STORIA 23
僕が本気で悩みを打ち明けても何処か簡単に聞き流してしまうんだ、彼は。
こんな時だって音羽、君は多分……。
「音羽は駄目だぞ。俺達の係に入る事が決まっているんだから」
即座に蘭の言葉を耳にしていた隣のグループが僕達に釘を刺す様に言う。
見るとその中央に済まなさそうに肩を竦め無音で口を動かす音羽の姿があった。
「『ごめんな』……? 何だよ、最初からこっちに来る気なんて元々なかったんだろ、どうせ」
彼の意思をそう解釈し僕は届かぬ様に不貞腐れた声で呟いた。
「音羽がさ、特に佐倉みたいな暗い奴と一緒に組むのは嫌だって俺達の処を選んでくれたんだ」
止む事なく嫌味を吐く生徒の中で僕の親友擬きは慌てた様子で『違うんだ』と掌を左右に振っている。
「蘭ちゃんもそんな奴放って置いてこっちおいでよ」
「冗談じゃない。蘭は僕と……、行こう蘭」
彼女までも引き離されては困ると蘭の手を引く。
だけど新しい影がすぐに僕達の行き先を阻んだ。
「蘭ちゃん、良かったら演劇の音響係に加わってみない? 好きでしょ、音楽」 「ごめんね、私もう照明と装飾の係を担当する事が決まっているの」
「そう……、残念。照明は誰と組むの?」
「女子ばかりが四人と後、彼にも入って貰うつもり」
蘭はそう言って僕に手を差し出した。
「え……、佐倉君もメンバーに添えるの? 止めた方がいいんじゃない」
「どうして?」
「どうしてって……、ねぇ?」
音響係の女子達は仲間内で顔を見合わせている
もっとテキパキ作業出来る人を誘った方がいいんじゃないかと想って」
「そんな言い方って……。とにかく私は冬と組むから」
蘭は哀しそうな表情を浮かべて見せた。
「蘭ちゃんがそう言うなら……」
彼女達は蘭を誘い入れる事を渋々諦め、場を後にした。
「冬、ごめんね?」
「蘭が謝る事なんてないよ。あんなの別に気にしていないし……」
実際、気にならないと言えば嘘だった。
蘭は学校内でも、こんな場面を除いてはとても人当たりが良く行事や催し物の際には必ず周りから誘い込まれる人物だった。
引き替え僕はグループ活動の指示が出される度に浮き彫りになる。
心が正直に嘆く事を許されているのであれば、職場でも当然の様に爪弾きを受けている僕が何故ここでも同世代から冷たく扱われなければいけないのかと想う。
哀しみ以上に悔しくて堪らない。
想い知らされる校内での孤独という立場。
僕の何がいけなかったというのか。
考える詰める以前に淋しさで胸が溢れて来てしまう。
僕の事を親友だと呼ぶ音羽との関係も所詮"名" ばかりの物だった。
彼はクラスメイトから御誘いが掛かると僕の事なんか見向きもせずに余所のグループへと潜り込んでしまうのだから。
それは誘いを断つと自分の立場が悪くなってしまうという事なのだろう。
音羽は級友に一目置く事はあっても僕には決して恐れを抱かない。
それだけ彼は僕という存在を軽視していたんだ。




