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夢オチだったとしても……  作者: いたあめ(しろ)


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9/12

お風呂での推理

 「美穂さーん、今日の捜査でー、わかったことはありましたかー?」

 バックミラー越しに最上と目が合う。

 うわっ、明らかにイエスと言えという視線が注がれてるんですけどっ。

「あ、当たり前じゃないっ」

「そうですかー、もう犯人はわかりましたかー?」

「まだ、そこまでは……情報の整理も必要だし……」

「そうですよねー。ななみもさっぱりですー。」

 ななみは手のひらを上げながら首を左右にふる。



「あー。でも、もし、犯人がわかったらー、ななみに連絡してくださいねー」

 ななみ先輩の携帯電話のプロフィールを受け取る。

 データの中には、携帯の電話番号以外、名前も入っていなかった。

 仕方なく、編集をして、『ななみ先輩』と打ち込む。

 携帯への電話帳登録が済んだ頃、

「到着ですー」

 ななみ先輩の間延びした声とブレーキ音が同時に、耳に入ってきた。

 車が止まった場所は、私のアパートの前だった。

 あれ? 私、住所教えたっけ?

 あっ、分かった。これは、私の個人情報など、もう明らかにしているよっていう、最上さんの言葉なきメッセージだねっ。いわゆる、言葉なき意思表示ってやつだねっ。

「ありがとうっ」

 送ってもらったことに感謝を込めて、満面の笑みでお礼を言う。



 すると、ななみ先輩は、私に手の平を向けてきた。

「えっとー、この手は何ですかっ?」

「リムジン貸しきりの料金徴収ですー」

「え? 料金発生すんの?」

 リムジンって借りたらいくらなの? ハワイでは、普通タクシーと同じって小耳に挟んだことあるけど……

 ここ、ジャパンだしっ。私、千円も持ってないしっ。

「いや、私、お金あんまり持ってなくて」

「冗談ですよー」

 一瞬、びびった。これが、セレブジョークなのか?

「そのかわりー、この事件、必ず解決してくださいよー」

「はぁ」

 曖昧に返答をして、黒リムジンを見送った後、家へと駆け込む。



「ただいまっ」

「おかえりなさい。美穂さん。遅かったですね。心配していたのですよ」

 腕時計を見ると、十八時前だった。体育館で解散してから、三時間以上も経っている。

「ちょっと、道に迷っちゃって――」

「あっ、そうだったのですか? わたくしはてっきり、昨日の事件を起こした 変質者を捕まえようとしているのではないかと心配でした」

 うっ、するどいっ。

「そ、そんな危険なことできないよっ」

「そうですよね」

「そうだよっ、私は迷子になっちゃっただけ」

「迷子になるなんて、本当に、美穂は、マルキュウだな」

 ちさ姉とのやりとりを立ち聞きしていたマドがうすら笑いしながらバカにしてくる。

「誰のせいだと思ってんの? しかも、なに? マルキュウってっ? 人のことをモロキューみたいに言わないでよっ」

「モロキュー? ははは。傑作、傑作」

 くっ。本当に、マド、むかつくっ


「きっと、姉様は、渋谷0○9(ゼロマルキュウ)に居そうなかわいい娘のことを言っているのですよ」

 あっ。なるほど。さすがはちさ姉っ。『渋谷0○9(ゼロマルキュウ)に居そうなかわいい娘』って意味かっ。

 ……って、明らかに違うでしょ。

 ちさ姉、それをさっきのマドの発言を適応させたら、きっと、ちさ姉は渋谷街の女の子を全員敵に回しちゃうからっ。

 ちさ姉の見当違いの解答に、マドは声を殺して涙を浮かべながら笑っていた。

 もうマドはスルーしようっ。


 あっ、そうだっ。

「ちさ姉、これ、言われたもの、買ってきたよっ」

 鞄に詰め込んでいた、調味料を差し出す。

「ありがとうございました。お礼と言ってはなんなのですが、お風呂、沸いていますので、お先にどうぞ。その間にお夕飯作っておきますから」

 ちさ姉はお風呂に入るように促す。

 ありがとう。ちさ姉。

 でも、お風呂よりも、ご飯よりも、ちさ姉が……


 

 ……って、美穂のバカ馬鹿っ。何、妄想してんのっ?

