49話 大嘘
真っ青な空の下、浜辺でぼんやりと座り込む、千秋を見かけた。
隣に座り込み、しばらくの間、沈黙が流れる。
波のさざめき、陸から吹く真昼の暖かい風、子どもたちの喧騒、無関心に広がる海の沈黙。
俺は、楓から受け取ったノートを千秋に渡した。
彼女は、俺には読めない下手くそな泪の文字を読み、また一ページと捲っていく。
「あたしね、深見くんのこと、嫌い。大嫌い」
「あぁ、知ってる」
「だから、深見くんのことが好きな泪も、嫌いになれると思ったの」
「無理だよ。お前も、俺も」
泪はもういない。この丸い世界に隅っこがないように、どこを探したって会えやしない。
忘れない限り心の中で生き続けるなんて、そんな大人の建前も、言う気になれない。
ただ、落としていけないだけなんだ。どこまでも意味のない、狂った世界に反抗するには。
「……泪に、謝りたいの。酷いこと言って、ごめんねって」
彼女はまた、彼女なりの神様を抱えていた。対峙する罪に、赦しを請うていた。
その代わりの司祭に俺を選び、この海に囲まれた牢獄で、懺悔の儀式を行おうと。
「それも無理だ。俺もお前も、いつでも海に飛び込めるくらい、後悔し続けるんだ」
でも、それはスケープゴートなんだ。海の波間で揺れ動く異邦人を追放する、贖罪の儀式でしかない。赦されない。俺たちは、この境界線に立ったまま、これからを迎える。
誰だって、この境界を踏んづけている。上でも下でもなく、横に並んで。
「そっか、ダメ人間だもんね。異世界転生、出来ちゃうね」
「出来ないよ。俺たちは、生きるんだ」
これからを、生きるために。
「上手くいかなくても、本当にダメでも、誰にも認められずに負けても、永遠に生きるんだ。土砂降りの雨に打たれて、骨まで痛みが染みても、俺たちは死なないんだ。知ってたか?」
「……知らない。馬鹿。深見くんは、ばかだ」
「それくらい知ってるよ」
「なまいきだ」
「そうだな」
「ズルくて、卑怯で、姑息で、最低で、嘘吐きで、ゴミで、ダメ人間」
「……あぁ」
「…………ごめんね……酷いこと言って……ごめん……」
俺はただ、聞いていた。泣き頻る彼女の声を。
水平線の距離は約5キロメートル。子供の頃より一つ分、遠くまで広がっていた。




