ結婚させて、リーサは返り咲こうとしているとか。


 その一方で、過激な噂もひそひそと囁かれている。国外追放だとか流罪だとか。


 そんな自由気ままな噂は、心地よくアリシアの耳に入る。


 だが、まるで他人事のようにアリシアはその噂を聞いていた。処罰内容が正式に出されたとしても、アリシアは自分からその記事を見ようとは思わない。誰かの主観で語られる噂には耳を澄ませるが、してもそのくらいだ。そのくらいアリシアにとっては優先順位の低いことなのだ。


 あの「特別会」でアリシアのやりたいことは全て終わってしまったのだから。


(両親に興味を持たれず期待もされなかったから、こんなにも他人事に感じるのかしら。それとも……)


 棘のある美しい薔薇を眺めながら、アリシアは意外なことを口にした。


「この件に関しては、私は敢えて真実を聞くことを望みません。身勝手な噂だけでお腹いっぱいですから」

「処罰内容を聞かなくてもいいのか?」

「はい、それに噂も捨てたものではありません。ルイス様が色々と裏で手を回してくださっていることだとは思いますが、私は噂だけで十分楽しめています」


 アリシアは紅玉眼をキラキラ輝かせて、話し始めた。


「ルイス様はこんな妄想をしたことがありますか?」

「妄想?」

「はい、たとえば変態老人貴族に娶られるヴィヴィの嫌がる姿。泣いて怒っていつものように我が儘を言うけれど、もうそんな権力も後ろ盾もない」

「ほぅ……」

「ですが、貴族に返り咲こうとしているお母様は、どうしてもヴィヴィに結婚をしてほしい。当然、大げんかになるでしょう。ヴィヴィはきっと耐え切れずに精神を病み、平民になんかなりたくないお母様も胃がキリキリと痛むでしょうね。お父様はアデルド叔父様を見ただけで、倒れそうですし」


 噂で聞いた話に主観と妄想を混ぜ、アリシアは楽しそうに話す。


「国外追放や流罪の妄想もありますが、どちらにしても過酷でしょう。死に一番近い刑ですから」

「なるほど……。想像力が豊かだな、アリシアは」

「想像の余地を残していた方が何ごとも面白いと思っただけです。ですが、本当のことを言うとあまり興味がないというのが本音でしょうか。ルイス様のおかげで、私はもう前しか見ていないですから」

「アリシアの意向は分かった」

「ありがとうございます」

「なら次は、何がしたい?」


 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、アリシアは一際眼を輝かせる。


「え、えっと……」


 指折り数えてやりたいことを思い浮かべるが、どれを一番最初にしようか迷うところだ。


「待て、言わなくても分かっている。まずはデートだな。一期生の時はずっと社交の真似事ばかりしていて二人の時間が取れなかったから」

「正解ですが、それだけでは足りないです。まず学院近くにできた人気のスイーツ屋に二人で行きたいですし、魔法産業についてルイス様と開拓したく思います。それから研究とピクニックと……」

「つまりアリシアのやりたいことは全部、二人ですることなのだな?」

「は……い」


 言いたいことをそう纏められると気恥ずかしいが、全く間違っていないので頷いた。


「なら今からそのスイーツ屋へ行こう、二人きりで」

「側近も付けずによろしいのですか?」

「撒けばいい。アレクとノイドなら地獄の果てまで付いてきそうだがな」

「ふふ、それはそれで楽しそうですね」


 アリシアは差し出されたルイスの手をそっと握り、ルイスと薔薇庭園ガーデンを出た。目指すは学院の外にあるスイーツ屋だ。


 敢えて庶民的なデートを選ぶ二人の発言を聞いた生徒たちは、今日も温かい眼差しで見守っている。好き勝手に想像してきた生徒たちは、相変わらず二人の考察に余念がない。「妄想と真実を……!」の信念で動向を見守っているのだ。


「はぅあ~、アリシア様推しです」

「ルイス様ったら何手先まで想像しているのかしら? きっとあのお顔は全てお見通しの時のお顔よ。アリシア様がご家族の処罰内容に興味が全くないことを見透かした上で、さも知らなかったような受け答えを……」

「アリシア様のために影で奔走するルイス様は、素敵ですわね」

「きっと将来はアリシア様の尻に敷かれるタイプですわっ」


 はぅあ~と両手で頬を押さえながら妄想に浸り、今日も二人を愛でる生徒たちは、最終的にはいつも一つの結論に到達する。


『今日もお二人は尊いわ~。お二人自身がハプニングのようなものですもの』


 そんなファンクラブは今日も平和だ。

本編はこれで終わりです。次回はおまけです。


最後にブクマ・感想・評価等してくださると嬉しいです。


余談ですが、今まであまり手を付けていなかった改稿や誤字直しをしています。完結してもちょこちょこ直していきます。

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