 世の中には、妄想していいことと、悪いことがあるのっ。

「美穂、妄想で暴走してるところ悪いんだが、はやく、風呂に入ってくんない?」

 マド、私のしこうを読むなっ。二つの意味でっ。

 私は、マドから逃げるように、お風呂場へと向かった。


「あーっ」

 お風呂って、最高っ。きもちいいっ。今日の出来事全てが、お湯へと伝わって流れていきそうだよっ。今日の出来事、さようなら……

 ……って、だめだめ。はじめから、整理しなきゃ。

 まず、二度寝をして頭をぶって、朝に走り、そして、自己紹介中に眠って……

 ……って、違う、違う。今日の捜査のことっ。なんで、人間、失敗の方を思い起こしちゃうんだろう? 人体の不思議の一つ。

 真面目に、考えないとっ。

 内部犯の場合、実質的に犯行が出来る人は、いない気がする。

 ぶくぶく。

 鼻の下までお湯につかりながら考える。

 ……

 ……あれ? ちょっと待てよっ。朝のこと? そういえば、あの人、あの時っ。

 ……あの人の証言も……

 そうかっ。そう考えると、あのことも、このことに繋がる。


 あとはっ、こうだっ。

 やったーっ。全ての謎が一本に繋がったっ。

「きゃー、タオルだけで、部屋の中をうろうろするなんて、はしたないですよ、美穂さん」

 ごめんなさいっ。ちさ姉。もし、裏付けがとれたなら、事件が解けちゃうかもしれないから、一刻でも早く電話しないと。


 はやく出てっ。ななみ先輩っ。

「もしもーし、美穂さんですかー?」

「うん。あのね、ななみ先輩、最上さんに確認してほしいことがあるのっ」

「確認ですかー?」

「うんっ。あのね……」


 あとは、確認が取れれば、事件は解決したも同然だよっ。


 ななみ先輩に電話をかけた後、すぐにパジャマに着かえる。

「ご飯できましたよ」

 グッドタイミングで、ちさ姉の声。

「はーいっ」

 廊下へ出ると甘辛い香りが、鼻孔をくすぐった。

 今日はカレーかっ。

 今朝と同じ位置に座って、ちさ姉のカレーを待つ。

「はい。どうぞ」

 ちさ姉がランチマットの上にカレーをのせてくれる。今日は豪華に、福神漬けとらっきょうがついていた。


「ありがとう。いただきます」

 三姉妹がそろったところで、カレーを食べ始める。

 ちさ姉の特製スパイスカレー、おいしいよっ。

 辛すぎず、甘すぎずの中辛。これはたまりませんなっ。

 それに、いつも以上に美味しい。

 きっと、捜査という名の労働に従事したあとだからかな? 最上さんの捜査結果次第では、もしかしたら、解決できるかもしれないしっ。

 心晴れ晴れだよっ。ああ、愉快、愉快っ。

 きっと食べる人の心の持ちようで、食べ物の味も変わるのだろうなっ。

 うんっ。今日もご飯はおいしいっ。

「おかわりっ」

 ……

「ご馳走様でしたっ」

「はい。お粗末さまでした」

 懐かしいけど、一年前までは、いつも当然のようにやっていたやり取り。いやー、家庭が一番落ち着きますなっ。

 うー、いっぱい食べたっ。

 お腹の中が、パンパンだよっ。

 ちさ姉の特性カレー、お店で市販されてるものより、おいしいんだけど、一体何が入っているんだろっ?

「ねえ、ちさ姉、いっつも聞いているんだけど、このカレーのスパイスは主に何を使っているの?」

 いつも、『それは、秘密です』とはぐらかされるからなっ。今日は、はぐらかされないようにしないとっ。

「それは――」

「ちさ姉、いつもの、『秘密です』は、無しだよっ」

「仕方ありません、お教えしましょう」

 お? ついに、ちさ姉の口から、秘伝のスパイスの名前が。

「他の方には絶対、内緒ですよ。その名は……」

 その名は?


 

「ニトログリセリンです」

 ニトログリセリン……って名前、どっかで聞いたな。

 そうだ。甘くて、刺激的な、かやくだっ。

 ……って、ちさ姉っ? ……というより、マドっ。

 マドは口元にカレーをつけながら、にまにまと笑っていた。

 マドの表情が今日のコンビニでの苦い記憶を甦らせる。

 あーっ、もうっ。

「あれ、美穂? カレーそんなに辛かった? 顔が真っ赤だよ?」

 あーっ、もうっ。

「辛かったっ。ええ。辛かったですともっ」

 からかったというより、恥ずかしい思いして、つらかったんだけどねっ。からいとつらいが同じ漢字であることを今、思い出したよっ。

 心の中で涙を流していると、

「美穂さん、まだ、八時ですが、この後はどうしますか?」

 ちさ姉の声。

「もう、寝ます」

 ええ、寝ますともっ。恥ずかし過ぎて、ちさ姉とは、顔も合わせられないよっ。

 子どもも寝ない時間だけど、今日は色々あって疲れたしっ。

「それでは、おやすみなさい」

「うんっ。おやすみっ」



 チャン、チャンチャチャチャンチャンチャン、チャ、チャンチャチャチャン……

 朝、携帯電話の着信音に起こされた。

 昨日は、興奮して、あまり寝られなかったんだから起こさないでよ。

 誰だ? まだ、朝の十時だぞ……

 ……って、十時?

