表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

一匹目のもふもふ

 空から落ちた。


 バサッ。


 重い何かが木の上に落ちる。葉に支えられているから地面に落ちたわけではない。だから痛みは感じない。いや、眠っているから正確には痛くないのだ。起きたら痛みを伴うのかは分からない。


 木の葉が揺れる音がする。風の声が聞こえる。


 カサカサ。


 ピューピュー。


 そして、もう一つの音――それは鳴き声だ。


 うーうー

(姫様、起きて下さい、姫様。私、姫様が生きててくれないと生きてる意味ありません)


 ウサギは鳴かない。けれどもこの世界のウサギは鳴く。さっきから姫様を必死に起こしている。だが、姫様は起きない。泣きそうな目で。それは主が今にも死にそうで少しでも早く回復してほしいと思う従者のように。


 二時間くらい経っただろうか。


 パチッ。瞳が開く。


 うーうぅーっ!

(姫様、起きて下さいましたか。私、一安心でございます)


「ここはどこ? 私、どうして……」


 目覚めたら木の上。生い茂った緑がどこまでも続いている。虫もちらほらと飛んでいる。吹いた風が木の葉と、ピンク色のドレスを靡かせる。


「きゃっ!」


 虫に驚いたわけではない。姫様は高所恐怖症なのだ。


 ここで姫様の紹介をしよう。


 姫様――クリスティーナ・ローセルはリーゼ・ローセルとロビンソン・ローセルの娘で長女、そして令嬢だった。令嬢といってもそこら辺の単なるお嬢様ではなく、有名な名家ローセル家の侯爵令嬢だ。ローセル家は貿易、外国との交流を主に担っており、この帝国を牛耳っていた。クリスティーナは街を歩けば手を振られ、何不自由ない生活を皇室で送っていた。婚約者もいて、近いうちに結婚する予定だったのだが……今はこの話は控えておこう。とにかく、れっきとしたお嬢様なのだ。


 うー

(高い所が苦手でしたら、私にお乗り下さい。巨大化する事もできるのですよ)


 そう言ってウサギは大きくなった。木の高さより高くなって、横にも広がった。


「あなた、誰? 喋るウサギ?」


(しかもウサギの言葉、理解出来るんだけど。私、とうとう病気になっちゃった?)


 うーうー

(姫様にお仕えしているラビッシュと申します。メスです。森の中にいたので、拾ってしまいました。私は怪しい者ではないのでご安心下さい。ウサギが喋るなんて変ですよね。もふもふの一種なのでお気になさらず)


 この世界にはもふもふと呼ばれる癒物がいる。もふもふの姿は多種多様。基本は鳴き声を出すが、主にだけ言葉が伝わるようになっている。


「怪しさ満載でも怪しい者じゃないのね。分かったわ。これからよろしく」


 戸惑いながら、クリスティーナはラビッシュを受け入れた。


 巨大化したラビッシュの背中に乗った。もふもふしていて、ふわふわな感触だった。柔らかい生地の布のような、羽毛に包まれたような。


 ラビッシュからすとんと下りた。

 そこは森が広がっていた。木が連なる太陽が射し込むが薄暗い森。ここから表の世界に出るのは一人じゃ難しいだろう。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