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夢オチだったとしても……  作者: いたあめ(しろ)


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6/12

平穏な入学式?……と、はじめてのおつかい

「是非、茶道部にお越しになってください」全員が正座をしながら、深々とお辞儀をする。

「ありがとうございました」ステージ脇にいたはずの司会者がいつの間にか出口付近にいた。

 辺りを見回すとさっきまで体育館周辺にいた先生達も見当たらない。


 ……?

「最後は科学部です。それではよろしくお願いします」

 言うや否や、司会者は、体育館から、消え去る。

 嫌な予感がした時点で、ドーンという音とともに、体育館の至る方向から私目掛けて丸まったティッシュペーパーが飛んできた。



 え? なにこれ?

 その後、丸まったティッシュペーパーが……だんだんと広がっていき……何か粉みたいなものが……

 ……っていうか、粉が……ばさっと……

 はっ、ハックシュン。

 何これ? 目も開けられないほど痛い。

 涙を流しながら、ステージ上を注視すると、防毒マスクを着用した、二人組みがマイクを持って仁王立ちしている。



「僕たちは科学部である」

 フシューとマスクの音を鳴らしながら、どこか聞き覚えのある声。

「君たちは完全に包囲されている。逃げ出そうとしても無駄である。今、科学部特製の催涙弾を撃たせてもらった。ちなみに、作り方は、部員になれば、教えてやらないでもない」

「ただー、七味と胡椒をー、ティッシュに包んだだけですけどねー」

 さっきとは違う和やかな声。

「な。言うな。昨日、思いついただけってばれてしまうだろ」

「ごめんなさーい」

「ま、まあ、退学を覚悟で活動したいという、反社会的な諸君。我々は君たちの入部を求む。ただし、1年F組の小林美穂は含まない」

「本当にー退学まで追いやられた人もーいましたがー」

「だから、言うなって」

「それでは、ごきげんよー」

 と二人が声を重ねた瞬間、また、ドーンという音。

 また、丸まったティッシュペーパーが飛んできたので、とっさに、目をつぶり、右手で鼻をつまんで、左手で口をふさぐ。



 く、苦しい。い、息が……

 仕方なく、両手を離す。

 しかし、何ともない。

 恐る恐る目を開けると……

 やはり、何ともない。

 どうやら、何も包まれていないくしゃくしゃにしただけのティッシュだけだったようだ。

 また、騙された。


 くっそー。ブラックペッパーと七味が一晩のうちになくなったって、このためだったのかっ。

 わけの分からぬまま、あれこれ思案していると、雪江がむせながら、肩を叩いて、

「何であの人、美穂の名前をだしたんだ?」

 と尋問してくる。



 姉だ。……とは言えない。絶対に。

「私、子どもだから、よく分かんないやっ」

 誤魔化してはみたものの、雪江は白々しい眼差しをこちらにむけてくるだけだった。

 はいっ。美穂株、大暴落。今日はマンデーじゃないんだけどなっ。

 もしかして、新しい用語できちゃうんじゃないの? ブラックペッパーサタデー的なっ。

 今日は水曜日だけど。

「ありがとうございました」


 いつの間にか戻ってきた司会が、進行を続ける。

「みなさん? 入りたい部活に、来てくれるかな?」

「もっちろーん」

 反射的に、私一人で大声をあげてしまった。

 会場は、しーんと静まり返る。その次の瞬間、

「あーはっはっは」

 一人で大爆笑する数宮先生の声が、体育館内をこだました。

 先生、そんなに爆笑しないでください……ってこの人、いつの間に戻ってきたんだ? いつの間にか、他の先生方も戻ってきてるし。

 この人達は、危機的状況に陥ると、我れさきにと逃げて行く薄情者の集団なのか? あるいは、マドの提案に悪のりをする、のりのりな人達なのか?

 分かった。この先生達、一年生全員のノリを一気に吸収してしまったんだ。だから、みんなノリが悪かったんだ。そうに違いないっ。


「そ……それではこれで部活紹介を終わります」

 さっきまで、ノリノリだった司会の人さえひいている。

 空気が読めない烙印押されたなっ。

 ……

 何度も思うが、私の学園生活ははじまったばかりである。もう一度、朝から、やり直したい。

 ……



 そんな私の思いとは関係なく、入学式は恙なく進んでいく。

「先生方、何か諸連絡はありますか?」

「私から、一つ」

「それでは、数宮先生、お願いします」

 お? 我らが担任じゃん。『私に逆らうな』みたいなことでも言い始めるのかなっ?

