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モノローグなプロローグ

 気がついたら辺り一面真っ暗闇だった。


 目蓋(まぶた)を閉じたまま起きたと思ったが、そうではないようだ。


 暫くして暗闇に目が慣れてきたのか、周囲は岩肌に囲まれていると視認ができるようになった。

 湿った空気を感じ、どこからともなく水の(したたり)り音や爬虫類(はちゅうるい)のような生き物の鳴き声が聞こえてくる。


 どうやら、洞窟のような場所にいるのだと把握した。


(なぜに洞窟?)


 ここにずっと居座っても何も起きはしないので、周囲を探ろうとしたが身体どころか指すらピクリとも動かせなかった。


 それもそのはず、オレには手足が無かったからだ。


(うん? 手足が無い?)


 手足どころか、口も無かった。

 通りで、さっきからオレのコメントが“()”なのかと。


(え? 口が無ければ、どうしてオレは、こう考えたり思ったりすることが出来るんだ?)


 自分の姿が普通ではないと直感した時、ゆっくりと自分の姿を確認する。


 足元(?)は地面に突き刺さり、足(?)は茶褐色(ちゃかっしょくいろ)の錆びに(まみ)れた剣身(けんしん)

 頭(?)と思わしき場所は、剣の(つば)と柄。


 そうオレは――錆びた剣だった。


(なんでやねええええええええんんんんんんんんんんっっっッッッ!!!!???)


 想像を絶する姿に、オレの魂の絶叫は心の中で響き渡ったのであった。


 知らぬ()に“錆びた剣”になっている現実に絶望をしてはひどく戸惑っていたが、どうすることも出来ずに時間は経過して、幾分かは落ち着いてきた。


 今のオレは意思を持った錆びた剣だという非現実的な現実を受け入れ始めた時、ふと

思い出す。


 たしかオレは“前世”では“人間”だった。

 そうでなければ、こんな姿(錆びた剣)になっていることに違和感しかないのは当然だ。


 人間だったオレが、どうして“錆びた剣”に―――


(あ、なんか思い出してきた……そう、あれは……)



 ◇◆◇



 オレは童貞のまま死んでしまった。


 なんで死んだのかはイマイチ思い出せない。


 トラックに()かれたかもしれないし、足を滑らせて階段から転げ落ちて強く頭を打ったかもしれないし、流行病で亡くなったかもしれないし、腹上死……それは絶対無いな。

 なぜなら童貞のままで死んだのは確かなのだから。


(なんか虚しさに押し潰されそう・・・)


 童貞のまま死んだのが、よほど悔しかったのか、情けなかったのか、辛かったのか。


 自慢だが、オレのイチモツはそこそこに立派なものだった。まさしく逸物(いつぶつ)の宝刀。

 いや汚れなきイチモツだから“聖剣”と言った方が相応しいか。


 それを一度も抜かずに人生を幕を閉じるとは思っていなかった。


(いや、自家発電でヌイたことは多々はあるけど……)


 ご立派なイチモツでブイブイ言わせたかったが、ラストエリクサーのように使わず(じま)い。

 そんな激しい無念を残して死んだ為に呪縛霊や怨霊になってもおかしくなかったが、天に()されていると―――


 気がついたら真っ白空間に立ち尽くしていた。


 辺りを見回したが何も無い――天も地も、ただ真っ白な空間だけが広がっていた。


『おいでませ、(あわ)れな魂よ』


 突如、声がした方を向くと、さっきまで無かったはずの場所に“門”のような建築物が出現していた。

 そして、その門の前に“透明人間”のようでハッキリと姿を視認できないが、確かに何か人間(小学生三年生ぐらいの子供)のような存在が立っていた。


 呼びかけたのは、この透明人間みたいな“モノ”からだろうと察した。


『そう、(いぶか)しげなくても良いだろう。楽にしてくれ』


(そんな如何にもな見た目をしていて、訝しげない方が不自然だろう)


『はは、そだねー』


(あれ? 思っていたことが聞こえたのか?)


『君は精神体の存在だからね。考えたことや思ったことはボクに聞こえるから気をつけてね』


(気をつけてと言われても……)


『無理だよね。まあ赤裸々に語り合おうじゃないか、もう君は死んだ身。羞恥心なんてのは、もう無意味だろう』


(死んだ身……。やっぱり、オレは死んだのか?)


『そう。だから、ここに来た。死因を教えてあげようか?』


(いや別にいいです。なんで死んだかを知ったからといって、もうどうすることも出来ないんだろう?)


『そだねー。極稀(ごくまれ)に身体が仮死状態の時に魂がここに来てしまって、身体が蘇生して運良く(よみがえ)った例はあるが、残念ながら、君の身体はもう現世に無いよ』


(でしょうね……。ところでアナタは何者なんですか? 当然、ただの透明人間とかではないですよね?)


『そだねー。君たちが作り出した言葉で言うならば神様に近い存在なのかな。そして君を相応しい世界へ“転生”させてあげる、親切で優しいモノだよ』


 見た目からして只者ではないと推察しており、神様というのもあながち嘘ではないのだろう。

 その神様っぽい存在が発言した魅惑的なワードに心の琴線(きんせん)高鳴(たかな)った。


(転生!? つまりそれは、剣と魔法が存在している異世界転生というやつとか?)


『そういう異世界な転生を望むのであれば、叶えなくともないが……そんな剣と魔法な異世界に転生したいの?』


(そりゃー、物心がついた時から漫画とアニメとゲームとかで、そういうものに触れていたからな。そういう世界に生まれ変わったいと思うものだよ)


『そんな異世界とかじゃなくて、もっと科学技術が発展した未来な世界とか、星と星の宇宙を駆け巡る未知なる生命体が跋扈(ばっこ)している世界とかに興味とかは無いのかね?』


(んー、それはそれで心を(くすぐ)るけど、だったら剣と魔法の異世界の方が心がときめくもんです)


『さようか』


(さようです)


『まあ、良いさ。だったら、ちょうど良い世界があるよ。そこなら君に合っていると思うよ』


(あ、ちょっと待った。異世界に転生するとしたら、異世界で役に立つ何か特別でチート級な技能(スキル)能力(アビリティ)を授けてくれたりしないのか?)


『んーワガママな魂だな。でもまあ、解ったよ。君には元々立派なモノを持っているし、“それ”に相応しく活かせる能力を持ったモノに転生させようか』


(本当か!?)


『でもまあ、あんまり期待過ぎないようにね。期待過ぎると期待ハズレだった場合、絶望しかないからね。それじゃ行っておいで、君の新たなる世界へ!』


 透明人間な存在が“門”に手の平を向けて念じると、門の中心の空間から、白い渦…ホワイトホールが出現し、オレはそれに為す術もなく吸い込まれていった。


 吸い込まれていく最中(さなか)、透明人間の顔はのっぺらぼうだったが、口元がニヤリとしたように見えた気がした。

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