ツルペタ
ダバダバと滂沱に出る涙が止まらない、人前で泣いたことなんてないのに。
「くやひいはずかひい……」
「落ち着いてください、見た目が嫌なら変化しましょう」
でたよ、また変化ってそんなにお気楽にできるの?
「グスグス……」
どうせ夢なら見目麗しい姿がいい、世界観ファンタジーぽいし……エルフとか?
目を閉じてスマホで嵌ったゲームキャラを思い浮かべてみよう。
ロンゲで可愛くて手足が長いあのキャラ。
ジワジワと静電気が表皮を這うような、なにこれ生温かくてとても不快。
「……どう?」
「うわわわ……と、とりあえずこれを羽織ってください」
そんなに狼狽えなくても、失敗してブサイクなオークにでもなったのかな?
ローブを頭から被って水面を見てみる。
「ひゃーー!?やったね、あのキャラそっくりじゃん!活舌も良くなったし大成功だね!」
「キャラ?はぁ吃驚しました、まさかエルフとは」
長くてキラキラ光る銀髪がほんのり色づいてる、たぶんドラゴンの時の名残かな。
「この毛色好きよ、えへへぇ美少女♪」
「少女?」
青年が頭を傾いで「神獣様に雌雄はないですよ?」と言う。
んな馬鹿なあのキャラはボンキュボンの美少女なんだから、豊満なこの胸を……。
胸を……。
スカスカ
ペタペタ
つるつる
いくら探せど膨らみどころか飾りもない!
「ツルペタ……なんで!明晰夢の癖に私の妄想力働けよ!」
「神獣様のおっしゃることは不可解で良くわかりません。きっと私の修行不足ですね」
そいうことじゃないんだよ!青年よ!
「……ねぇアンタ名前は?わたしはモロヤマ・コトネだよ」
「え?はい、トマです。平民なので姓はありません」
うむ、まさにモブって名前だ。
「よろしい、モブ男くん。とりあえず山を下りましょ、街はあるんでしょ?」
「トマです、まず王都へ向かってそれから王城へ報告にいきましょう」
王都に城、うん鉄板ファンタジーね。ベタ過ぎて、わたしの想像力が貧困すぎてウケる。
「では一気に参ります、魔法陣にお入りください」
「へ?」
モブ男くんは平民ながら転移魔法が使えるので、騎士団や魔導士の遠征に駆り出されるという。
「さあ、行きますよ」
緑色の陣は二人を飲み込むようにキラキラ眩しく輝き、そして消え去った。