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第2話 君の名は、僕の縄を

 これまでの粗筋(あらすじ)


 唯一自慢ができる立派な聖剣(イチモツ)を持つオレは、その聖剣を使わずじまいに童貞のままで死んでしまったが、真っ白空間に誘わた先に透明人間((あらわ)(あらわ)る)と出会い、異世界に転生してくれるというので純真(ピュア)(童貞だから純真と言いたい訳ではないよ。性格だよ。性格のことだよ)なオレは、まんまと乗せられて異世界に転生した――錆びた剣に。錆びた剣に(涙)。


 何を言っているのか、何が起きてしまったのか解らない。今でも解らない。もう諦めるしかないと洞窟の奥深くで錆びた剣としての一生を過ごそうと覚悟した時に、冒険者一行が(略)、邪神竜が(略)と、すったもんだがありまして、錆びた剣だったオレは死んでしまった男冒険者に憑依し、成り代わったのである。


 そして今、オレは縄でがんじがらめに縛られていた。


「なぜに!?」


 そして眼前には、先の冒険者一行(三人の女子たち)が警戒するように嫌疑(けんぎ)の眼差しを向けていた。

 目覚めた途端、三人が襲いかかってきて簀巻(すま)きにされたのだった。


(まさか、そういうプレイをご所望なのか!? よっしゃー、望むところだ!! 身体が屈しても、心は屈しないぞ!!)


 と、縛られながら覚悟(妄想)をしたが、期待した展開はなかった。


「貴方は、あの邪神竜とかいう魔物によって、胸を穿(うが)たれて間違いなく絶命していたはずなのに・・・蘇ったからね。アンデッドやゾンビな“魔物”に成り果てたかもしれないから、万が一に備えての処置よ。我慢しなさい」


 メガネを掛けてとんがり帽子を被った女子(格好から魔術師のような見た目)が、この状況(経緯)を説明してくれた。

 その女子の身体的特徴として耳が長く尖っていた。


(やっぱり、エルフ耳みたいだな)


「どう?」と片手剣を携えた女子(女剣士)が長耳女子に訊ねる。


「普通に全ての六大魔元素を体内から感じるから、命ある者ではあるわね。だけど、完全に死んでいた者が復活するなんて、何かしら異変なり変異があると思うけど・・・ん? なに?」


 じっとエルフ耳を凝視していたのに気付かれたのか、長耳女子が声をかけてきた。


「あ・・耳が尖っているから、本物のエルフなのかなって?」


「はぁ~。最初会った時に言ったよね。私はハーフエルフだ、と・・・!? ねえ、貴方。自分の名前を言いなさい」


「へっ?」


 名前というのは、成り代わった(憑依した)男冒険者の名前のことだろう。

 もちろん、この男冒険者の名前なんて知らない。初めて会った人の名前を知っている訳がない。


「えっと・・・」


 自分の名前をすぐに答えられない。

 これは怪しまれて当然だろうなと、全身から冷や汗が出てしまう。


「それじゃ、私たちの名前は?」


「それは・・・え~と・・・」


 先ほどの邪神竜との戦いで名前を呼び合っていなかったかなと思い返してみるが、そういった場面は記憶に無かった。


(適当に答えて、言い当てるなんて無理ゲーだろうな・・・。しかし、正直に答えてもいいものだろうか?)


 口をもごつかせるしかできない中、状況を察したのか見かねたのかね長耳(ハーフエルフ)の娘の口が開く。


「もしかして、自分のことも私たちのことも覚えてない訳なのかしら?」


 渡りに船な問いかけにオレは(うなず)いた。


「そ、そうなんだよ・・・。気付いたら、こんな風(縄で捕縛)になっているし、ここが何処なのかも、自分が誰か、君たちが何者かも解らないんだ・・・」


(嘘は言っていない)


「記憶喪失?」と女剣士がポツリと呟き、長耳女子が話し出す。


「そうかもね。貴方“レクル”は間違いなく、あの邪神竜によって殺された。けど、あの“剣”の“奇跡の力”かなにかの超常な力で蘇ったものの記憶は失ってしまった。というのが、一番納得できる(すじ)かしらね」


「剣?」


「それも覚えてない? ここで見つけた錆びた剣のこと。その剣を抜いたら、邪神竜とかいうすごい魔物が出現して、貴方は殺されたの」


「あ、いや・・・それは、なんとなく覚えているかな・・と」


(その錆びた剣がオレで、(はた)から見ていたからな)


「そう。まあ、なんだかんだあったけど、“ヘリサ”が邪神竜を追い払ってくれた後、錆びた剣が突如として光り出したと思ったら、剣が消失して、貴方が生き返った。ただの錆びた剣ではなく、神器(じんぎ)とも呼ばれる遺物(アーティファクト)だった云う訳ね。こんなことなら、ちゃんと鑑定をしとけば良かったわね。もしくは持ち帰って提出すれば、卒業試験は余裕で合格だったのに。あんたみたいな、ただのボンクラ冒険者を生き返させるために消失するなんて、人類の宝の消失よ。もう一度死ねば、あの剣が出現しないかしら」


 長耳女子は、そう言いながら縄で簀巻(すま)きされた無抵抗のオレの首を締めてくる。


(ちょっ、おま! ぐっ・・息が・・・でき・・・)


 細腕なのに、なかなかの腕力だ。(あらが)えない。


「“メーフル”、()めなさいよ。せっかく助かった命なんだし・・・」


 女剣士が首絞めを押し(とど)めてくれると、「冗談よ」と長耳女子は手を首から離してくれた。


(冗談じゃないほど力を入れて締めていましたよね。今? あー、息を吸えるって素晴らしいと感動するわ。本気(マジ)で!)


