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プレゼンス  作者: 孔雀 凌
第四章/僕が存在する理由
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STORIA 53

生きている間にしか抱く事の出来ない、そんな感情で頑なに願った。

幸福の鶴に…………。




幸せでありたい。

もう少し、進む事を怖れず、後ろは見ずに。

少しずつ愛しい物、優しい想い、僕にとっての小さな幸福を心に増やしていきたい。

そうして過去に縛られる事なく歩いて行けたなら。

自分の中にある気持ちがそう簡単に変わる物ではないだろうと知りつつもそれでも今、この時だけは生まれた微かな想いには正直でいたいと願う。

右京さん、あなたの想いは届かなかった。

その躰で何かを感じる事も幸福を夢見る事も、この先許されはしない。

だけど、僕には願う事が残されている。

ここで生きている限り。

あなたが病室から姿を消して八日。

そんな他人の死に僕は哀しむどころか自分の感情にばかり捕われている。

だけど許して下さい……。

僕はいつだって不器用で。

先の見えない心で一つ、人の優しさを手にしたいと強く願い掴み損じては哀しみに溺れ、手弄りでまた一つ幸福を夢見ては追い求める程に大切な物を失う始末。

だけど人独り、消え行く命の先に自分は未だ幸せを掴みたいのだと願う気持ちが生まれた。

右京さん、あなたは僕の未来を映し出す鏡だと想っていた。

僕があなたの様に命を落とさざるを得ない境遇に置かれたなら、やはりあの時と同様『時の赴くままに死を迎え入れて見せる』と言うだろう。

だけどほんの少しでいい。

何かを信じる心を取り戻してみたい。

僅かな希望をお姉さんがくれた様に。

強く冀求する必要なんかない。

僕はこの先、きっと何度も挫折を繰り返す。

苦しみの中に存在する幸福を探してみたいんだ、こんな時だからこそ。

暫くの時に心を緩めて。




僕の心は未だこんなに新しい何かを求め様としているのだから。

大切な物が何か気付きもせずに全てを諦めるなんて早過ぎる気がしていたんだ。

幸せになりたいのなら願う事位は出来る。

分かって欲しい人が居るなら伝えればいい。

その為に言葉は存在するのだと想う。

簡単な事なのに僕は何をこんなに怯えているのだろうね。

これ程、難しい事はないという位に。

だけど僕には未だ可能な事が残されているのだと想いたいんだ。

自分の想いを伝えたい人が居て相手に願いたい事がある。

それは今居る自分にしか出来ない事だ。

自分が変われば相手に何かを求める事も可能になるのだろうか……?

少しでも何かが変わって行くのだと信じてみたい、もう一度。

僕は自身の大半をきっとこの手で苦しめているんだ。

自分が勇気を出し、誰かに歩み寄る事で今より状況が良くなるどころか更に悪化し、そうしてまた一人、また一人と僕から離れて行くのだと想い込んでばかりいる。

悪い方にばかり進む事を怖れて、どうしても今一歩を踏み出せなかった。

それでも僕はあの赤い鶴が目に映る度に、心の奥底に眠る本心に気付かない振りはもう出来ないんだ。

ただ僕は溢れて来る感情で素直に願いたいだけ。

自分が必要とする人に、関わりを持って生きている人に自分の想いを一度は伝えてみたいと初めて強く想ったから。









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