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プレゼンス  作者: 孔雀 凌
第四章/僕が存在する理由
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STORIA 61

独り、力なく街を彷徨う僕を"彼奴は淋しい人間だな" なんて想われているに違いない。

僕みたいな人間は満足な生活を送っている者からしてみれば、余分な存在その物で値打ちのない道具としか扱われないのだろうね。

だから僕は出来るだけ人気のない場所を求める。

それが逃げだと想われたとしても。

僕は自分自身を楽な方へ、楽な方へと追い遣る。

心だけでなく体ごと追い詰めていた。

心で想う分には新しい何かを探し求めたくて、家の扉を開いていた筈なのに。

何も見付けられない現実に、自分の選んだ行動が全て無意味な事にも想えて来る。

だけど、それも少し違う気がした。

母のそばで、あの密閉された空間に佇んで居るよりかは外の空気に触れている方が幾分か楽だったからだ。

そして雑踏を行き来する視線に怯えていても、僕の躰に仄かに触れる風や葉音に不快感を抱く事はないのだから。





感覚的な物もあるのだろうけれど直接肌に触れる風は、自分の部屋で窓の外から受ける物とはまるで違う。

そうだ、こんな時僕はいつも想う。

外の世界に触れる瞬間は、はっと目覚めた時の感覚と似ている。

開いた扉の先の空気にひんやりと心が熱を失っていく。

室内に身を潜めていた自分が何れ程、小さな事にこだわっていたのか想い知らされる様だった。

それはもう一人、冷静な僕が居て別の角度から自身を見つめている様な。

自分を自然と客観的に捕えていたんだ。

部屋で窓を開け放っている様な、小さな箱から空を眺めている時とはまた違う。

体ごと全ての空気を感じている。

今、こうしている間も。

自然から受ける影響力は大きいのだと改めて想った。

僕の辛さを底から掻き消してくれる訳じゃないけれど、止まっていた感覚時計が動き出し、僕の躰は世間の流れに追い付こうとする。

僅かだけれど、自分の心が外側へ向かって動き始め様としているのを確かに感じているんだ。

だけど結局はさっきみたいに周りから受ける視線によって、自身が悲観へと追い遣られる未来が待っているのだけれど。





空を見上げ、自分の感情に余裕の空白が微かに生まれる時は渦巻く様々の想いが一瞬、意味のない物に感じる事だってある。

君の悩みはその程度の物だったのか? と言われれば、僕は堪らなく胸が傷むけれど。

だけど違う。

辛さや哀しみが僅かな物だからとか、忘れてしまえる程の物だからじゃない。

こんなにも強く闇に包まれた心より、一回りも二回りも広大な包容力で一瞬の解放へと導いてくれるだけの力があるんだ、空には。

広い視野に塵の様な小さな心で抱える傷みや想いなんて、自分の存在も確かな物だろうかなんて感じる事もあるけれど。

そんな蟠りが自分にとっては何より辛くて、傷みが誰に分かる筈もないと咽び泣いてもいるのに。

大勢の人の渦に埋もれてしまいそうな小さな傷だからこそ、自分にとっては深刻な物とも言える。

僕の心の外壁をただ涼しく吹き抜けて行く空風には分からない。

僕も空になりたかった。

心ない物に。

季節折々の香りを運ぶ風へと。









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