不便なので縮んでみた
状況は良くわからないが、取り合えず洞窟から出たいと言ったら。
出入口が狭すぎて無理だと言われた。
だったらなぜ激狭空間に召還したんだ?
『契約者になるはずだった王子に憑依予定でしたので……』
人間に憑りついて移動かなるほど。
ピクリとも動かないその「王子」とやらは土気色でデレンとしていた。
嫌な予感、死……いやバカな!
代わりに青年に憑くと言えば
『王族を差し置いて契約したら首を刎ねられます!死刑です!』と平伏す。
『なんとかなんない?』
『そ、そうですね、小さく変化できませんか?』
小さくって……、そんな「弁当温めますか?」のノリで聞かれても。
青年をじっと見つめ想像してみた。
体の中心で何かが弾けたような感覚の後に、エレベーターで急降下するような気持ち悪さが来た。
うえっっぷ。
吐き気と眩暈に襲われて蹲って耐えた。
「ううっ、ぎぼぢばどぅい……」
「おお、流石です。小さくなられましたね」
自分と目線が同じになった青年が心配そうに見つめる。うん、思ったより若い。
小さくなったせいか喋ることが出来た、だが活舌は非常に悪い。
見たところ異国人だが会話できるのは夢だからだろう。
出口に参りましょうと青年が促す。
自分の足がズズンズズンと重低音を奏でる、体積が変わっても重量は同じようだ。
夢のくせに細かい。
「……あど、ひとたでぃは良いのか?」倒れている人たちを目配せする。
「え?……あぁたぶん死んでます……」
なんで死んだとは怖くて聞けなかった、恐らく自分に関わりがある。
夢とはいえ殺生は良くない。
***
洞窟を抜けるとそこは雪国だった。
なんてことはない、人里は見当たらないので山奥なのだろう。
青年がとりあえず水場へ行こうと言うので着いて行く、なにしろ情報が全くないのだ、促されるまま歩くしかない。
「ここは浄化済なので美味しく飲めますよ」
青年はそう言って大きな葉をブチリ千切り、円錐形に丸めて水を掬う。
どうぞと言われ口元に持ってくる、どうやら飲ませてくれるらしい有難く飲んだ。
「んまぁひ!」
夢とは思えないほどリアルに冷たい、喉を通る水は体中を巡り潤す。
「凄いでしょう?疲労まで回復する御神水なんです。あ、と言ってもアナタ様の御力の賜物なのですが」
「へ?わらひのヒカラ?」
取り立てて変わった様子もない普通の泉にしか見えない。澄み切った水はコンコンと湧き出て下方へ流れている。
泉に近づいて手を洗おうとしたら自分の姿が水面の映った。
「ば、ばへもの!?」
赤紫の鱗に覆われた皮膚はボコボコとしていて、頭部には立派な角が2本。
両手は鍵爪、足も大きい鍵爪だ、背をみれば折りたたんだ蝙蝠のような羽とこれまたぶっとい尻尾が生えていた。
「どらほん……?」
「はい、神獣様はドラゴンでございますよ。具現化は千年ぶりなので戸惑ってますね?」
いやいや待って!待ってー!
千年ぶりって設定はともかくドラゴンて!
「ふ……えぇぇえ!いやらこんなすばた、キモイこわひ」
夢の中で化物になった私は一応女の子だよ!