STORIA 15
その一言は僕の六気を瞬く間に震え上がらせる。
彼女の視線が"清ました顔で座っているんじゃないわよ"、と僕を睨み据えている。
深い眠りから叩き起こされたかの様だった。
試されていた、そう想った。
「部長や課長には報告したからね。あんたのその仕事振り。今まで黙っていたけど、リーダーはああ見えてもあんたの事、自分より上の者には何も言ってなかったのよ。きっと心の内だけで相当怺えていたんでしょうね。私達もあんたの不器用な仕事の熟しに目を配っては苛立って、これでも我慢して来た方だけど、あんたと一緒のラインに入った人間も働き辛くて限界を感じてるって言ってた。出来るなら私達からリーダーの間にだけで留めて置こうと想ったけど、でもそれももう無理だったわ」
優しい言葉を掛けながらその実、裏では僕が使える人物かどうか確りと物指しで図られている。
「だから部長から伝言を預かってきたよ。佐倉君、もうこのG班に居なくていいわ。向かいの建物のSI班に移動してくれる? これは部長が決めた事なの。向こうの班で使う部品のシャフトが山程あるの。それを雑巾で乾拭きして欲しいのよ。但し数が半端じゃないけどね。ラインと違って焦らなくていいから、あんたにも余裕で出来る作業でしょ」
彼女が話している内容はいわゆる単純作業の事だった。
そばに居る他の従業員と目を合わせ僅かに皮肉な笑みを浮かべ彼女は僕を見降ろしていた。
「ま、あんたの頑張り次第でこの班に戻って来れるかも知れないし、ずっと向こうの班で繰り返し雑用をする事になるかも知れないけど、その作業さえ間に合わない様なら場合によっては辞めて貰う……なんて事にもね。ま、決めるのは私じゃないし?部長だけどさ」
場所を移動か……。
しかも格下げだ。
この時期、各班では次々に移動を伝えられている社員が目立つ。
だけどそれは僕の様な格下げではなく自分の得意分野、または任せても安心という各々の担当の場所へと移って行った。
認めてくれただなんて大きく構えていた自分が急に恥ずかしくもなる。
職場で移動に対する承諾を求められても小心者の僕には『はい』と承知尽く事しか出来ない。
でも気が強くてプライドの高い彼女が待っていたのは僕のこんな態度ではなかった。
「何か言ったらどうなの?」
何も出来ず、ただ俯いて椅子に座る僕に彼女はさっきより数倍上げた声のトーンで僕を責めた。
彼女の高ぶる声色にどうしたという顔で現場を離れた作業員が押し寄せ姿を現す。
多数の視線に僕はもう自分がどうしたいのか考えている余裕もなくて押される迫力に尽きて想わぬ言葉が零れ落ちた。
「じゃあ辞めます。これ以上迷惑懸けたくないので」
「それが迷惑な話だって言うのよ。もっと頑張ろうとか想えばいいだけの事じゃない。私達だって努力している人を受け容れない訳じゃない。でも努力していても結果に繋げなきゃ意味がないのよ。分かる? 欲しいのは即戦力なの」
彼女は不機嫌さを露骨に顕にし、何かが爆発したかの様に刺々しく言葉を吐き翻す。