「最近、西高校の周りに不審者が出ているという情報が入った。みんな、気をつけるように。以上」

「西高校って、ここから、十キロ以上も離れてるところじゃん。うちらには、関係ないよな」「いや、それより、あの数宮先生がまともなこと言ってるぜ」「まともなことも言えるんだ」

 体育館内……もとい、我がクラスがざわめく。他のクラスは聞いているのかいないのか、なんの反応もない。

「他にはありますか?」

 司会が上手に場を仕切り直したため、体育館の中は静まり返った。

「ないようなので、これで入学式を終わります。みなさん、気をつけてお帰りください。さようなら」

 家に帰るまでが入学式とでも言うのか?

 子どもじゃないのだよっ。まあ、雪江には、子ども宣言したばかりだけどさっ。

 でも、今朝、不審者を目撃したばかりだから、気をつけないとなっ。



 ……あっ、そうだ。コンビニ行かなきゃ……

 学校の帰り道、ちさ姉のおつかいのことを思い出した。

 ちさ姉。私は任務を成し遂げます。乙女、小林美穂、ここに散ります……ってこれは、大げさか。

 えーっと、コンビニは、うちに帰る途中の分かれ道を左に曲がれば……

 道を確認しつつ、信号を待っていると、

「ねえ、美穂」

 子どもの頃から聞きなれた悪魔の声。振り返る。

 が、そこには、誰もいなかった。

 疲れてるんだな、私。そうだ、そうに違いない。今日だけで何回もあのお子様にやられたんだ。絶対そうだ。

 納得していると、



「わざと、下の方を見なかっただろ。僕のこと無視すんな」

 かかとの痛覚に衝撃が伝わる。

 いたたた……

 振り返って、足元に視線を下ろすと、そこには、マド……いや、悪魔の申し子がいた。

「ちび」

 ぼそっとはき捨てるように言うと、ガンッと足の小指を、無言でスプラッタ。

 いったー。

「それよりも、美穂ちゃん。家への道は右でちゅよ。迷子になる気でちゅか?」

 マドは赤ちゃんに話しかけるかのように、私をバカにしてくる。

「私は、大人ですっ」

「ああ、悪かった。迷子じゃなくて、迷大人って言えばよかったかな?」

 キーッ。馬鹿にしてっ。

「コンビニへ行くんですっ」

「コンビニ?」

「今朝、ちさ姉に頼まれたのっ。この私がっ」

「頼まれた?」

「マドもいたでしょ? あっ、テレビに夢中で覚えてないんだっ。どっちのほうがお子様か白黒ついたみたいねっ」

 ぷぷぷっと笑ってみせた。


 □□□


 今朝のこと、今朝のこと。

 サイエンスOO(ダブルオー)のことなら、一言一句正確に覚えているのだが、会話には気をつけてなかったな。

 曖昧な美穂と千里の会話の記憶を辿っていく。



『みほさん。すみませんが、学校の帰りでよいのですが、かやくを買ってきていただけませんか?』

 とお願いしていた気がする。

 そして、確か、

『……ば、くだんのことなのですが……』

 みたいなことを言っていたな。えーとこの後、美穂が耳打ちをしていたような気がする。


 整理すると、かやく→ばくだん→耳打ち。



 つまり、千里は爆弾に使う火薬がほしいので、内密にコンビニへ向かわせたってことか。まあ、コンビニの方向なら、計画に支障はないっ。むしろ好都合だっ。ナイス、千里っ。

「あー、思い出した。そういえば言っていたな」

「私、おつかいしないといけないの。コンビニまで」

「しかし、いくら僕が生まれてこの方コンビニへ行ったことがないからって、何も美穂に頼まなくてもいいのに。僕の方が火薬には詳しいのに」



「華の女子高生がコンビニ行ったことないの?」

「当然だ。用がない。ご飯は全部、千里が作ってくれるしな」

 美穂はすごく呆れた顔をしている。用がなければ行かない。区役所に用事がなければ行かないのと同じように、これは自然の摂理だと僕は思うのだが、美穂の観点からすると、違うらしい。