 遅刻だっ……って、今日は休みだって、雪江が言ってたじゃないか。

 誰なのだっ?

 あっ、ななみ先輩か?

「もしもし」

「もーしもーし、美穂さんが言っていたことの確認がとれましたよー。美穂さんの言うとおりでしたー」

 よしっ。これさえ確認できれば、あとは、推理ショーをするだけだっ。

「先輩っ、私、犯人がわかっちゃいましたっ」

「本当ですかー?」

「はいっ、それで、先輩っ、奏家に容疑者を集めてくれませんかっ?」

「今からだと、お昼になりますがー、良いですかー?」

「もちろんっ」

「それではー、十三時に奏さんのリビングに来てくださいー」

 よしっ。後は、ブランチを食べて、奏さんの家に行けば、オッケーだねっ。


 身支度を終えて、床の間に向かうと、バターロールとメモが置いてあった。

 メモには、『バイトへ行ってきます。ホームベーカリーで作ったパンです。良かったら朝食にどうぞ。牛乳は冷蔵庫です』

 ううっ。ちさ姉、ありがとう。

 感謝しつつ、レーズンパンを味わい尽くす。

 ブランチも食べ終わったし、そろそろ行きますかっ。


 

「あら? 美穂さん、何処かへ行くのですか?」

 出かけようとした瞬間、すれ違い様に入ってきたちさ姉に引き止められる。

 うんっ。実は、お風呂場殺傷事件の犯人を捕まえに……とは、口が裂けても言えないなっ。しかも、偽警察手帳まで作って捜査してるんだっ。なんてことを口にしちゃった日には、どんなおしおきが待っているか分からない。

「うんっ。昨日仲良くなった、雪江ちゃんのところにっ」

 もっともらしい、嘘をつく。

「スーツの格好で行くのですか?」

 もっともらしくない嘘だった。失敗、失敗っ。

「立食パーティーらしいんだけど、フォーマルな格好で来いって、雪江が……」


 ……言ってないんですけどねっ。

「あら、そうでしたか。あいかわらず、美穂さんは、行動派なのですね。円葉姉様も少し見習ってほしいくらいです」

 ほっぺたを膨らませながらムーッとした表情。

 か……かわいいっ。

「あ、そうだ。レーズンパン、美味しかったよっ。ありがとうっ」

「いえいえ。お口に合って何よりです」

 ちさ姉は、満面の笑みで答える。

「それより、帰りは何時頃ですか? 今日は、四月八日ですよ?」

 あっ、今日は四月八日か……今の今まで忘れてた。

「大丈夫、十八時くらいには帰ってくるから」

「それなら良いのですが……不審者の件もありますから、あまり遅くならないでくださいね」

「大丈夫だよ。それより、マド姉は? 朝から見かけてないけど」


 

 もう、不審者の手に落ちたの? と言いたい。口が裂けても言えないけど。

「円葉姉様なら、おそらくまだ寝ています」

「えっ、もう十二時を過ぎてるよ?」

「休日はまったく起きないのです」

 呆れた表情でため息交じりのちさ姉。

「まったく、困ったマド姉っ。もうそろそろ、起こしてあげたほうがいいんじゃないの?」

「そうですよね。いくらなんでも眠り過ぎですよね」

 ちさ姉は自分に言い聞かせて、決断をしたようだ。

 うまく、話をそらせ、ちさ姉から解放された瞬間、

「それじゃあ、ちさ姉、行ってきますっ」

 玄関へ飛び出す。


 

 今日は学校へ行くわけじゃないから、スニーカーを履いて……と。

 履きなれた、白と青のスニーカーが足を優しく包み込む。

 はー。スニーカーの有り難さが今なら実感できるよっ。時々、潰し履きにしていて、ごめんよっ。君は凄いっ。感動したっ。

 おっと、スニーカーに感極まっている場合じゃないなっ。

 十三時三十分と伝えておいたから、まだ時間的余裕はあるよねっ。

 まあ、適当なお店探して、買い物してれば、時間潰れるだろうっ。

 今日も快晴でよかったっ。


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