STORIA 31
瞬く間に時は夜を迎え、僕に蘭の居ない最初の深夜が訪れる。
暗くてはっきりしない気の遠くなる様な迷路みたいな時間の中、僕は夢で君を探す。
淋しくて人恋しい想いが寂れた心に深い傷を残した。
そんな翌朝、最初のメールが届いた。
その着信音に僕は横たわっていた体を勢いよく起こし携帯に飛び付く。
蘭からだ。
"昨日の夕方にアメリカに到着しました。
ステイ先のファミリーも温かく迎えてくれています。
ホストマザーは日本語も巧みなんだよ。
環境にも恵まれているので、これから先、元気でやって行けそうです。
だから心配しないでね──蘭"
僕は彼女の様子に安心しながら即、返信メールを打った。
だけど僕が送ったメールを最後に蘭からの便りはプツリと途絶えた。
どうして連絡くれないんだ、蘭……。
何かあったのだろうか。
何の音沙汰もない現状にただ僕は嘆き明かす。
彼女との音信不通以来、僕は体の部品が壊れたみたいに何かが崩れ落ちていく気がしていた。
し……ん、と閑かな部屋で空が動きを止める。
何をしていても落ち着かなくて彼女の事ばかりを想い浮かべている。
無造作に床に散らばるCDやゲームソフトの数々。
どれも途中で手放した物だ。
他の事に目を向ける余裕を自身に与えてやろうと手にしていた事に飽きては放り出し、別の物を掴み疲れては再び投げ出す。
蘭がそばに居ない事がこんなにも心に応えている。
なら一人で海外に向かった彼女はどんなにか心細い事だろう。
蘭がどんな目的でアメリカへ発ったのか、彼女の事情は他の誰より僕が分かっている筈だった。
僕は彼女を励まし支えてやる位の男で居なければならない筈なのに。
きっと彼女なりに忙しいに違いない。
僕は少しでも蘭の力にと、せめてもの気持ちにと励ましのメールを送り続けた。
併し三日が過ぎ一週間、一ヶ月と幾ら時間が経っても彼女の方から連絡が来る事はもうなかった。
僕の心は日に日に色褪せていく……。
高校を卒業した僕は特に定職に就く事もなく、以前から続けていたコンビニのバイトに加え新しく仕事を始めていた。
工場での職場を退社した後、一見楽な生活が戻って来たかの様にも感じられたけれど現実はそうもいかない。
卒業後、フリーで居る事は母の不機嫌さも更に悪化させてしまっていた。
彼女は僕に不満をあからさまにぶつけて来る。
そんな時、僕にはもう向かう場所がない。
飛行場近くのあの家に蘭は居ないのだから。
独り自宅から離れ何処か知らぬ場所で過ごす方法しか逃げ場がなかった。
仕事以外、絵を描く事で時間を潰す、そんな日々の繰り返しだったんだ。
何の変化もなく時は流れて行く。
蘭、君の声が途絶えてから早くも半年が経つ。
僕は弱いね。
君の事を、その愛らしく純粋な心を疑おうとさえしているのだから。
淋しくて遣り切れない、こんな想いを誰が分かってくれるというのだろうか。
蘭、君もだ。




