STORIA 77
心が哀しみを背負い切れず嘆く度に、その先に存在する筈の自分の姿が見えなくなってしまう事があるんだ。
右京さんが言葉一つ残せないまま姿を消し去った事実に、僕は他人の死に同情する事ない意志を保ちながらも、声にならない悲痛な自身の叫びを感じ受けていた。
僕の未来にも彼女と同じ様な"死" が待っているんじゃないかって。
人生の半分も生きてはいない僕だけれど、何度もこれ以上ないという位の深い闇に浸ってしまうと、そこから抜け出せた自分を想像する事も不可能な気がして来る。
途中、どんな別の道を選んでいたとしても、結局は泥沼へと転がり着いて、僕の願いは絵空事へと消え失せるのだろう。
僕の胸の奥で鳴り続ける悲痛にも淋しい音は、他人が想う様な簡単な物なんかじゃない、決して。
嘆き続ける強い感情に何度でも僕は叫ぶ。
こんな風に頑に想い続ける心に僕自身引く事もない。
これ以上、満たされない想いや哀しみが自分独りじゃ抱え切れない程の膨大な物になったら、僕は躰も心も壊してしまわなければならないだろうから。
どんな壁を目にしても平気だなんて強がっていても、辛さに堪え切れずに心が迎える結果は、自分の心をコントロール出来ないという事なのだと想う。
人の感情ってそんなに頑丈な物じゃない、そう想うから。
だから僕は冷たく自分を責める暗闇に両足を捕えられる度に、その存在位置が僕の躰が行き着くきっと最期の場所なのだと心ごと恐れて止まないんだ。
今の現状を後戻りする事も、先を越える事も、僕には難しく想う。
想い詰めて傷みの重さの余り、他の見解が掴めなくなってその結果、自分自身を破壊する。
僕は本物の臆病者だから、況してや自分を守ってでも他の誰かを傷付ける事なんて想い浮かびやしない。
この躰が消える事の事実で周りに円滑を求め様とする位だ。
僕に出来る事は人に想いをぶつける事ではなく、せいぜい"物" を壊す事位だろう。
何か苦しく想い悩む度に自分の存在理由さえ分からなくなってただ、"死にたい" なんて簡単に哀しい感情を呼び寄せてしまえる程、辛さに触れた時、自分の心を解放する手段に死を考える事も不自然ではなくなって来ている様にも想う。
そして、これからもきっとこの侘しい想いは僕の中で驟いて行く筈だ。
けれど、だからこそ今しか出来ない事の意味を探していた。
あの日、蒼白く窶れた右京さんの体に正直、初めて"死" を怖い物だと感じた。
僕もいつかあなたの亡くなった年より遥かに早く、その様な淋しい現実を迎えるなら、描く事に強く執着し続けるこの指先で何かを残して置きたいんだ。
描いた物はこの意志に関係なく残り続けてくれる。
雨に叩かれ、色褪せても、僕の伝えたいとする想いを受け継いでくれる。
唯一の形を持つ存在物だから。
僕は想うんだ。
今、生きて表現出来る事の意味の深さを。
自分だけの限りなく狭い空間に生まれ出た、幾つかの言葉じゃ語り切れない程の傷みを時には恥ずかしくも想いながら、僕の心に確かに根付く想いを誰かが目にしたその瞬間にそっと掬い取ってくれればいいのに……、と絵に全ての感情を代弁させている。