「さて、ここで長居するのもなんだし、さっさとこの洞窟から出しましょう。また、あんな魔物(邪神竜)が戻ってくるかも知れないし、レクルの記憶喪失とか邪神竜とかについては、脱出した後でどうするか考えましょう」


「そうね」


「はいにゃ!」


 女剣士と獣耳女子が返事をすると、三人は自分たちの荷物を持ち、その場を後にしようとする。

 簀巻きにしたままのオレを放置して。


「あ、あの・・・何か忘れていませんか? 縄・・・」


「ああ、そうね。貴方のことや私たちのことも忘却しているのだったわね。さっと自己紹介だけしときましょうか。私は“メーフル・ロップ”。さっきも言ったけど、ハーフエルフで魔術士よ。そして、このパーティ『パッチワークス(()()ぎ団)』のリーダーを務めているわね」


 長耳女子“メーフル”。

 慎ましやか胸をお持ち(スレンダー)で、三人の中では一番背が低いものの、見た目(メガネを掛けているというのもあるが)から賢そうな雰囲気を(かも)しだしていた。


「私の名前は“ヘリサ・ラングレー”。貴方と同様にメーフルに今回の冒険で雇われた冒険者よ」


 女剣士“ヘリサ”。

 軽装の鎧に片手剣を装備をしており、少し長めの髪をポニーテールでまとめて上げている。どことなく気品のある風格があり、整った顔つきに引き締まった身体から凛という言葉が似合う女性だ。

 見た目的に他の二人と比べて特徴的な部分はなく、(ただ)の人間だろうか。

 邪神竜との戦いではだけた胸の箇所は、ちゃんと布が巻かれていた。(チッ)


「そして“スコティ”だよ~」


 獣耳女子“スコティ”。

 頭上に猫のような獣耳をお尻のあたりからカギ尻尾を有しており、あどけない表情に、鋭い八重歯(犬歯)をチラッと覗かせるのがチャームポイントだろうか。

 動きやすく肌の露出が多い身軽な服装をしているが、その露出している部分から白い体毛が見えている。


(どこからどう見ても獣人ってやつだろうな)


「そして、貴方の名前は“レクル・ルイツ”って言ったかしら。あまり興味が無いから、あんまり素性について詮索していないけど、ただの都合の良い冒険者コンビニエントアドベンチャーラで、ヘリサと同じで今回の探索のために貴方を雇った訳よ。荷物持ちとして」


 と、メーフルが話しを締めてくれた。

 とりあえず、オレが憑依した(生き返らせた)人間の名前とパーティの関係性を把握できた。

 誰かと恋仲という訳ではもなく、それほど仲が良い訳ではなく、仕事上の付き合い程度だった訳か。


(最後にしれっと言い放った荷物持ちというのが気になるが・・・)


 しかしながら“冒険者”という言葉に心が(たぎ)ってしまう。


(やっぱり、オレも男の子だな)


 当のレクルには悪いが、前世の名前とか経歴は消去して、オレは“レクル・ルイツ”として、この異世界を生きていくしかないのだと腹をくくった。


(死んでしまったし別に良いよね。剣なんかより、やっぱり人の姿で転生してなんぼだよな。さて・・・)


「それじゃ、“縄”を・・・」


「だから、言ったでしょう。貴方の名はレクルだって」


 メーフルの頓珍漢(トンチンカン)な応答にヘリサが静やかに指摘する。


「メーフル、もしかして縄のことじゃない?」


「「「・・・」」」


 メーフルは簀巻きにされたままオレを見つめて、徐々に顔が赤面していく。


(もしかして、さっきの“縄”を“名は?”と聞き間違いでしょうか。いいえ、誰でも)


風刃シィクル・ウインド!」


 突如としてメーフルが高唱すると、オレの周囲に旋風(つむじかぜ)が発生し、その風は刃のように切りつけてくる。


「痛っ! うぎゃああッッーーー!!」


 縄とオレの身体も一緒くたに。


「ちょっと、メーフル!? だ、大丈夫、レクル?」


「大丈夫よ。かすり傷程度だし、(つば)でも付ければ治るわよ」


 ヘリサが心配してくれるものの、メーフルはそっぽを向いてオレから遠ざかっていく。


(もしかして、あのハーフエルフは意外とポンコツなのかもしれない・・・)


 何はともあれ多数の傷をつけられながらも、オレは久方(ひさかた)ぶりに自由を取り戻したのだった。


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