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プレゼンス  作者: 孔雀 凌
第四章/僕が存在する理由
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STORIA 59

ここに居る事に慣れてしまえば室内に隠る事が当然の様になって、僕は本当の意味で多勢の輪の中に戻れなくなりそうな気がして身震いがする。

いつかまた画材に触れる事が出来たとしても、閉ざされたこんな狭い世界を目にしているだけなら、立ち直る方法も探せなくて二度と筆を取れなくなってしまいそうだから。

定まらない未来の行方に自分がどうあるべきなのかも分からなくて、ただ時を恨んでいる。

僕の歩んで来た道は意味のない物だと、こんな風になる事は最初から決まっていたのだと気付かされている気もした。

全てが僕を指弾するのなら、此方だって何かを必要とする心なんて簡単に捨ててもしまえる。

だけどそれは非道く哀しい事。

人にとって幸せとは何だろうね。

決められた時間を生きて行く為に好きでもない仕事に就き、他に流眄を浴びせられながらも堪え忍びつつするべき事を貫き通す事なのか。

それとも僕の様な人間は蔭に姿を潜め、自分のしたい事だけに手を伸ばしている事が好いのか。

僕にとって全てを断ち切ってでも、後者を選ぶ事が幸福の鍵となる気がしてならない。

だけど遅いかな……。

今の僕にはもう行き先が見えない。

本当はずっと遠い過去に僕の躰は音をなくして、優しささえ信じられずに何処に進めばいいのかも分からなくて戸惑うだけ。

静寂の中、息を潜めて僕は自分の心だけを頼りに行く先を探している。

人と関わる事を捨て孤独を選び抜く事に何の得分もないという事、分かっていても哀しみに埋もれてしまった僕は闇を越える扉を見付けられない。

もう少し、優しく時が流れていた過去に、或いはずっと手の届かない様な未来の先に生まれていたなら、きっと今以上に幸せで居られたのだろうかとそんな夢さえ描いている。

何れ程、他や母に謗り嘲笑われ、嫌悪だけを受け続ける自分自身に絶望しても他の誰にもなれやしない。

どうして僕以外の人達の表情は幸福な空気に包まれている様に見えるのだろう。

その真実の心が哀しみに覆われているのだとしても。




僕はもう辛さや哀しみからは縁を切る事が出来ないのだろうか。

それなら母の言葉通り、いっそあの場所で命を落とせば良かった。

全てに於て遣り切れなくて。

自分からこんな事を考え始めた時に限って運なのか不運なのか、事故に見舞われてもあんな風に不思議と助かったりする物なんだ。

人間ってそういう物だよね。

自分の不幸を願っても中々そういう場面には行き当たらない。

僕の中ではとっくに哀しいシナリオが出来上がっているとも言えるのに。

結局、僕は泥の様に汚くて生々しい感情を引き摺りながら歩いて行くんだろうね。

でも訪れない死という悪い展開に僕がここに居る事は意味のある物だから生きているのかな、とか何かを成し遂げる為に道は残されているのかも知れないなんて夢も見たくなる。

人だから、感情を持つ生き物だから哀しい道よりは幸せな現実の方が好いに決まっている。

だけど僕にはもう……。









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