表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸薄公女はスパダリ王太子とすれ違いながらも、幸せの階段を上る  作者: 水川 トオル
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/60

23 攻めの王太子と守りの公女⑤

 

 ローズは絶妙な角度アングルで潤んだ瞳をルイスに向け、いじらしく水色の髪を指先で触っている。タイミングを見計らっているのか徐々に近付いて、会話に混ざってきた。気付けばローズはその身をルイスとアリシアの間に滑り込ませ、豊満な胸をルイスの腕に押し付けている。


 アリシアはローズと少し距離を置いて、座り直した。横目で見るルイスの表情は明らかに先ほどとは違い鋭く尖っているが、ローズは気にせずに話し続けている。


「ところでルイス様。ご相談した件ですが、どうでしたか?」

「……。ずっと一緒にいた私の判断ではアリシアは何も悪くない。魔法のコントロールがうまくできなくて、ハプニングはとめどなく起こるそうだが」


 2人の会話を聞いたアリシアは、ルイスが本当のことを言っていたことをその会話で初めて知った。一度は疑ってしまったことを恥ずかしく思いながらも、ことの成り行きをそっと見守る。


「そう……。でも本当にそうかしら……?」


 ローズはわざとらしくそう言い小首を曲げた。


(あっ……!)


 隣にいるローズが急に反対側を振り向いて、アリシアを睨む。ルイスには見えないように思い切り嫌悪感を露わにして、無言の圧をかけてきた。そのローズの苛立つ様子や態度の中にヴィヴィを見た気がしたアリシアは思わずたじろぎ、波風が立たない受け答えを選ぶ。


 これ以上、悩みの種を増やしたくない一心で初会話にも関わらず、親しみを込めて“ローズ”と呼ぶことにした。


「ごめんなさい、ローズ。貴女を巻き込んだ覚えはないけれど、私が知らないところで貴女に被害が及んでいたのなら……」

「きゃああ!」


 話の途中で突然、ローズが悲鳴を上げた。


(こ、今度は何――!?)


 何が何だか分からないアリシアには、ビクッと肩を揺らすのが精一杯だ。どうして一瞬のうちにローズの手の甲には薄っすら血が流れていて、その足元には血の付いた氷の槍が突き刺さっているのか、理解できない。今まで数々のハプニングに振り回されてきたアリシアだが、こんなことは初めてだった。


「アリシア様、あんまりですわ。私とルイス様の仲を羨んでこんな仕打ちをするなんて!」


 しかし、ローズのその言葉で事情をあらかた理解する。


(ああ、そういうこと……。彼女はきっとヴィヴィと同じ、そちら側の人間なのだわ)


 アリシアはスッと姿勢を正して、「誤解です。そんなこと私は……」としおらしく言った。


 証明することができない発言に何の意味もないことをアリシアは知っているが、そう言い返すしかなかった。自分の身は自分で守らなければいけない。


 ローズの足元にある氷の槍を見て沈黙を続けるルイスに、頼ることはしない。

 わざとらしく痛む振りをして、ほくそ笑むような顔を向けているローズに屈することも、絶対にしたくない。


 すくっと立ち上がるとそんな想いを空に向けて、アリシアは自身を守るための火魔法を放つ。このみ月で修得した唯一の魔法だ。降ってくる氷の槍に対抗して炎は氷を溶かしていくが、全ての氷を溶かすことはできなかった。


 目に見えて分かるほどに、アリシアの力が弱いのだ。


(……駄目、時間稼ぎにもならない。でもルイス様はもう魔力が……)


 空から降ってくる氷は憎らしいほど透き通っているが、ルイスの氷結魔法には遠く及ばない。ルイスの魔法はアリシアを傷付けることはないが、この魔法は明らかに違うと思った。


 ……こんなものが綺麗であるはずがない。


 弱々しく炎が消えた時、二度に渡る王城での出来事が走馬燈のように瞳に映る。走馬燈それの全てにルイスの姿があった。

 

 




(ああ、神様――)


 すべがなくなったアリシアは、祈るように手を組む。ぎゅっと目を瞑った瞬間、


「……永久の(エターナル・)別れ(ファレウェル)!」


 力強いルイスの声が響いた。


 おそるおそる目を開けると、目の前にルイスが立っている。唱えた魔法の属性は分からないが、ほとんど魔力が枯渇しているルイスが唱えられる魔法だったのかもしれない。それにしては、とびきり大きな魔法が放たれた痕跡がある。


 氷の槍を貫いているのだ。


 上空はそこだけ時間がゆっくり流れているかのように、砕かれた氷塊は粒子レベルの大きさとなってゆっくり空気中に散らばっていく。キラキラと雨のように降り注ぐそれを浴びながら、唖然と口を開いたままのローズを尻目に、アリシアはほっと胸を撫で下ろした。


「ありがとうございます、ルイス様。それにしてもいつ魔力は回復したのでしょう……?」

「差し迫った危機を前にすると底力が発揮されるらしい」

「そ、そういう、ものでしょうか?」

「ああ……」

「……ふふ、ルイス様が冗談を言う人だとは知りませんでした」


 真面目にすっ呆けるルイスの姿を見たアリシアは、何だか可笑しくて笑みを零した。


 ローズだけは口をひん曲げて、苦虫を嚙み潰したような顔をしている。


「……ない。有り得ないわっ! 魔法に限ってそんなこと……! 魔力は身体を休めなければ回復しない。どんなに優れた者でもそれは変わらない道理ことわりだと習ったわ」

「ああ、そうだ。そんなこと私もアリシアも分かっている。ローズ、魔力が枯渇しかかっている私がなぜ、魔力消費の激しい混沌カオス魔法を使えたと思う?」


 アリシアはルイスをまじまじと見た。最上級魔法である混沌カオス魔法の存在に目を見張った訳ではない。ルイスがローズとの問題を真剣に考えて、こうして対策を打っていたと気付いたからだ。


 もう半年前のルイスとは違うのだと、アリシアは認識を改めてじっくりと耳を傾けた。


「そ、それは……」

「予め準備をしていたからだ。魔力が枯渇しかかると同時に発動する、仕掛け魔法をな」

「仕掛け魔法……? ど、どうしてそんなことをする必要が……」

「それはお前がよく知っていると思うが……? 魔力が枯渇しかかるタイミングを狙い、私とアリシアに近付いただろう。なぁ、ローズ。私を騙せると思ったか?」

「……ひぃっ! び、吃驚させるようなことを仰らないで欲しいわ、ルイス様。証拠でもあるのかしら?」


 強気に出るローズと、彼女の急所を噛み付かんばかりの顔で睨んでいるルイス。


 その二人の激しい攻防戦を一歩離れた所でアリシアは見守っている。自身に火の粉が降りかからないようなるべく存在感を消して、最悪のタイミングでハプニングが起こらないことをひたすらに祈りながら。

 

 しかしルイスはそれを許してくれなかった。一点を見つめて黙っていたルイスが、急に視線をアリシアに移したのだ。


「……アリシア。貴女は魔法のコントロールが上手くできなくて、ハプニングに見舞われているんじゃない」

「……え?」


 瞬く間にアリシアの心は不安一色に染まった。


(嘘よ、嘘だと言って。まさかルイス様はローズとの問題だけでなく、私が抱えている呪いの問題まで対策をしているというの……? しかもこのタイミングで暴露するつもり……?)


 嫌な予感しかしない。


 ローズと一緒に()()()()()に言い負かされる未来が浮かぶ。


「――――ッ」


 暴かれたくないものを隠すように、アリシアはルイスから視線を背けて沈黙を決め込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