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幸薄公女はスパダリ王太子とすれ違いながらも、幸せの階段を上る  作者: 水川 トオル
第二章

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41 令嬢の思惑と言葉足らずな公女


 特訓する日数を重ねていくと同時に、勉強会や茶会、サロンを開く回数も増えていく。ある特定の分野に苦手意識を抱く令息令嬢を招き、一緒になって勉学に励み、またある時は、茶会やサロンで会話を楽しみ、アリシアは着々と人脈を広げていった。


 その隣にはいつもルイスがいて、その後ろにはグレイやレイチェルがいる。


 変化が目に見える形で表れたのは、ファウスト王立学院に通う一期生と二期生()()()()と、深い仲になった時だ。アリシアは1年も経たずして、学友を増やした。そのおかげで、今まで個別授業という形で受けていた授業が、皆と一緒に受けられるようになったのだ。

 

 しかも、彼らはハプニングが起ころうと、アリシアを責めたり、気味が悪いと罵ったりしなかった。むしろ、一緒にハプニングを起こしたくらいだ。アリシアのハプニングと、生徒たちの魔力コントロール不足による暴走は、今では笑い草である。


 打ち解けた理由は、努力家のアリシアとそれを支えるルイスの姿が、学院の生徒たちの琴線に触れたのだろう。それがファンを生み、羨望の的となった。


 これには少なからず、アリシアも喜んだ。婚約者として相応しいと言われたように感じたからだ。が、その影響は思いも寄らない所へも飛び火した。


 ルイスとアリシアに似た登場人物が出てくる恋愛小説が、流行ってしまったのだ。少し前までは令婚約破棄が流行り、誰も彼もが同じような小説を見ていたが、今ではルイスとアリシアがブームを起こしてしまう。


 特に、劣等感を抱く零性の生徒や取り柄がない中性の生徒は、根強い2人のファンとなった。


 そういう意味では、アリシアの作戦は上手くいったと言えるだろう。メロディアス公爵家の公女として水面下で旗を上げ、その下に着々と勢力を集めたのだから。




 そんなある日。


「アリシア様、ご機嫌よう。私は、伯爵令嬢のマリアと申します。今日の茶会に私も招待していただけないでしょうか? 私も皆様と交友を深めたいと思っておりますので……どうか……」

 

 マリアは、待ち合わせ場所に向かおうとしていたアリシアの背後から、声をかけてきた。


(……マリア?)


 聞いたことがない名前に首を傾げ、アリシアは警戒する。


 いつもアリシアの傍には、誰かしら人がいるのだ。たまたま不在の時に限って声をかけてくるのは、その下心が醜い者と相場が決まっている。


 現に、マリアは伯爵令嬢にもかかわらず、華美な装飾品に身を包んでいた。


(あの首飾りの宝石は、ヴィヴィが自慢していた宝石だわ。公爵家と王族を除いて、あの石が買える家門があったかしら……。まさか……!?)


 同じ宝石を付けているだけなのに、マリアの姿はヴィヴィを彷彿させる。

 アリシアの腕には鳥肌が立ち、早々に断ってしまいたかったが、結論には知恵を絞り出した。


「ルイス様の人望で、開く会の全てが、人気なのよ。これ以上増えるのは、会の趣旨にも反するから断ろうと思うのだけれど……」


 ふぅ、と溜め息を吐いて、アリシアはわざとらしく演技する。


「いいわ。今日の茶会に招待しましょう」


 意見をひっくり返すと、マリアの眼が露骨に輝いた。


「ありがとうございます。場所は、いつものところですね」

「ええ、よく知っているのね……。待っているわ」

「はい。それではまた後で……」


 好意のある顔など一つも見せずに、マリアは淡々と受け答えした。


 マリアと別れて暫くすると、2人の男性が近寄ってくる。彼らは、ローズを捕らえる時に現れたルイスの側近だ。大柄の男性が伯爵家の三男であるアレク・ルシカで、チャラそうな男性が伯爵家の長男、ノイド・イーサレイド。


 第一印象は取っ付きにくそうな感じの2人だったが、ルイスの前では忠犬のように可愛くなるらしい。この間の特訓時にそんな新情報を手に入れていて以来、アリシアは2人を見る目が変わった。


「アリシア様、彼女を招かない方がよろしいかと……」

「犬、だからかしら?」

「え、気付いていたんですか~? それならどうして……」


 忠告するアレクと、裏表がありそうな胡散臭い顔をするノイド。


 しかし、アリシアは満面の笑みを浮かべて、「そろそろ、私も密やかな反撃をするタイミングだと思ったからよ」と言った。

 

 アレクとノイドは、ぽかーんとした顔でアリシアを見たが、すぐにその顔を引き締める。アリシアのすぐ後ろからルイスが近付いていたからだ。


「……ル、ルイス様」


 アレクとノイドが頭を下げた。

 アリシアが振り向くと、ルイスはアリシアの前で立ち止まる。


「アリシア、今誰かと話していたようだが……」

「はい、マリア嬢から、今日の茶会に招待してほしいと言われました」

「……それで?」

「もちろん、承諾しました」


 ルイスは険しい顔をしながら側近の顔を見たが、アレクもノイドも気まずそうに首を振るばかり。その様子を見たルイスは、再び視線をアリシアに移した。


「マリア嬢は犬だ。しかも、貴女の妹やメロディアス公爵夫妻と繋がっている……」

「それなら、好都合です」

「そうか……」


 ルイスは驚く素振りは見せずに平然と答えたが、考えるような仕草をして黙ってしまった。


(このような提案をしたら、ルイス様に軽蔑されるかしら……。いいえ、考えている時間はないわ)


 小さな胸に覚悟を決めたアリシアは、あごを引いて真っ直ぐにルイスを見据える。


「ルイス様、お願いがあります。どうかこれから先は、私と距離を置いてください」


 ルイスにとってはトラウマ級の言葉だが、それでも顔色を変えなかったのは、何かを察していたのだろう。「分かった」とだけ、短い返事をした。


 アリシアはその承諾を聞いて礼を伝えると、作戦準備のためにそそくさとその場を後にする。その時のアリシアは、突如現れたマリアを罠に嵌めようと、ただただ時間に急かされていた。


 重大なミスにも気付かずに。

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