「それよりも美穂。火薬はコンビニに売っているのか?」

 僕の記憶が確かなら、火薬は危険物に属するはずだ。

「分かんない。もし、売ってなかったら無理して買わなくてもいいって。おそらく売っているだろうけどね」

「そうなのか。売っているのか。僕がニトログリセリンを作るのにどんなにっ苦労したか……先生に実験すると騙して、硝酸と硫酸を手に入れてグリセリンを冷やしながら……」

「ふーん。賞賛? グリコ? リン? よく分かんないけど、その努力は無駄だったねっ。残念でしたっ」

 適当に美穂が流すので、自分の苦労話を語ることをやめ、コンビニについての情報をできうる限り得ようと考えた。



「コンビニって、便利なところだったのだな。しかし、火薬を購入するとなると、(危険物取り扱いの)免許とか必要なのか?」

「なんで、加薬を買うのに(調理師)免許が必要なのっ? 誰でも普通に買えるよっ。小学生でも問題ないしっ」


 小学生でも買えるって、そんな馬鹿な。

 火薬が誰でも購入できたら、町中、テロ騒ぎだろ。

 今日の仕返しに嘘をついているのかと思いきや、美穂は至って大真面目に答えている。どうやら、嘘ではないらしい。

 日本という国は本当に平和なんだと言わざるを得ないな。



「それよりさ、さっきから言ってる、ニトログリセリン……だっけ? それって、どんな味なの?」

「味?」

「加薬なんでしょ? 味くらいみないと」

「グリセリンは甘いから、ニトログリセリンも甘いと思うが……」

 最近の若者は、自分で作った火薬の味をみて、威力を確かめるのだろうか? 美穂に知識を教えられるなんて、かなり悔しい。



「甘いのっ? 甘いのが好きなんて子どもだねっ」

「だが、(威力は)一番刺激的だと思うぞ」

「甘くて、刺激的なんだっ。それ、新しいね。今日コンビニにあったら買ってみようかなっ。ニトログリセリンっ」

「美穂に扱えるかどうか……」

「馬鹿にしないでよっ。私だって、ちょっとくらいの経験(料理)はあるんだからっ」

「そうなのか? じゃあ、前言撤回だ。科学部に入部しろ」

 美穂がまさか、爆弾に興味をしめしてくれるとは思わなかった。

「一億円だされてもお断りっ。それなら、家政部に入りますっ」

 家政部は爆弾なんか取り扱わないだろう。美穂は、何を言っているんだ?

 疑問が解決しないまま、コンビニへ着いた。



 □□□


 マドはコンビニにつくやいなや、

「千里のおつかいは、美穂に任せる。僕は、重要な機密任務を、コンビニエンスストアという空間に課せられた。ただちに遂行しなくてはならない。GOOD LUCK! My sister!」と言い残し、本のコーナーへスタスタと行ってしまった。



 パソコン雑誌を立ち読みすることが、機密任務ね……



 まあ、こんな子どもは放っておいて、調味料でも探しますか。

 あった、あった。七味に、胡椒……と。オッケー、オッケー。

 ニトログリセリンは……なさそうだね。オッケー、オッケー。次の機会にだねっ。

 レジへ向かう途中、お菓子コーナーが私の足止めをした。



 むっむー。最新作のチョコとにらめっこ。ウィナーお菓子っ。

 むっむー。自分のお財布とにらめっこ。ウィナーお菓子っ。

 むっむー。自分の体重とにらめっこ。ウィナー体重っ。

 ぐすん。スポーツしないで勉強ばっかりだったから、乙女としては、ちょっと気になるよねっ。

 よしっ。買わないっ。とりあえず、おつかいだけは済ませよう。



 レジへ向かうと、マドが私の買い物かごを一瞥して、

「ニトログリセリンは?」耳打ちをし、店外へ出て行った。

 探したけど、なかったんだよな。ここは、レジ打ちをしている理科系の男性店員に聞いてみようっと。

「すみません。ここの店にニトログリセリンって置いてますか?」

 こういう時って、印象がたいせつだからなっ。できるだけ、明るく、笑顔でっ。

「ニトログリセリン? ニトログリセリンって、危険物第五類に属し、ダイナマイトの原料になる、あの爆薬の? 置いているわけないじゃないですか。あなた、満面の笑みでテロでも起こすつもりですか?」

 店員さんはびっくりしながら、声を荒げる。店内からの視線が痛い。

「最近の高校生は本当に何考えているんだか?」「あの子、進学校の生徒でしょ?」「大変なことになる前に、きちんと学校で指導してもらうよう、校長に訴えようか?」

 そのような声が聞こえてくる気がする……被害妄想だけどっ。



「も、もちろん、冗談ですよ」

 作り笑いをしながら、なんとか誤魔化す。

「そうですよね。ああ、びっくりした」

 なんとか誤魔化せたようだ。

 『コンビニの中に、高校の関係者がいませんように』と心で念じながら、会計を終えて、脱兎のごとくコンビニを後にした。



「マド? これはどういうことっ?」

「いや、『かやく』違いだったんだな。これが」

「いつ気づいたのかしら? お姉様?」

 できるだけ怒気を込めてちさ姉のように尋ねる。

「美穂の買い物かごを見たとき」

「それを知ってて、私にニトログリセリンを買うように促したの?」

「間違えた。ニトログリセリンって言い終えてからだった。てへ」



 なにが、『てへ』だっ。かわいくないからっ。この確信犯めっ。

「もう、3度も騙されてるんだけど? 今日だけで」

「まだ数えられるほど少なかったっけ?」

 いけしゃあしゃあと答える。

 マドのくびねっこをふんづかまえて、おもいっきり足を踏みでもしないと、この怒り、収まらない。

「マドっ。まてっ」

 私が追いかけると脱兎のごとく、疾風のごとく、当然のごとく、マドは逃げ出した。



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