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幸薄公女はスパダリ王太子とすれ違いながらも、幸せの階段を上る  作者: 水川 トオル
第二章

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48/60

48 1年を締めくくる王立学院の舞踏会②


「ルイス様っ、は、恥ずかしくて……死にそうです。もう……や、やめぇっ……」

「やめない。また()()()をされたら困るからな。よしよし、いい子だ」

「ひぃ……もう、本っ当に、大丈夫ですから……!」

「貴女はまだまだ頑なだから……、もう少しほぐした方がいい」


 アリシアは今、ルイスに膝枕をしてもらいながら、大きな優しい手に優しく頭を撫でられている。その上、ルイスは頭上からくすぐったくなるような言葉をかけてくるのだ。しかも、囁くような甘い低音ボイスをいつもの五割増しで。


 この甘い拷問には、さすがのアリシアも半泣き状態だった。



(あっ……ぅもうっ、なんでこんな無駄に良い声を……)


 

 勘弁してと縋るような瞳でルイスを見ると、ルイスは満面の笑みを浮かべて「アリシアは頑張り屋さんだな」と言った。それはそれで嬉しくない――――訳ではないが、その後に続いたルイスの言葉が恥ずかし過ぎて、キャパオーバーなアリシアは脳内でそれを消去した。


 いかがわしい行為は一切していないのに、そう聞こえてしまうのが不思議だ。きっとルイスの囁くような低音ボイスがたまたま絶好調で、耐性のないアリシアが過度に反応してしまっただけかもしれないが。


(訓練中でも、こんな風にはならなかったのに……。意地悪だわ)


 甘い声で褒められただけで、アリシアの身体はこんなにも喜びの悲鳴を上げてしまう。幼少期から虐げられてきた反動とでもいうのだろうか。アリシアの精神はプラスの作用には弱いらしく、簡単に絆されてしまった。


 しかし、まだ公女としての矜持はある。最後の力を振り絞り、ぷいっとそっぽを向いて怒りを態度で示すと、ルイスは「魔法の暴走は、こうして鎮めるのが一番手っ取り早い」としれっと言い切った。



「それでもルイス様……やり過ぎです!」

「だが、こんなことは貴女以外にはしない。私はアリシアと打ち解けたいのだ。腹を割って、話すのだろう?」


 そんな悪魔の囁きで自身の行いを正当化しようとするのは、ずるい。だが一理あると、アリシアはルイスの顔を見た。


「分かりました。ですが、ここからは真面目にお願いします」

「いいだろう」


 商談のような口約束は、意外と簡単に結ばれる。

 アリシアは心を戒めるように姿勢を正すと、ルイスも表情を引き締めて、笑みを消した。


「……ルイス様の特訓のおかげで呪いの効力が弱まり、反対に私の魔力は日に日に増していきました。それでもまだ確信が持てずにいたのですが、少し前にとある仮説を立てて考えてみると、全てがしっくりきました。父の研究発表が……その……」

「間違っている、と?」

「はい、最初は疑心暗鬼でしたが……」

「さすがだな。その推理は当たっている」

「ではやはり……」

「ああ、メロディアス公爵には、原性遺伝子が優位な立場でいてほしい理由がある。真実を捻じ曲げてでもな」


 ――――理由。


 ルイスがそう言った時、アリシアにはその答えが分かった気がした。研究者ということもあるが、一番「魔法遺伝子」にこだわっていたのは、ローランドだったからだ。


 ローランドはことあるごとに3つの魔法遺伝子(原性遺伝子、中性遺伝子、零性遺伝子)を比べてアリシアを蔑んだが、その言葉はまるで自身にも言い聞かせているように思えたのだ。その姿はまるで、原性遺伝子持ちであることに劣等感を抱いているようにさえ見えた。


 今にして思えば、という程度の話だが。


「もしかしたら父は、原性遺伝子であることを誰より忌み嫌っていたのかも……」

「……アリシアは人を見る目があるな。まあそれは、証人が答えてくれるだろう」


 それからルイスは公爵家の思惑と今後の予定について簡単に説明したが、アリシアは家族の身勝手な行動の数々を受け入れられず、そこだけは拒否反応を示した。


 話が進むにつれ、今まで空白部分だった箇所がルイスの説明でさくさく埋まっていく。


 アリシアは胸がすく思いがして、気分がよかった。その作業はまるで、暴く価値のある謎解きのようだ。王国に背き、利権にしがみ付き、悪行を企てる者たちの行動や考えを追う行為は、理不尽を被ってきた者の権利だと再認識させられる。


「では、3日後の入学日の夜が決行日なのですね?」

「ああ、その前に用意しなくてはいけないことがあるが……。アリシア、この草を使うのはどうだろうか?」


 ルイスは席を立つと、執務机の上に置いてあった小さな箱を持ってくる。その箱を開くと、希少なオースソーワケ草が入っていた。


(……ずっと一緒にいたせいかしら、思考が似てきた気がするわ。昔は何を考えているか分からないと愚痴をこぼすこともあったのに……)

 

 アリシアは思わずふっと笑う。


「……奇遇ですね、ルイス様。私もこの草を丁度持っています」


 ほら、とポケットからオースソーワケ草を取り出すと、アリシアは上に掲げた。


「ルイス様なら色々と考えあぐねた結果、この草を使うと思いました。きっと何通りも仕返し案を考えたのだと思いますが、最後は私に合わせてくれるような気がして……」

「……貴女もだいぶ私のことを理解してきたな」

「ふふ、もしかしたら逆かもしれませんよ?」

「……ほぅ? それはつまり、私が貴女のことを理解するようになった、と? 言うようになったな……いや、違うか。貴女は初めて会った時から、言いたいことを臆せず言っていたな」


 言われてみればそんなこともあったと、アリシアたちは本題から逸れた話題で盛り上がった。


「さて、話を戻すが……。貴女の魔力は目覚め、いつでも呪いを解ける状態にあるが、呪いを解く前にやるべきことがある」

「はい、このオースソーワケ草を使うのですね」

「ああ……」


 アリシアはルイスからオースソーワケ草を受け取ると、自身のものと重ねた。


「この草が2枚あれば、量的には十分そうです」

「そうだな」

「では、この草に私の魔力を注ぎますね」


 アリシアはオースソーワケ草を胸元に優しく当てるように持つと、祈るように目を閉じた。すると、オースソーワケ草はアリシアの身体から溢れ出した紅い魔力をぐんぐん吸い込んでいく。

 

 これ以上、魔力が吸い込み切れないと言わんばかりに、緑色の草は真っ赤に染まった。



「ふぅ……」


 目を開けて草の色を確認すると上手くいったことが分かり、アリシアは安堵する。


「よくやった。あとはこれを前日に調理するだけだが、それは私がやろう」

「ありがとうございます」

「ああ。それはそうと、もういつでも貴女の呪いを解くことができるが……?」

「……ルイス様、それはもう少し待ってもらってもいいですか?」

「アリシア……!?」


 ずっと今まで、すぐにでも解いてしまいたいと思っていた呪い。しかし、アリシアはそれを先延ばしにしたいと提案した。

 

「呪いを解くのは、3日後の入学日の夜がいいです」

「……決行日か、分かった」

「ありがとうございます」


 アリシアの意図していることが分かったのか、ルイスはそれ以上聞かなかった。 




区切りが良い所でブックマークや広告下の評価をしていただけると嬉しいです。今後の執筆の励みになります(*ノωノ)


また、お気に入り登録すると今後新連載を始めた際にお知らせがいくので、ぜひどうぞ。

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